58 空間転移
『夜も遅いし、もう寝ない? 話は明日にしてさ』
ちょっと提案してみたけど、即却下された。
『明日はたぶん、王都は大騒ぎだよ』
『え?』
『ま、リュアティスがここにいるってことを知ってる者は限られているから、ここは問題ないと思うけど』
ん?
あ。
『エリスレルアが叫んじゃったこと?
あれは、「元気になりましたー!」とか発表すればいいんじゃ?』
レミアシウスの前で紅茶を飲んでいる、カルファレスとレイテリアスは、互いの顔を見合わせ、大きなため息をついた。
ちなみに、ネスアロフは「心配しているだろうから」とレイテリアスが国王陛下のところへ状況を説明しに行かせた。
『何もわかってないんだな』
レイテリアスがレミアシウスに視線を移す。
『彼女のあの胸に迫る呼びかけに、リュアティスを助けようと、出せるだけの薬関係を持った住民たちが、王都じゅうから王城へ集まってきてるんだ。
王子のためにって来てくれた人たちを無下にもできないから、今、王城は大混乱してるだろうね』
『アークレルト公爵たちも王城に向かったぞ。
現状では、行かないほうが不自然だからな』
『ええぇぇえ!!』
でも、あれは……
『あれはでも、助けを呼んだだけで…………って、それに応えようと?』
『そうだよ。
そんな時に、「元気になったよー!」とか……言えるわけないだろ?』
『言えてもせいぜい、持ち直しました、くらいだろうな』
確かに……死んじゃうほどの何かがそんなに早く治っちゃうっていうのは、信用問題になりかねないか……
『けど、嘘をつくわけにはいかないでしょ?』
『嘘はつかない。本当のことを言わないだけさ』
うーむ
『幸い、リュアティスがあの爆発現場にいたのを知っているのは、僕たちと犯行グループだけだ。
警備兵が来る前に、なぜか、二人は消えちゃったからね。
だから、みんなは、なぜリュアティスが「死んじゃいそう」なのかは知らないから、原因不明の魔力欠乏症で通せると思う。
それなら魔力が回復すれば元気になるから、ほかの病気よりは説明が簡単だし』
魔力はきみが分けてあげたって言えば、と言いかけて、レミアシウスはやめた。
それを公にするということは、彼らがどれくらい魔力を持っているのかを推察するためのデータを、不特定多数の人たちに発表するようなものだと気づいたのだ。
今はみんな善意で集まってくれてても、状況が変化すれば情報を悪用したくなることもあるだろうし、下手すると同じような状態になった人たちの家族とかがレイテリアスのところに押し寄せかねない。
レミアシウスはため息をついた。
リュアティス君には悪いけど、爆発したのがエリスレルアでなくてよかったって思ってたのに、なぜか大ごとに……
なんであいつを誘拐したりするかなぁ!
『それで……どうするの?』
『僕たちにはどうしようもない。
王城では、文官たちが氏名等と持ってきた物なんかを書き留めて家に帰しているはずだ。
のちに礼状と礼品が配られるんじゃないかな。
王子の危機に駆け付けてくれた者たちなのだから』
『そうか……』
エリスレルアもお礼ができたらいいのにな。
レイテリアスがフッと笑った。
『それには彼女が僕たちの関係者になる必要があるよ?』
『『えっ?』』
カルファレスとレミアシウスが同時にレイテリアスを見た。
カルファレスはの場合は、『急にどうした?』と。
レミアシウスは、『なんで僕が思ったことがわかったんだ?』と。
『どうやら、当たったのかな?
なんとなくそんな気がしただけさ。
エリスレルアちゃんもお礼ができたらいいのになって顔してた』
どんな顔だー!
『やっぱりきみ、心で話し過ぎてるのかもね。
きみはしゃべってるつもりなんだろうけど、実際には声は全然発していない。
それってつまり、伝えようとしていることと思ってるだけのことを何かでわけてるだけなんじゃないの?
その境目が曖昧になってきていて、思ってるだけのことも感じられやすくなっているのかも。
そんなことができない者、つまり僕たちみたいな普通の人間でもさ、相手が何を考えてその言葉を発したのか、その言葉の裏を、なんとか感じ取ろうとか、探ろうとするものじゃないか。
声のトーンとか、視線とか、何気ない仕草から推測してね』
いや、きみ、全然普通じゃないでしょ……
『レイテリアス。彼が何を考えているのかなんて、俺にはさっぱりわからんぞ?』
『何言ってんのさ。
ん-……そうだな。お前がわからないのは、これが普通の会話の中での彼の考えていること、だからだよ。
例えば、レミアシウスが真剣を携えてお前の前に立っていたらどうだ?
それでも、相手が考えていることがわからないのか?』
!!
