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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第3部 第1章 王子からの手紙

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71 かたくななプライド

 嫌疑って……


『でもあれは、状況証拠だけっていうか、依頼人の可能性があるのが許嫁の人だけだっていうだけだったような……』

『あの事件、レイテリアスが動いていただろう?

 彼は自分の大切なものを傷つけようとした犯人たちに容赦などしない。

 そのうちやつらを壊滅させるだろう』


 僕でも、そうだろうなと思えるくらい、あの時のレイテリアスは怖かった。


『エリスレルア嬢を誘拐したあの組織は、自分たちの罪を軽くするために、犯行前に依頼主を特定してから動く。

 あの時は決行までの時間がかなり短かったと思われるから、特定しただけで証拠などはまだ集める前だったかもしれんが、どこかに契約書なりなんなり保管してあるはずだ。

 いずれそれは発見される』

『あんな怪しい契約、本名とかで結ぶわけないですよね?

 それなら、もし契約書が見つかっても、依頼主を断定できないのでは』


 空中から落ちていく彼女を助けた時、あちこち破けて汚れたドレスを着ていたその身体は、力を入れれば折れてしまいそうなほど華奢で、何日もろくに食べていないのではないかと思えるほどだった。


『そのとおりだ。

 だが、十中八九、セフィテアが依頼主であることに変わりはない。

 それを突き付けられて、シラを切りとおせるとは俺には思えん。

 それに、たとえシラを切りとおしたとしても、そのようなことをする娘だという噂が立っただけで、侯爵家にとっては大きなダメージとなるだろう』


 家名に傷がつくとか?

 嫁のもらい手ががなくなるとか?


『そんな折、兄上から手紙が来たのだ。

 それによると、俺たちが王都を出発して数日後に、ベシス家の当主、彼女の父親であるベシス侯爵が公爵家を訪れ、正式に謝罪してきたようだ。

 大変申し訳ないことをしてしまった、と』

『え?』

『追及の手が伸びる前に、彼女がベシス侯爵に罪を告白したらしい。

 許されることではないことは重々承知しているが、子どもがやったこと。

 実家にて謹慎させ、二度と迷惑はかけないから、今度だけは許していただけないだろうか、と言ってきたそうだ』


 ベシス家としては表沙汰となる前に事態を収拾したかっただけなのだろうがな、というレステラルスに、レミアシウスの胸が痛んだ。


 我が子のためとかじゃ……ないのか?


『兄上としても、下手に騒いできみたちに更に迷惑をかけることになってはと、持ち主が途絶えて闇業者のアジトになっていた廃墟の撤去作業等にかかる費用を内々にベシス家が負担するという条件でその申し出を受けたらしい。エリスレルア嬢に実害がなかったからな。

 リュアティスがあの場にいたことは犯人たちと身内しか知らないことで、『リュアティス死んじゃう事件』は表向きは誘拐事件と関係ないことになっているから、それについての慰謝料等を求めるわけにもいかんし』

『そうですね』


 話がややこしくなる。


『レイテリアスたちも表面上はその条件で納得したらしいから、闇業者のほうは壊滅させるだろうが、ベシス家は放置することになるだろう』


 『表面上はな』と繰り返すレステラルスの含みに、レミアシウスは少しだけ苦笑した。


『それなら、今回のことも表沙汰にしないで、なかったことにすれば』

『レミアシウス君。

 セフィテアは生まれながらの貴族の娘なのだ。

 本来ならば、許嫁の解消を、ベシス侯爵同様受け入れるべきだった。

 それができず、エリスレルア嬢に対して逆恨みをし、制裁を加えようとした。

 これだけで既に反逆罪だと言っても過言ではない』


 反逆……国王の申し出に背いているから?


『それを、侯爵の申し出を受けて許したのに、すぐ隣といってもいいほど近いとはいえ、ベシス家で謹慎しているはずの彼女がこの地に現れ、この騒動を起こした』

『だから、それは、なかったことに』

『できると思うのか?

 リュアティスの同級生とはいえ、気位が高く、闇の業者に依頼したと自ら告白するような娘が、リュアティスからの手紙だとわかっていて破り捨てたことを、なかったことにできると?』


 あぁ……周りではなく、彼女自身が、なかったことにできないのか。

 それだと、こっちがなかったことにしても、彼女が自白してしまうか……


 どんな処罰が下されるのかわからないけど、今までの話の感じだと、相当ひどいことになるような……


『……彼女はどうなるのですか?』

『暴行未遂事件のほうは、リュアティスに代わって兄上が謝罪を受け入れたので、セフィテアが罪に問われることはないだろう。

 今回のことは、リュアティス次第だ。

 彼が許せば許されるし、彼が厳罰に処すなら死罪もあり得る』


 ……え?


