56 響き渡る絶叫
「は……速過ぎるよーー」
先行する3人を追って走るレミアシウスは、最初、全力疾走で付いていこうとしていたが、200メートルほど走ったところで息が切れて、止まった。
「全力疾走なんて、100メートル走でするもので、これ以上できないよ……」
エリスレルアなら付いていけただろうけど、僕はもっと普通なんだ!
深呼吸を数回したあと、ゆっくり歩きながら状況を『見る』レミアシウス。
門のところへの到着順は、カルファレスがダントツで1着、2着争いは微妙だけど、タッチの差でネスアロフ君、レイテリアス、ってところかな~?
そんなことを考えていた時、爆音が轟いた。
「……え……」
間に合わなかったのか!?
立ち止まって、大慌てで確認する。
古ぼけた館だったものは、地面から1メートルほどの高さから上が吹っ飛んでいて、残骸が周りの木々に当たって落ちている。その瓦礫には数名の人が混ざっているようだ。
周囲の木々のお陰で、それより外側には被害はないように見える。
ほとんどが吹っ飛び、やたらと見通しが良くなった家の奥側に、二人がいた。
寝ていたエリスレルアが起き上がると、そこまで歩いていったリュアティスが彼女の肩に上着を掛けて抱きしめた。
何、その状況!!
急がなくてはと駆け出した次の瞬間、二人が消えた。
えーーー!! どこに行った?
目を閉じて探すと、二人とも公爵家にいるのを感じる。
……彼ら、絶対見てたよね……
レイテリアスの鋭い視線を思い出しながら、レミアシウスは回れ右をした。
☆ ☆ ☆
門の辺りにいた3人は、爆発音とともに身を伏せていたが、辺りをすばやく確認し、立ち上がって走り出した。
二人を見つけ、声を掛けようとしたのだが。
「リュアティスと彼女が消えたぞ、レイテリアス!」
「……ああ」
「殿下たちは一体どこへ……」
少しだけ考えるレイテリアス。
「ひとまず、この状況を収拾するのが先決だ。
急いで犯人たちを瓦礫から引っ張り出そう。
警備兵たちももうすぐ来るだろうし」
「そうだな」
「はい」
レイテリアスが魔法で辺りを照らすと、瓦礫に挟まっている人間の姿が暗闇の中でぼんやりと光った。
それを手掛かりに二人が引っ張り出していく。
警備兵たちがが到着した。
「この者たちは、依頼者から高額報酬を受けて対象者を誘拐し、暴行を働いた挙句、被害者の家からも金品を引き出そうとする悪逆非道な輩どもだ。
ほかにも仲間がいるかもしれない。
きっちり調べて相応に対処しろ」
レイテリアスの冷たい声が響き渡る。
「「「「「は!」」」」」
言うだけ言って歩き出した彼に、カルファレスが駆け寄った。
「レイテリアス! どこへ行くんだ?
残りのやつらの掘り出しは任せるとしても、リュアティスたちを探さなくていいのか?」
「……なんとなく……公爵邸にいるような気がするんだ」
「は? なぜ?」
「なんとなくだよ」
それ以上会話する気になれず、歩を進めるレイテリアス。
カルファレスとネスアロフは顔を見合わせたが、彼のあとを追うしかなかった。
☆ ☆ ☆
エリスレルアの部屋のリビングの床に、座った状態で二人は出現した。
寝起きでしばらくボーッとしていた彼女だが、だんだん目が覚め、辺りを見渡した。
「あれ?」
なんで、私、リュアティスさんの服、着てるの?
しかも、リュアティスさんがハグしてる……
大泣きによる感情の発散で、エリスレルアの記憶が微妙に飛んでいた。
えっと……何してたんだっけ?
ご飯を食べて…お腹いっぱいで…廊下でリュアティスさんとしゃべってて……
そこまで考えた時、彼女を抱きしめていたリュアティスの力が抜け、床に倒れた。
『リュアティスさん! どうしたの?
リュアティスさん!』
その肩に手を当てて軽く揺すりながら『声』を掛けていると、少し時を置いて、目を閉じたままの彼からかすかな『声』が聞こえてきた。
〈…僕は…大丈夫…です……お怪我は…ありませんか?〉
『怪我? 怪我なんてしてないよ!