『!! あーー、なるほどな~。
それだと本能で感じ取るかも』
……この人たち……怖過ぎる……
僕が太刀打ちできる相手じゃない。
ここで話を切るためにレミアシウスが『そろそろ寝よう』と口を開きかけた時。
『きみが話してくれないのなら、僕はそれでもいいよ。
彼女に聞くから』
!!!
………負けた。
そう思った。
レイテリアスはとっくに見抜いていたんだろうな。
彼らに秘密にしている何かを、僕がエリスレルアにも秘密にしているってことを。
地球で降りかかってくるもめごとなら僕の『力』でもなんとかできたし、ルイエルト星じゃもめごとなんてほぼ起こらなくて、エリスレルアっていう脅威が傍にいただけだ。
そんな平和な世界でのんびり暮らしていた僕が、この世界で王子としての覚悟や立場を守るための教育とかを受けてきた彼らに勝てるわけがない。
目を閉じて、心を落ち着けるレミアシウス。
次元を越えてテレポートできるっていうのは、エリスレルアに知られるのに比べたら彼らに知られてしまうのなんてどうってことないけれど、今なら、僕さえ話さずに離れれば、彼女にも彼らにも知られることはない。
これは、弱点を見抜かれても降りることのできない真剣勝負だけれど、最悪の場合、逃げてもいい勝負なんだ。
『それは困る。
僕が答えられることなら答えるけど、答えられないことは答えない。
それをあの子に聞いても無駄だよ。
エリスレルアは、何も知らないからね』
『だったら聞いても困らないでしょ』
レミアシウスは、フッと笑った。
『きみたちはどうか知らないけど、お城の人たちは困ってるじゃないか。
エリスレルアが結果も考えず叫んだせいで、王都じゅうが大騒ぎなんでしょ?』
二人が息をのんだ。
『それと同じさ。
で、何が聞きたいの?』
この発言に、さすがのレイテリアスもしばらく考え込んだ。
下手な聞き方をしたら何も教えてもらえなくなる、と感じて。
『あの廃墟から二人が消えて、ここに戻ったのも『魔法』なのか?』
これは言っちゃってもいいな。
アークレルト領にいた時、エリスレルアが公爵邸に飛んでったことはリュアティス君の親族とネスアロフ君は知ってるし。
リュアティス君が言ってたとおり、ごまかすのはだめだ。
自分を見つめているレイテリアスを見つめ返す。
『あれは、空間を転移する、テレポートっていう技術なんだ。
そこまで行けるエネルギーがあって行き先がイメージできればどこでも行ける。
ま、エリスレルアの制御はいい加減だから失敗が多くて、僕はよくひどい目にあってるけどね』
『イメージするだけで、飛べる!?
すごいな、それ!』
カルファレスは単純に驚いていたが、レイテリアスは少し考えているようだ。
『……その技術で、きみたちはこっちの世界へ来たのか?』
やっぱ、そうなるか。
『それはどうだろ?
僕は物語を読んだりして、現実が嫌になった時とか、異世界に行けたらいいな~とか思ったりはしてたけど、ホントにあるとは思ってなかったし、あいつの頭の中には異世界の「い」の字もなかったからね。
行きたいとか思う以前の問題だよ』
にいさんだって、こっちにエリスレルアが飛んだのは、行き先間違いだって思ってたくらいだ。
『行き先を知らなければ無理ってことか』
『普通そうでしょ。
橋のない深い谷があったとして、向こう岸までの距離を目測し、自分の能力と照らし合わせて、大丈夫だと思うから飛び越えるものでしょ?
向こう岸がどこだかわからないのに飛ぼうとするわけないし、そもそも、何を越えようとしてるんだって話だよ。
この公爵邸の彼女の部屋は、エリスレルアにとって、飛び先としてとてもイメージしやすい場所だった。
だからテレポートできたんだ』
(何か、すっきりしないものはあるけど、一応筋は通ってる)
そう思いながらレミアシウスを見つめるレイテリアス。
(一番気になるのは、彼女に聞くって言ってから、彼の態度が変わったことだ。
よほど聞かれたくないのか……
「聞きたきゃ聞けば?」っていう開き直りなのか……)
開き直られたら聞ける話も聞けなくなる、そう考えたレイテリアスは、もう一つの気になってることを聞くことにした。
『わかった。筋は通っているし、その話はそれでいい。
もう一つ聞きたいことがあるんだ』
きみは、審査員の先生か!!
『何?』
『きみたちには、魔力ってないよね?
けどさっき、瀕死のリュアティスにエリスレルアちゃんから魔力が少しずつ流れ込んでいた。
あれはどういうこと?』
えっ!?
『それ、どういうこと?』
次回予告〔魔力の流れ〕




