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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第2章 揺れる心

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82 やっと落ち着いたと思ったら

 リンシェルアに挨拶して部屋に戻ったリュアティスは、食堂へ行くのをやめ、夕飯は部屋に運んでもらうことにした。

 少しでも長くエリスレルアからの手紙に浸っていたかったのだ。

 寝室のベッドに転がって、サイドテーブルに置いている手紙を、時々手にとっては戻す。


 なくなってしまったけれど、あの手紙を書いてよかったと心から思う。

 少し反則だったかもしれないけど、かなり長い間抱きしめていられたし。


 数日で王都に帰らなくてはいけないが、それは試練の一つだと考えよう。

 鍛練を重ね、もっと強くなるための。


 そんなことを漠然と考えていたリュアティスの胸に、エリスレルアの叫び『声』が聞こえてきた。


『でも!

 リュアティスさんに宛てた手紙だから、リュアティスさんだけはギリギリOKなだけなの!

 それ以外は、だめなのーー!!』


 急にどうしたんだ?


『エリスレルア!!』

『リュアティスさん!?』

『どうかしたの?』

『私、リルちゃんに、手紙、読ませてあげるって言ってたの!

 でも、間違ってるから、心がソワソワして、恥ずかしいの!』


 間違ってる?

 ああ、あれは婚約者宛てだから婚約者じゃないと読んじゃダメ的なことを言ってたな。


 僕は、婚約者じゃない、とも……


『エリスレルアは間違っているって思ったかもしれないけど、僕からしたら、全然間違ってない。

 あなたは僕のことを婚約者だと思えないかもしれないけど、僕にとっては、あなたは大切な婚約者なんだ』

『でも、コンヤクシャじゃない人にあんなこと言っちゃいけない気がして!』


 婚約者じゃないって言われるたびに……なんか、傷つく……


『……エリスレルアは、僕のこと、嫌いなの?』

『え?』

『もう、星の世界に一緒に行きたくなくなってしまった?』

『っ! そんなことない!』


 よかった。


『じゃあ、あなたを守っている星たちが僕を守るのがイヤになったとか?』

『守ってほしいけど……』


 少し間が空いて続きが聞こえてきた。


『守ってほしいって思ったって思われるのがイヤ……かも……』


 つまり……こっそり思っているだけにしたかった、ってこと?

 僕に置き換えると、どうなる?


 こっそり思っているだけ……というと……それはやっぱり……


 ボッて音がしたんじゃないかと思うくらい、顔が熱くなった。


 いや、違う!

 って、だって、僕だって、その、健全な青少年だし!


 ていうか、彼女の思っていることと僕の思いついたこととじゃ、全然恥ずかしさのレベルが違うけど、確かに、今現在隠しておきたいことが伝わるのは、恥ずかしいかも。


『……リュアティスさん?』


 落ち着け。

 僕の話をしているんじゃないんだ。

 これは、エリスレルアの悩み相談なんだ。


『今の自分だと伝えちゃいけないなって思ってることが伝わっちゃうのがイヤなのは、僕だってそうだよ。

 けどそれは、相手の人がそんなの聞きたくないって思ってるかもしれないって、思うからでしょ?』

『……よくわからない』

『エリスレルアの場合だと、そんなふうに思うのは、僕のことを婚約者だと思えないからでしょ?』

『……うん』


 傷つくーー!

 はっきり言って、泣きたい。


 でも、彼女の『婚約者じゃない』っていうのは『婚約したくない』っていう意味ではない。

 婚約者かどうかの判断は、ずっと抱きしめていたいかどうかだ。


 考えようによっては、彼女の意識の上では僕は婚約者……ずっと抱きしめていたい人ではないけれど、心のどこかではずっと抱きしめていたいと思ってくれていて、それを……って、まぎらわしい。


 えーい!

 『婚約者』ではなく『恋人』と言い換えてみよう。


 考えようによっては、彼女の意識の上では僕は恋人ではないけれど、心のどこかでは抱きしめていたいと思ってくれていて、それを知られたくないとか、認めたくないとか、そういうことなのではないだろうか?


『エリスレルアは、その気持ちを人に知られたくないのかもしれないけど、僕は知りたい。あなたが僕のことを守りたいって思ってくれているってわかって、本当にうれしかったんだ。

 だから、恥ずかしいなら話さなくていいし、書いた手紙を他の人に見せなくてもいいけど、僕にはなるべく隠さないで、思ったことを伝えてほしい。

 でも、僕にも言いたくなければ、言わなくていい』

『……わかった』


 エリスレルアから感じる『声』の調子が穏やかになった。


 なんとか、落ち着いたかな?


 エリスレルアを落ち着けようと話していたお陰でリュアティス自身も少し落ち着き、寝室から出て、部屋へ持ってきてもらっていた食事を食べ始めた。

 スープが冷めていたので、小さな炎の魔法を発動して温める。


「いい感じだ」


 元々はそんなことに炎の魔法を使おうなんて思いもしていなかったリュアティスだったが、レミアシウスがポットに入った水を瞬時に温めてお茶を入れているのを見て、自分もできないかと練習していたのだ。


 異世界から来た二人は、とても便利な『魔法』を使いまくっていて、それをこっちの魔法で再現するのが現在のリュアティスの楽しみというか、趣味のようなものになっていて、今一番熱心に取り組んでいるのは、転移魔法だった。


 転移魔法の詠唱は、中に転移先を入れ込まなくてはならないのだが、それがものすごく難しくて、今のところ熟知しているところにしか転移できない。

 誘拐犯が使っていた魔石を使った転移は、どちらかというと転移というより召喚に近く、指定された対象者を転移先に呼び寄せるものだ。

 これの応用で、リュアティスが魔石を持っておいて、ネスアロフに飛び先にいてもらい、リュアティスがその魔石を発動すれば飛んでいけるところまでは上手くいっている。


 だからリュアティスは、今回のことでこっちへ来たついでにリンシェルアのところに魔石を置いてもらって実験を試みたいと思っていた。

 王都にいる時だと、飛んだだけで帰れなくなってしまうと困るので、実験にはどうしてもエリスレルアの『力』が必要だが、ここだと公爵邸か伯爵邸のどちらかにいるだろうから、馬車で移動可能だし、最悪、移動しなくてもいいからだ。


 食後の紅茶を飲みながら、まあ、それはゆっくりでいいかなと、思っていたら、扉がノックされた。


『リュアティスさん! エリスレルアだよ~』


 え!?


 急いで扉のところに走り、それを開けると、本当にエリスレルアが立っていた。

 わざわざ来てくれたのだからと、部屋の中へ入れながら聞いた。


「どうしたの?」

「これ、おにいさまから!」


 彼女が差し出したのは一通の封筒だった。


 これは……メッセージカード?

 テレパシーが使える彼が、どうしてわざわざカードを?


「お茶いれるから、適当に座ってて」

「うん!」


 魔道具を使ってお湯を沸かしながらカードを読んだリュアティスは、それを取り落としそうになった。


 ……………え……………

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