それよりリュアティスさんは?』
〈…平気…です……少し…疲れまし…た〉
『疲れてたら、ベッドで寝ないと! ね! あっちの!』
エリスレルアがリュアティスの上半身を抱き起したが、彼からの反応がない。
『リュアティスさん? リュアティスさん!
リュアティス!』
何度呼びかけても、返事がない。
抱き起したことで彼の頬がエリスレルアの素肌に直接触れたが、呼吸が弱く、体温も下がっていくようで、エリスレルアは生まれて初めて戦慄した。
これって……何?
これって…………これって!
エリスレルアの動悸が次第に激しくなっていく。
―――リュアティスさんが……死んじゃう!!
そんなの、いやだーーー!!!
『『『誰か、来てーーーー!!!
リュアティスさんが死んじゃうーーー!!!』』』
(((((えっ!? 王子が???)))))
エリスレルアの絶叫が王都じゅうに響き渡り、家の明かりが一斉に点いた。
「ちょっと行ってくる!」
「あなた! これを!」
家にあるありったけの薬草と魔力の回復薬をを渡す妻。
「おぉ!」
どこの家でも似たようなやりとりがあり、貴族も平民も続々と王城へ集まっていく。
もうすぐ公爵邸に着くところだったレミアシウスは仰天して立ち止まり、あとのことを警備兵に任せて歩き始めていたレイテリアスたちは、息をのんで固まった。
「リュアティスが、死ぬ!?」
カルファレスの言葉に、レイテリアスは自分に身体能力を強化する魔法をかけて走り出した。
「そんなわけ、ないだろ!!」
当然のことながら、エリスレルアたちのところに最速で来られたのは公爵邸にいた人間だったが、近過ぎて半分以上の使用人たちは気を失っていた。
レステラルスが扉を開けると、部屋の真ん中に座っているエリスレルアが、涙をこぼしながらリュアティスの頭を抱きしめていた。
ドレスが切り裂かれているのを見て逆上しそうになったレステラルスだったが、エリスレルアの周りの空気が虹色に明滅していることに気づき、彼女を刺激してはいけないと、そっと近づいた。
『レステラルスさん!』
『どうしたんだ? リュアティスは眠っているようだな』
『返事、しない……
息が……息が、ちょっとしかしてない……
……だんだん冷たくて……』
レステラルスは、内心ではものすごく焦っていたが、パッと見た感じでは、一刻を争う病でない限り異常は見られない。
すぐ傍まで行ってしゃがみこみ、手を取ると、確かに冷たくて脈も弱い。
集中して魔力の流れを感じ取ってみたら、リュアティスの中には魔力が皆無だった。
これは確かにまずい、と思ったレステラルスだが、それ以上に驚きの現象がおこっていた。
(この子から魔力が流れ込んでる!!)
『これは、魔力欠乏症だよ』
『マリョクケツボウショウ?』
(異世界から来た二人は、不思議な力は持っているが、魔力なんてないはずだ。
なのになんで、この少女の中に魔力が……)
『リュアティスに必要な力がすごく少なくなって、動けなくなる病気だよ』
『病気!?』
『あー……っと、病気じゃなくて……そうだな……
お腹が空き過ぎて動けないのと同じ感じだよ』
(ただ、この子からの補給がなければ命に関わるほどの、ひどい状態だ)
『リュアティスさん、お腹が空いてるだけ?』
『そうだよ。
けど、この状態じゃ食べられないから、特別な薬を与えたい。
ベッドに運んでもいいかな?』
『……うん……』
エリスレルアが両手を離し、レステラルスはリュアティスを抱き上げた。
彼女も立ち上がって自分に付いてきたので、「ドレスを着替えないと」と言いかけてやめた。
今彼女を危篤状態に近い彼から離すのは危険だとレステラルスには感じられたのだ。
二人のやりとりを廊下で聞いていた侍女たちがリュアティスの部屋に先回りし、ベッドを整えたり、魔力の回復薬を準備する。
リュアティスを抱いたレステラルスがエリスレルアの部屋を出た時、ちょうどレイテリアスたちが駆け付けた。
彼らが口を開く前に大声を張り上げるレステラルス。
「何か上等な魔力をたくさん食べれば、リュアティスはすぐよくなるぞー!
大丈夫、大丈夫! ハッハッハ!」
((((上等な魔力を……食べる???))))
『うん。よかった!』
((((ああ、そういうことか))))
この物語をお読みいただき、ありがとうございます!
次回予告〔ノーカウント〕




