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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第2章 解消の余波

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59 魔力の流れ

 『みんな、こういう時、どうしてるんだろう?』と思いながらひとしきり葛藤したあと、リュアティスは寝室を出た。

 恥ずかしいけどネスアロフにでも聞いてみようかと思っていたのに、彼の姿がない。


「こんな時に、どこ行ったんだ?

 って、寝ていておかしくない時間か」


 レイテリアスに魔力を分けてもらったお陰で普通に歩けてはいるが、闇業者のアジトで戒めを何とかしようと身体じゅうに力を入れていたので、あちこちが痛い。

 ソファに座って服の袖をまくってみると、しびれ薬と一緒に回復薬も混ぜてあったのか、あの男が言っていたように付けられた傷跡は消えかかっていた。

 それを見ていると、傷跡とは逆に、思い出したくもないものが次々と浮かんでくる。


 殺す気はないとわかったあとでも、その切っ先が身体の主要部分を通り過ぎるまで生きた心地がしなかった。

 あいつは僕に見せつけるかのようにゆっくりと短剣を動かしていたけど、僕がいなかったらあそこに彼女が転移した時点で襲い掛かっていただろう。


「仕事だって言ってたけど、そんな仕事など、あるものか!」


 吐き捨てるように言ったあと、思い出した。


 依頼人から報酬をもらってると言っていた。

 やらなけば契約違反になると。

 彼女にできる限りの制裁を加えろという依頼だと……


 一体誰がそんな依頼を?


 イライラしてきて、気分を変えたくなった。


 まだ起きてるかな?


『レミアシウスさん?』

『! えっと……何?』


 ん?


『どうかしました?』

『今、ここに、レイテリアス君たちがいるんだよ』


 え?


『なぜ兄上たちが?』

『彼ら、きみたちがあそこからテレポートしたのを目撃したんだ』


 !


 そういえば、あそこはあのあと、どうなんったんだろ?


『僕も参加していいですか?』

『構わないけど、なんとなく立ち寄ったことにして。

 彼、怖過ぎる』


 リュアティスは苦笑した。


『わかりました』


 兄上たちは、どこまで知っていてあそこへ来られたのか。

 犯人たちは、どうなったのか。


 気になって自然と足早になる。


 それほど時間を置かずにレミアシウスの部屋の前まで行ったリュアティスだったが、どう声を掛けたものか悩むことになった。

 扉の前に来るまではさりげなくノックするつもりだったのだが、よく考えたら真夜中を過ぎていて、こんな時間に扉をノックしても、普通なら寝室にいる彼に聞こえるはずがない。

 だから、火急の要件がある時は廊下の扉をノックしたあと、中に入って寝室の扉をノックする必要がある。


 けど、こんな時間に、何の用があるんだってことだ。

 あのあとどうなったのかは気になるけど、兄上たちのご様子からは急いで何かをしなくてはいけないような切迫している感じはしなかった。


 それ以外の思いつくことはみんな、就寝中の客人を叩き起こすほどのことではなく、途方に暮れるリュアティス。


 諦めて明日にしようと(きびす)を返そうとした時、扉が開かれた。


『もー、飲み過ぎなんだよー!

 この部屋、水道なんてないんだからね!

 あれ? リュアティス君? 何か用?』

「えっと、あの……まあ」

『じゃ、入って待ってて。僕、水汲んでくるから』

「待て! レミアシウス! 俺は出しに行く!」

「じゃ、僕も。出さないと飲めないし」

『そうまでして飲まなくていいよ……』


 呆気に取られているリュアティスをその場に残し、3人は部屋を出ていった。


 ……なんなんだ?


 部屋に入ってしばらく待っていると、大きなかめをそれぞれ一つずつ抱えて戻ってきた。


「……こんな夜中に、酒盛りですか?」

「違うぞー。これはただの水だ」

「リュアティス、扉を閉めてくれないか?」


 彼が扉を閉めているうちに、彼らはかめを隅に運んだ。


「彼のいれる紅茶がおいし過ぎてさ。

 自分の部屋に帰る気になれなんだ」


 なんですか、それは。


 苦笑しながら紅茶をいれるレミアシウスの姿に、確かに、彼がいれたお茶はおいしかったな、と思い出した。


 それにしたって、わざわざ水まで取ってくるなんて。


「兄上たち、こんな夜中に、何をやっているのですか。

 レミアシウスさんに、ご迷惑でしょ」


 カルファレスがにっこり笑う。


「そういうお前は何しに来たんだー?