『じゃあ、リュアティス君にお願いすれば……』

『彼女は無罪となるだろう』


 おお!


 よかった、とレミアシウスは安堵しかけて、レステラルスの表情が暗いことに気づいた。


『あの……無罪で終わりではないのですか?』


 レステラルスが重い口を開いた。


『表向きは無罪で終わるだろう。

 だが、あの娘は、2度もベシス侯爵の顔をつぶしたことになる。

 許嫁を解消されたことも含めれば3度だ。

 権力欲が強く、自分の娘をリュアティスの許嫁にねじ込みながら、それが解消されるとさっさと切り替え、娘を守っているようで自分の保身のために兄上のところへ謝罪に来るような、男の顔をな』

『え……それって…………』


 レステラルスは、吐き捨てるように次のセリフを口にした。


『あの娘は、家に帰ればおそらく……生かしておく価値がないと判断され、人知れず処刑されるだろう』

『はあっ!?』


 思わずレミアシウスは立ち上がった。


 リュアティス君と同級生ってことは、まだ、14,5歳の子どもじゃないか!

 これから楽しいことだってたくさんあるだろうし、そのうちいい人に巡り合うかもしれない。


 それを…………処刑する?


『せめてその死を政治利用することのないよう祈るばかりだ』


 被害者が、許しても?

 家に帰ったら、処刑される?


 家って、子どもを守るためにあるんじゃないのか?


『そんなの、おかしいでしょ!

 リュアティス君が断罪するならまだわかります!

 けど、なんで彼女を守るべき立場にある人たちが!!』


 そう叫んだ彼に、冷静に返すレステラルス。


『個人より家を守る者や、自分の子どもより自分を守る親。

 そういう人間は、きみたちの世界にはいなかったのか?』

『!! ……それは……』


 個人より家を……組織を……


 ……子どもより自分を……


 「いなかった」と言えない自分が悔しい。


 こぶしを握り締めてうつむいたレミアシウスに、レステラルスは「悪かった」と頭を下げた。


『……いいえ』


 顔を上げるレミアシウス。


『彼女を助ける方法はないのですか?』

『ないこともない。

 きみが言ったように目撃者は3人のみで、リュアティスを含めた4人がなかったことにしてしまえばいい。

 ベシス家の者たちは彼女のことを探しているだろうが、まだこの事件については知らないであろうからな。

 だが、大前提として、セフィテアが口裏を合わせなくてはどうにもならぬ』

『彼女は今……』

『魔法を使えない結界を張った地下室にて拘束している。

 自殺しかねないのでな』


 確かに、魔法が使えると、ロープとかナイフとかなくても自殺できそうだ。


『会いに行っても構いませんか?』

『ああ。付いてきなさい』


 部屋を出て階段を降りていく。


『気を失っているうちに風呂に入れ、手当をして、着替えさせた。

 意識が回復してから聞いたところによると、何日か森をさまよっていたようだ。

 うちの領地に迷い込んだことにも気づいていなかった。

 フェンリルに取り囲まれたが、見知らぬ少女が現れて、その者がいなくなって少しすると、フェンリルたちはいなくなり、森を抜けたところにロドアルの家があった、ということのようだ』


 地下室って……ほとんど、牢屋だな……


 着いたところにあった部屋は薄暗く、ベッドがあるだけの鉄格子のはまった小部屋だった。

 そのベッドのすみで彼女は後ろ手に縛られてうずくまっていた。


 レミアシウスが不快に思っているのが伝わったレステラルスは、すまなそうに言い訳をした。


『うちにはここしか結界の張れる場所がなかったのだ』


 鉄格子越しに声を掛けてみる。


「セフィテアさん?」


 ビクッと身体が震えたが、彼女が顔を上げることはなかった。

 胸が詰まり、レミアシウスは踵を返した。

 そのまま厨房へ直行し、栄養たっぷりのスープを作り始める。


 もうすぐエリスレルアたちが帰ってくる。

 それまでに、僕は僕のできる限りのことをしよう。

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