62 婚約者同士
「ココココ……○※#△@#○#!? ○※#△!」
『コンヤク』というのが婚約のことかな?
なんとなく、そう思った。
抱きしめられて婚約者だと言われ、反射的に赤くなってしまったリュアティスだったが、エリスレルアから伝わってくる感情は、婚約者問題が発生する前とそれほど変わってないことに気づいていた。
ただ、まったく変わってないわけでもない。
『待ってください、レミアシウスさん』
『えっ?』
『彼女としばらく話させてください』
『え……えっと……うん』
「僕もお腹空いたなー。何か作っていただけますか?」
見るからにホッとして『オッケー』と言い、レミアシウスは部屋を出ていった。
ベランダへ出るリュアティスに、エリスレルアが付いてきた。
並んで夜空を見上げる。
婚約者の説明をしようとして抱きしめて叫んでしまって、彼女を泣かせてしまった。
あれから数時間ほども経っていないのに、いろんなことが起こった。
どれも時間をかけている場合じゃない出来事ばかりだったとはいえ、確かに盛り込まれ過ぎかも。
『いいお天気ねー』
『うん』
時刻はもうすぐ2時になる頃で、以前より夜空を見上げるようになっているリュアティスも、さすがにこの時間帯は夢の中だ。
よく見ている星空はだいぶ西に傾いていて、見慣れない星空が広がっている。
あの星まで飛んでいけるって、すごいな。
ちらっと左隣を見ると、瞳を輝かせて夜空を見上げているエリスレルアがいる。
何か、気の利いたことを言いたいリュアティスだが、気恥ずかしくて口にできない。どうしたものかと思っていると、エリスレルアがムードの欠片もない言葉を発した。
『お腹空いた~おにいさま、まだかな~』
クスッ
『いつも、こんな時間に何か食べてるの?』
『いつもじゃないよ~。お腹が空いた時だけ』
なるほど。
『いつもじゃないけど、この時間にお腹が空くってことか』
『うんうん。
昨日は特に、いっぱい泣いちゃったから、ますますペコペコ!』
少し、胸が痛んだ。
『それは…僕のせいだよね』
『リュアティスさんのせいじゃないよ。
最初のは光の塊が怖かったからだし、次はいなくなるのが怖かっただけだもん』
怖かった?
2回目のはなんとなくわかる。
『どうしようって思ったー!』という叫びと一緒に恐怖も伝わってきていたから、きっとそれのことだろう。
けれど、どうして1回目も怖かったんだろう?
あの時は、婚約者の説明をしていただけで……
『……光の塊って、怖いものだった?』
そもそも、光の塊って何だろう?
少し考える素振りを見せるエリスレルア。
『いつものリュアティスさんの光は優しいの。
でも、あの時は怖かった。
なんか、圧倒的! って感じの見たことない想いがドーンって来て、どうしたらいいのかわからなかった』
!
それは……自分の気持ちを抑えられなくなったから……
動揺するリュアティスをよそに、少し左上を見ながら、何かいいたとえはないかなと、エリスレルアは考えた。
『えっとね~。
いつもは、「抱えきれないくらいの花束をありがとう!」って感じなんだけど、あの時は、部屋の中が身動きできないくらい花でいっぱいなのに、まだまだ入ってくるよーって感じ?』
!!
……想いが強過ぎて、迷惑だったってことだろうか……
そう思って、彼女のいない側に視線を外そうとしたリュアティスだったが、エリスレルアは彼を見上げてにっこり笑った。
『でも、やっぱりお花はきれいなの!
動けなくて怖かったけど、光もきれいだった。
それでね! 私、思い出したのー。
同じような光だけど、もっと優しい光、前にも感じたな! って』
夜空へ視線を向けるエリスレルア。
『どこでだったかな~って思ったら、それは地球の遊園地だった。
すっごく一瞬だったけど、優しい光が「こっちへ来て」って言っててね!
気がついたら島の草原にいたの』
クルッとリュアティスのほうを見る。
『あれって、リュアティスさんの光だよね!
って……リュアティスさん?』
『え?』
『どうして泣いてるの?』
え?
胸がいっぱいになっただけで、リュアティスは実際に泣いていたわけではなかった。
でも。
エリスレルアには泣いてるように感じられたんだろうな。
慌てて袖で涙をぬぐう振りをする。
『えと……あの…………光の塊がいっぱいになってしまって……』
『あーー
あれは、「わーーー!!」って叫びたくなるもんねー。
私も泣いちゃったし!』
やっぱりこの子は、僕のことを好きになってくれたわけじゃない。
でも、コンヤクシャがリルちゃんたちとは違うものだってことはわかってくれたんだと思う。
その上で。
『エリスレルア。
あなたは僕のこと、婚約者だと思ってくれたんだね』
『うん!』
『どうして?』
どうしても聞きたかった。
彼女の中での【婚約者】の定義がなんなのか。
なぜ、僕のことを婚約者だと思ってくれたのか。
『ずっと抱きしめていたい人がコンヤクシャだって、リュアティスさんが言ったじゃない』
!!
『リュアティスさんが死んじゃいそうだった時、とってもイヤだったの。
抱きしめていても、どんどん息とか弱くなってって……だんだん身体が冷えてきて……ずっと抱きしめていられなくなると思った。
死んじゃったら、ギュッてできなくなるなって思ったらイヤだったから、リュアティスさんは私にとってずっと抱きしめていたい人なんだろうなって思ったの。
だから、コンヤクシャだって、思った』
……なんて素直で……なんて明け透けなんだろう……
エリスレルアの言葉を聞いて、自分の気持ちを止められなくなる。
『あなたのお陰で死ななくて済んだから、ギュッてしてもいいですか?』
『うん!』
しゃべらずに想いを伝えられるって、すごいことだ。
『王子様の甘い言葉』の抵抗感が限りなくゼロに近づく。
強過ぎる想いは彼女の負担となってしまうな、とできるだけそっと抱き寄せた。
そして。
好きになってくれたわけじゃなくても、婚約者だと認めてくれたのだから、少しくらいいいよね?
『では、僕たちは、婚約者同士ですね?』
『うん!』
『では、約束のキスをしても、いいかな?』
『約束のキス?』
『えぇ』
『何の約束?』
『婚約者同士だね、っていう約束です』
自分でも、おかしなことを言っていると思った。
思ったが、エリスレルアが可愛過ぎて、想いを止められない。
この際、理由なんて―――なんでもいい。
そう思って、彼女を更に引き寄せようとした時、エリスレルアがつぶやいた。
『でも、リルちゃんが死んじゃうのもイヤかも……』
……げ……
……リルちゃんが……婚約者候補として復活!?
『ていうか、リュアティスさんよりリルちゃんのほうが小さいし、何かあった時にすぐに死んじゃいそうかも。
リルちゃん、死んじゃったらイヤだから、やっぱり、リルちゃんもコンヤクシャだよね?』
ここで「そうですね」と言ってしまったら、婚約者はたぶん、リルちゃんになってしまう!
どう言えばこのピンチをやり過ごせるだろうと思案している時、救いの『声』が聞こえてきた。
『食事の準備ができたぞー』
『やったーー!!』
リュアティスは思った。
……悪いことはできないものだ……
そして、彼女に続いて部屋に戻りながら、あることに気づいた。
もしかしてリルちゃんも、食事には勝てないかも……
あぁ、顔文字が使いたい……




