6 戻ってきちゃダメ
『デンパっていうのは、空を伝わっていく電気エネルギーの波のことだよ』
ほほーー!
それで、「電」「波」!
おにいさまって、物知り!
『空の電気ってことは、カミナリとかの仲間?』
『ちょっと違うかな、って、電波はどうでもいいんだよ。
さっきさ、ガイコツが死んだって言った?』
『言った!』
『どういうこと?
ガイコツって最初から死んでない?』
『よくわかんないけど、空から落ちてきたんだもん。生きてたんじゃ?』
おにいさまのトーンが下がった。
『そ……それって、幽霊とか、お化けとか……?』
拾ってみる。
『骨だよ?』
『……そりゃ、ガイコツなんだから骨だろうけど……とりあえす、ガイコツもどうでもいいや。
そこって、どんなとこ? 海は見える?』
どうでもいいのかー。
持ってた骨をそこら辺に捨てて、おにいさまがいるほうの山へ向かって走りながら辺りを見る。
『海? 周りじゅう、山だよー』
『山? 山だと、あっちか。けど、海のほうにいるような気がするんだけどなぁ』
『海なんて見えないよー?』
フルスピードで走ったからすぐに山の麓に着いた。
早く向こう側に行きたいから山の一番低そうなところを探して、そこへ向かって再び走り出す。
あ! そうだ!
『おにいさま! そこには遊園地、あるの?
私、お金持ってないんだけど、入れる?』
『え? ここは、地球じゃないぞ?』
『えぇ? じゃあ、どこ?』
『知らないよ。どこか別の星じゃないのか?』
えぇぇ!?
『いくら私でも、こんなに短い髪で別の星まで飛ぶなんて、無理だよー!』
『そうだよなぁ。でも、ここは地球じゃないんだよ』
『じゃあ、どこ?』
『さあ?』
立ち止まって振り返ると、山に囲まれた広い草原がある。
おにいさまがいるほうへ向き直ると、目の前に木々に覆われた山がある。
これだけ近ければ山の向こうも見えるかなと、目を閉じて、見た。
山の、向こうはぁ……崖! 海!
そして、おにいさま!
おにいさまは、私がいるところより低い、海の向こう側の崖にいた。
『おにいさま! 山の向こうは、海だった!』
『! やっぱりそうか。
お前がいるのはたぶんここから見える島のうちの一つだよ。
どれもかなり高い岩山に見えるし、断崖絶壁っぽいから、山を越えるテレポートしようなんて思うなよ。下手すると海に落ちるぞ』
うぇぇぇ~……それは嫌だ。私は泳げない。
でも、ここに一人でいてもつまんない。
でも、海には落ちたくない。
うーん、うーん…………あ!
『私が行くんじゃなく、おにいさまが来れば、落ちるのはおにいさま!』
『なんだとーー!』
『私、がんばるから!』
『え……はっ!
ヤだよ、僕だって海になんか落ちたくないよ!』
『落ちたら、そこから引っ張るからー!』
『嫌だーーー!! 助けて、にいさーー…ん?
……にいさん?』
レミアシウスおにいさまったら!
『私が助けようとしてるのに、セルネシウスおにいさまに助けを求めるなんてー』
……ん?
口をとがらせながら文句言ったのに返事がない。
『レミアシウスおにいさま?』
しばらくして、おにいさまの『声』がした。
『エリスレルア』
!!
『セルネシウスおにいさま!!』
え? でも―――あれ??
『レミアシウスがとても疲れるから、一度しか言わないよ』
セルネシウスおにいさまの『声』だ。でも、レミアシウスおにいさまだ。
どういうことーー???
セルネシウスおにいさまとレミアシウスおにいさまは、髪の長さが違う時もあるけど、それ以外の見た目は全く一緒。
同じ声だし、同じ『声』だし、『力』の波長もほとんど一緒だ。
でも、セルネシウスおにいさまはセルネシウスおにいさまだし、レミアシウスおにいさまはレミアシウスおにいさまだ。
けど、今聞こえる『声』は、セルネシウスおにいさまだけどレミアシウスおにいさまだ。
『必ず助けるから、レミアシウスの言うことをよく聞いて、僕がいいって言うまで、こっちへ戻ってきちゃダメだよ。わかったね』
セルネシウスおにいさまに怒られたくなくてレミアシウスおにいさま探しをがんばってたけど、『声』を聞いたら、怒られてもいいからセルネシウスおにいさまに会いたくてたまらなくなった。
『おにいさま! ここには遊園地がないの!
だから、私、おにいさまのところに……』
言いながら、星の『力』を得て髪の長さを元に戻そうと、ルイエルト星を探したけど―――なかった。
―――どうして?
『ルイエルト星、は……どこ?』
どんなに遠くにいても、目を閉じれば見える星。
私に『力』を与えてくれる星。
それが―――ない。
訳がわからなくて固まった私をセルネシウスおにいさまの優しい『想い』がふんわりと包む。
『大丈夫。その世界にもきっと楽しいことがたくさんあるよ。
あ、レミアシウスが限界っぽい。またね』
『待って、おにいさま!
私、おにいさまのところへ行きたい!』
エリスレルアを中心に風が巻き起こり、山の木々や足元の草花が大きく揺れて、広範囲にわたって空気が虹色に輝き出す。
ルイエルト星が―――ないのなら―――
―――この星の『力』を―――使うだけ―――
『エリスレルア! 僕の言うことが聞けないのか!』
!!
怒られた。
『…だって………おにいさまぁ………だって…』
『レミアシウスに…話しておいたから……
……また……ね』
『セルネシウスおにいさま!』
それっきり、セルネシウスおにいさまの『声』は聞こえなくなった。
『レミアシウスおにいさま!
今のってセルネシウスおにいさまよね?』
…………返事がない。
急いで山を駆け登って、向こう側の景色が見えるところまで来た。
木の間から下を見ると、レミアシウスおにいさまが言ったとおり、私の足元側に向かって岩が削れてて木の根っこが張り付いている。
その下のほうに青い海が見えた。
おにいさまは?
だいぶ離れている向こう岸をよく見たら、柵の向こうにレミアシウスおにいさまが倒れていた。
「うーん」
そういえば、『力』をたくさん使ったら何か消えるんだったっけ?
かといって、ジャンプして届く距離じゃないし。
でも、セルネシウスおにいさまのこと、聞きたい。
……うーん……
「決めた」
瞬間移動、じゃなく、空気中を移動させよう!
おにいさま、そんなに重くないからテレポートほどは『力』いらないし!
なるべく近くで、ちょっと草エリアもあるところまで移動し、私は自分のところまでレミアシウスおにいさまを『力』で引き寄せた。
「……………………やった~」
がけっぷちの草むらに横たえて、その横に座り込む。
やっとここまで引っ張れたー。
おにいさまが意識不明でよかった!
何度も落としかけちゃった。わはは。
本当に汗をかいたわけではなかったが、左手で額の汗をぬぐうようなポーズをしながら、結構時間がかかったな、とエリスレルアは思った。
実際は5分もかかっていなかったが。
「疲れた~~。私も寝よっと」
草の上に寝転がってすぐに彼女は寝息を立て始めた。
この物語をお読みいただき、ありがとうございます!
次回予告〔ドラゴンなんかじゃない〕