81 寂しさと配慮
先に部屋に戻ったエリスレルアはちょっとだけ考えて、リルテに手紙を書くことにした。
テーブルに便せんを置いて、ペンにインクを付ける。
「まずは、【親愛なる、リルちゃんへ】だよね~
で、【リュアティスの手紙を】……違った。
【リュアティスへの手紙を読んではダメ、と言って、ごめんなさい。】かな!
【大体の内容は、いつか星の世界に行きたいということと、フェンリルちゃんのことでした。リルちゃんのところへ飛べたことも書きました。】と」
ここまでは、リルテに読まれても構わなかったのだ。
次からが、今思い出すと、恥ずかしい。
書いた時は素直に自分の気持ちを書いただけだったのに、本当のコンヤクシャはリュアティスさんのことをずっと見てきたあの人なんじゃないかと思ったら、急に恥ずかしくなって、わーって叫んで逃げ出したくなった。
エリスレルアはペンを置いた。
リュアティスさんは、私に向かって何度もコンヤクシャだと言ってくれた。
それは、ずっとギュッて抱きしめていたい人だって言ってくれたのと同じだ。
私は?
リュアティスさんが死んじゃったらどうしようって思った時、抱きしめていられなくなるのはイヤだと思った。
それは、ずっとなのかな?
キョロキョロと辺りを見渡して寝室にクッションがあるのを思い出したエリスレルアは、寝室に行ってクッションを抱きしめてみた。
やわらかくて心地よかったが、当然のことながらクッションから光は伝わってこない。
急に寂しくなって、泣きたくなった。
なんだかおかしい。
光のことを考えると、ホッとするけど悲しくもなる。
楽しいけど寂しい。
なんだろ、これ……
―――もしかして、優しい光がないのが寂しいのかな?
その時、レミアシウスが戻ってきた。
☆ ☆ ☆
リルちゃんに励まされるとはなー。
セルネシウスに何を聞かれるのだろうと気が気ではなかったレミアシウスだが、リルテの発言に微笑みたくなって、何とか食事を終えることができた。
とにかく、エリスレルアに詳しく聞かないと。
部屋に戻ったレミアシウスは、先に戻っているエリスレルアの姿を探した。
「エリスレルア! ……あれ?」
姿が見えない。
「エリスレルアー?
どこにいるんだー?」
寝室かな?
行ってみると、開いたままになっている扉の隙間から、クッションを抱きしめて床に座っているのが見えた。
何やってるんだ?
って、泣きそう!?
今までの経験上、精神的に不安定になっている彼女には細心の注意を払って接しなければならないとよーく知っているレミアシウスは、そっとリビングに戻り、テーブルにあった果物を使ってミックスジュースを作った。
寝室の扉の前まで戻ってノックする。
「ジュース作ってきたぞ」
「! おにいさま!」
クッションをその場に放り、エリスレルアが抱きついてきた。
「わっ!」
突然の突進に、ジュースの入ったグラスを落としそうになった。
?? なんなんだー?
ギュッと抱きしめられて戸惑っているレミアシウスをしばらく抱きしめたあと、エリスレルアは離れた。
「……おにいさまのは、ちょっと違う」
はぁ!?
「どういうこと?
あの……ちょっとでいいから、わかるように説明してくれないかな?」
「え?
えっと……おにいさまの光だと、少し落ち着くの。
でも、少しなの」
「そ、そうなの?」
……聞いてもわからなかったけど、なんとなく……微妙。
「けど、おにいさまのジュースは最高なの!
ありがとー!」
「お、おぉ」
ジュースを受け取り、エリスレルアはテーブルに戻ってそれを飲み始めると、浮き沈みの激しい彼女から発せられている光が安定した。
どうやら落ち着いたかな。
今なら普通に聞けそうだ。
「ねえ、エリスレルア。
その……どこでにいさんと話したんだ?」
「リスの森だよ~。
お花取りに行ったら、『声』が聞こえたの」
「にいさん、なんて?」
「元気? って!」
それは、まあ、そうだよね。
にいさんと離れてから、もう数十日以上経ってる。
って、地球で既に30日くらい経ってたから、それも入れると、100日以上経ってることになる。
その間、こいつがにいさんのところに行きたいって言わなかったこと自体、実は奇跡なんじゃないか?
「だから、リルちゃんと遊んだりして楽しかった、って言った!」
「それだけ?」
「うーん?
楽しかったけど、悲しかったこともあったって言った。
リュアティスさんが、いなくなりそうだったとか……
でも、セルネシウスおにいさまの光は、やっぱりとても落ち着くの!
それで、リュアティスさん呼ばなくてもよくなって、すぐに帰って来られたの」
エリスレルアは、ルイエルト星にとってとても大切な姫だけど、ルイエルト星人の精神的な支えになるのはにいさんだからなー。
って、リュアティス君の話をしたのか!?
「リュアティス君のこと、何か聞かれた?」
「ううん」
そうなのか。
「にいさん、ほかに、何か言ってた?」
「えーーとねぇ……
明日、何時でもいいからレミアシウスおにいさまをここに連れてきてって言ってたよー!
久しぶりに話したいって!
それで、『今日の通信は終わり! またね!』って言ってた!」
『今日の通信は終わり』で『またね』ってことは、明らかにテレパシーで交信できるってことだよな。
つまり、この世界を特定できてるってことだよな……
椅子に座って、自分の分のミックスジュースを作り、一口飲んだ。
世界が特定できたら、迎えに来るって、にいさん、言ってた。
言うっていうか、思ってた。
でも、こっちに来てないのは、なんでだ?
きっと理由があるはず。
それに、にいさんのことだから、エリスレルアが不安定な精神状態だってことに気づいているはず。
だから、急には連れて帰らないんじゃないかと思う。
けど、状況によっては、一瞬で連れ帰られてしまうかもしれない。
メッセージカードにメッセージを書き、封筒に入れて封をする。
「エリスレルア」
「何?」
「それを飲んでからでいいから、これをリュアティス君に届けてくれるかな?」




