75 違いは何?
ん~~~~
見……ない? 見…らい?
違う気がする。
見たし……
「先生! たい、は、どう書きますか?」
「それはですねー」
「おー、なるほど!」
「しぇんしぇい! がんばるは、どう書きましゅか?」
「それは、こうですね」
「はい!」
窓辺に置いたテーブルで、エリスレルアとリルテは手紙を書いていた。
二人の間にリザフィーナがいて、両側からの質問に答えている。
(なんだか、とっても幸せだわ!)
リザフィーナがニコニコ笑いながら見守っていると、リルテが手を挙げた。
「しぇんしぇい、できました!」
「はい」
「おかしくないか、見てくだしゃい」
「わかりました」
【王妃様
リルテです。
お手紙ありがと!
レルたんとはいつもなかよしです!
王子様ともなかよくなるように、リルテはがんばります!
リルテより】
「とてもよく書けていますよ」
「やった!」
「いいなー、リルちゃん」
「レルたんは?」
「んー、もうちょっと。
なるべく長くって、リュアティス、言ってたし」
「しょっか……リルテも長くしようかな……」
そう言って、リルテは自分の手紙を見つめた。
「でも……何書いたらいいかなぁ……」
「うーん……最近、王妃様がリルちゃんにしてくれてうれしかったこととかを書いたらいいんじゃないかしら?」
「おおー。リルテ、しょれ、書く!
しょう言えば王妃しゃま、リルテのしゅきなお花、プレジェントしてくれた」
ほほー。
リュアティスさんが、最近してくれてうれしかったことか…
えーっと……最近だと、フェンリルちゃんを治してくれたことかな!
あと………そのあとの、ハグ?
ふんわりとした優しい光を思い出して、胸がドキドキしてくる。
あ、そのあとのパワーもすごかった!
えっと……ハグ……って、どう書くんだろう?
「先生、『ハグ』ってどう書くの?」
「ハグ? (って、何かしら?)
あの、エリスレルアちゃん、ハグって何?」
「えっ、ハグは……何だろう?」
説明が、難しい……
少し考えて、エリスレルアは席を立った。
「先生、ちょっと、立って」
「? えぇ」
リザフィーナが席を立ち、エリスレルアの前に来ると、その身長はリュアティスより少し低いくらいだった。
なんとなく、リュアティスさんの横にいるのが、いい感じな感じ。
私は、少し、低いかも……。
あ、背比べしてるんじゃなかった!
ハグよ、ハグ!
その身体をふんわりとハグするエリスレルア。
「これがハグです」
「えっ、なるほど……と……これはですね」
(抱きしめる、とかよりは、やわらかい感じよね?)
軽く握った右手の人差し指を口元に当てて考えているリザフィーナを見て、エリスレルアは何か、羨ましくなった。
何が羨ましいのかな?
「優しく抱き寄せる、かしら?」
「……」
「エリスレルアちゃん?」
「あ、はい!」
えっと。
優しく抱き寄せてくれたのも、うれしかったです。っと。
あの時、リュアティスさんは。
フェンリルちゃんを助けてくれて、優しく抱き寄せてくれて。
それから。
パワーをくれた!
そのパワーでフェンリルちゃんと森に飛んで。
それからリンシェルアのところに行って。
それからリルちゃんのところに行って。
それから………
そこまで書いて、エリスレルアは、リュアティスからの手紙が破られたことを思い出した。
胸が痛くなる。
ペンを握り締めてうつむいてしまったエリスレルアに、リルテが気づいた。
「レルたん、どしたの?」
「リルちゃん……リュアティスの……」
自分を見ているリルテを見て、エリスレルアは言葉を止めた。
そうだ、あの時リルちゃんも泣いてた。
私が泣いたら、リルちゃんも泣いちゃうかも。
小さい子、泣かしたら、ダメだよね。
泣きたいのを我慢して、エリスレルアは顔を上げた。
「リュアティスの……好きなものは何かなって思って」
泣きたい気持ちをごまかそうと思って言ったセリフに、リルテはにっこりと笑顔を返した。
「なんだ、しょんなの、決まってるじゃない。
レルたんだよ!」
「え? 私?」
「しょーだよ~。しょれしかないじゃない」
「え! そうなの?」
二人の会話にリザフィーナも参加。
「しょうだよ~。しぇんしぇい、気ぢゅかなかったの?」
「気づかなかったわ!」
えぇ!?
「違うよ、リルちゃん!
好きなものっていうのは、お花とか食べ物とかだよー。
私じゃプレゼントできないじゃない」
「「え?」」
もー。リルちゃんったら。
とエリスレルアは思っていたが、リルテも、レルたんったら、と思っていた。
「リュアティス、リスの森の、水色のお花が好きよね?」
「え? リスって何?」
リルテがリザフィーナの腕を引っ張った。
「しぇんしぇい、レルたんが言ってるの、森にしゅむ妖精しゃんのことなの」
「えっ! 妖精!?」
「ちょっと取ってくるね!」
そう言うとエリスレルアはテレポートした。
「????? き……消えた……」
エリスレルアのテレポートを初めて見たリザフィーナは、卒倒しそうになった。
「しぇんしぇい! しっかり!
これは、レルたんの魔法だよ!」
「……ま……魔法?
詠唱は? 魔法陣は?」
「レルたんの魔法、しょんなのいらないの」
平然と手紙の続きを書き始めたリルテに、リザフィーナは、これくらいのことで驚いていてはこの子たちの先生はできないのだと、心に刻んだ。
☆ ☆ ☆
リスの森の泉のほとりで水色の花を摘んだエリスレルアは、手紙の続きをここで書こうと思いつき、便せんとペンを伯爵邸から呼び寄せた。
書きながら、リュアティスのことを考える。
島から牧草地に飛んで、ロドアルさんが何言ってるのかわからなくて、リュアティスさんもそうなのかなって、リュアティスさんのお部屋まで飛んだ。
あの時、初めて会ったリュアティスさんと今のリュアティスさん、何か違う気がする。
何が違うのかな?
手を止めて考えていると、リスによく似た姿をした妖精たちがエリスレルアの周りに集まってきた。
リュアティスの『声』と一緒に感じる優しい光に似たものを、妖精たちからも感じるエリスレルア。
気づくと、涙がこぼれていた。
「あれ?」
どうして私は泣いてるのかな?
訳がわからず慌てて涙を拭く。
悲しくなくても泣いてしまうことはある。
感情が高ぶってくると、「わーっ」て叫びたくなって、泣きたくなる。
けど今は落ち着いてるし、リスさんたちに囲まれていて、平和だ。
でも、泣きたくて仕方ない。
ポロポロと涙をこぼしているエリスレルアの周りでリス型の妖精たちが発している光が、徐々に強さを増していく。
その中に、一段と眩しい光を発しているリス型妖精がいた。
その光が、優しくなったり、眩しくなったりを繰り返し、それを見ていたら泣きたい気持ちが薄れていって涙が止まった。
優しい光と眩しい光。
どっちも好きかも。
そう思っていると、光の中に人の姿がぼんやりと浮かんだ。
―――リュアティスさん!
なんだか無性にリュアティスに会いたくなって、エリスレルアが彼を呼ぼうとした時、ずっと聞きたかった『声』が聞こえてきた。
『エリスレルア』
!!
この『声』は……!!
『セルネシウスおにいさま!』