 お子様はとっくに寝てる時間だろ」

「僕はその……なんだか眠れなくて散歩を……」


 椅子に座ったレイテリアスがリュアティスを見た。


「散歩ねぇ……彼女にちゃんと礼を言ったのか?」

「え?」

「僕じゃなくて彼女に言えって言ったろ?」


 少し赤くなりながら、ボソッとつぶやくリュアティス。


「言いましたよ」

「なんて?」

「それは、その……心配してくれてありがとうって……」


 リュアティスはごまかしても無駄だと思って、正直に告白したのだが、レイテリアスはため息をつきながら額を抑えた。


「やっぱりそれしか言ってないか」

「えっ?」

「しかたないだろ、レイテリアス。

 リュアティスは意識不明だったんだし」

「何があったのかはあとで聞くとして、まずは説教だ。

 ここに来い」


 状況がわからないまま、とにかくレイテリアスの傍まで行った。

 目の前に立っているリュアティスにレイテリアスは真剣なまなざしを送った。


「無茶をし過ぎだ、リュアティス。

 お前は彼女のために魔力を使ったのだろうが、彼女がいなければとっくにあの世行きだったんだ」

「え……」

「普通、魔力切れを起こすほど全力で魔力を使っても、最低限の魔力は残ってる。

 あの、ピエフトとの対決後に起こしていた重度の欠乏症の時でさえ、それは残っていた。

 けど、今回はそれすら残っていなかった。

 彼女が王都じゅうに叫んだとおり、お前、死ぬところだったんだぞ」


 !?


「王都じゅうに?」

『エリスレルアは、ただ単に助けを求めただけだよ』


 王都じゅうに???


 何のことかわからないリュアティスに、カルファレスが説明した。


「お前が死にかけてるから誰か来てって彼女が叫んで、みんなそれぞれ家に常備している薬を持って、城に駆け付けてるんだぞー?」


 !!


 知らなかった。


『けど、それは彼にはどうしようもないじゃない。

 エリスレルアは助けを呼んだだけなんだから。

 リュアティス君、気にすることないよ。

 おにいさんたち、いじわる言ってるだけさ』


 『死んじゃうかと思ったー!』と叫びながら飛びついてきた彼女から伝わってきた感情。

 あれは、心配からの安堵ではなく、生きていることへの安堵だったのか?


「それは違うよ、レミアシウス。

 あの子に、あんなふうに叫ばせた時点で、リュアティス、お前はあの子の婚約者として失格だ」


 !!


 それは言い過ぎではと言いかけたレミアシウスを目で制すレイテリアス。


「命を懸けて彼女を守る、それは美談に聞こえるかもしれないけど、あの館を吹っ飛ばして、犯人たちを吹っ飛ばして、彼女を守ったとしても、お前が死んでしまったら、彼女はどうなる?

 彼女は、そのあと、()()()()?」


 !!!!


 レイテリアスの言いたいことが、リュアティスにもレミアシウスにもわかった。


 ―――暴走する。


 リュアティスはうつむき、唇をかんだ。


「やつらが何をしようとしたのかは、大体想像がつく。

 お前がそれをどうしても許せなかったんだろうっていうのもね。

 逆上しても仕方ない状況だったんだろう」


 ふぅっと息を吐き、鋭い視線でリュアティスを見つめるレイテリアス。


「あの子が普通の女の子なら、それでもいい。

 お前が死んでも、泣き叫んで、せいぜいやつらに復讐するくらいで済む。

 だけど、あの子の場合はだめだ。

 お前が死んでいたら、たぶん彼女は、この世界に復讐していただろう」


 初めて会った時のテレパシーによるひどい頭痛と、今回彼女がリュアティスを連れてテレポートするのを目撃したことで、レイテリアスはエリスレルアの感情を逆なでするような行為は危険だと判断したのだ。

 彼の推測を、レミアシウスは否定できなかった。


「……では……どうすればよかったのですか!

 あいつが言ったように、見て見ぬふりをしろと?」


 そんなこと、できない!


「そうじゃない。

 彼女を本当に守りたいなら、逆上しても、手加減しろと言っている」


(無茶言うよね。手加減できないのが逆上でしょ)


 そう思ったレミアシウスだが、レイテリアスが言っていることのほうが正しいとも思う。


「死にかけていたお前は気づいてなかっただろうけど、彼女から危篤状態のお前に魔力が流れ込んでいた。

 異世界から来た彼女に魔力がないことは、お前にもわかっていただろ?

 それなのに、だ。

 つまり、どうやったのかはわからないけど彼女はこの世界の魔力を利用できる。

 そのお陰でお前は死なずに済んだ。

 だから彼女に感謝しろと言ったんだ」


 リュアティスは、もう、何を言えばいいのかわからなくなっていたが、一つだけ確信した。


「魔力を与えることができる者は少ない。

 身体の内に大量に持っていなければ与えることなどできない。

 もともと魔力のない彼女がどうやって調達したのか、なぜそれを与えることができるのか、とても興味深い」


 僕のせいで、彼女に対する余計な興味を兄上に持たせてしまった。

 この物語をお読みいただき、ありがとうございます!

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