50 二人の王子様
「夕食の準備が整いました」
エリスレルアたちが侍女に付いていっていると、玄関のほうが騒がしくなった。
「何かな?」
「さあ?」
「行ってみる?」
「人んち、勝手にウロウロしちゃだめだろ」
「でも、気になるじゃないー」
「気になっても、スルーするもんなの!」
「ぶー」
二人がもめていると、レイテリアスがやってきた。
『どうやら夕食には間に合ったようだな』
『レイテリアスさんが―――』
『その呼び方はやめてくれ。
レイテリアス、でいいよ』
『で、でも、王子様に向かって、ため口は……』
『僕は確かにこの国の王子だが、きみはこの世界の人間じゃないだろう?
しかも、17歳だとリュアティスに聞いた。
つまり、僕たちは同格じゃないか。
だから、『さん』は付けなくていい。敬語もナシだ。
僕もきみたちに対してそうするから』
あのあと、すっかりレミアシウスは普段のレミアシウスに戻っていた。
せっかくセルネシウスを装っていたのに、エリスレルアがそのイメージをぶち壊したのだ。
この人、完全に王子様だよな~。
この人だと、普通に、平然と、『王子様の甘い言葉』を発しそうだ。
コホンと、一つ咳払いをしてレミアシウスは少しはにかみながら質問した。
『レイテリアスが呼んだ人が来られたということ?』
『そうだよ。一緒に迎えに行こう。
エリスレルアちゃんも』
「やった!」
エリスレルアが何と言ったのか、レイテリアスにはわからなかったが、その表情から感情を読み取って、レイテリアスもにっこりと笑った。
『あ、彼にも敬語は不要だよ。
僕と同い年だからね』
彼?
玄関ホールへ行くと、正装した体格のいい青年がいた。
『やっと来たか、カルファレス』
『俺は剣技の鍛練中だったんだ!
公爵邸を訪問するのに、汗まみれで来られるか!
って、その方々は……どなた?』
『リュアティスが異世界から召喚した方々だ。
こっちがレミアシウス君、17歳。
で、こっちの彼女が妹君で、エリスレルアちゃん。12歳だ』
『12歳? リュアティスと同じくらいに見えるが……』
まあ、そうだよね。
『これから夕食だ。お前も来い』
『いきなり行っていいのか!?
公爵に挨拶もしてないぞ』
『公爵たちはもう席に付いている。
着席して待っていてくれと頼んで出てきた。
お前が遅いんだよ』
この来たばかりの青年、レイテリアス君…レイテリアスと普通にしゃべってる。
ってことは、もしかして、この人も王子様?
王子様だらけだな~~~
『それに、お前、公爵の前に挨拶しなきゃなんない人たちがいるだろ……』
『はっ! そうだな。
挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。
私は、カルファレス・ミルテラスタ、リュアティスとレイテリアスの兄で、この国の第3王子です。
以後お見知りおきを』
優雅なしぐさで挨拶するカルファレスに、やはり王子様はすごいな、とレミアシウスは思った。
『レミアシウス・ラ・ルイエルトです。
よろしくお願いします』
「エリスレルアです! よろしくです!」
さすがにこの、エリスレルアのこっち語の挨拶だけはレミアシウスも覚えた。
カルファレスが赤くなりながらレイテリアスに擦り寄り、小声で話しかけた。
『この、可愛い女の子は、なんなんだ?
交際とか申し込んでも構わないか?』
(12歳の子供にか?)
カルファレスの新たな一面を発見したな、と苦笑するレイテリアス。
『だめだ。彼女はリュアティスの婚約者だ』
『え…………………』
エリスレルアをまじまじと見たカルファレスは、大笑いした。
『ワッハッハー! んなわけないだろー。
あいつがどうやってこんな可愛い子、見つけるんだー?
冗談も休み休み言えよな~! ハハハハッ!』
豪快に笑われたがレミアシウスとしてはすぐ傍にエリスレルアがいるのでどちらの王子にも賛同できない。
レイテリアスー!
エリスレルアがいるところで『婚約者』関係の話をしないで!
焦った彼がそう思った時。
「おにいさま、コンヤクシャって何?」
ゲッ!
『ん?』
わーーっ!
向こうの言葉はわからないはずのレイテリアスがエリスレルアのほうを見た。
何か考え込んでいる。
それを見たレミアシウスは、ますます焦った。
最悪だー!
この人、勘がものすごくいいのに!
なんとか話をそらさないと!
「え……えーーーっと………あーー!
そうだ!
夕食食べに行くところだった!」
「は! そうだった!」
エリスレルアが食堂へ駆けていった。
ホッとして後を追おうとしたレミアシウスにレイテリアスが声をかける。
『きみ、何か今、ごまかした?』
『え、やだなー、そんなことないよ』
……バレてる気がする……
いや、バレかけてるだけで、完全にばれてるわけじゃない。
僕たちの言葉は彼にはわからないのだから。
『とにかく、お腹空いたんで、夕飯にしましょう……』
それだけ言ってエリスレルアの後を追うレミアシウスは、背中にひしひしとレイテリアスの視線を感じていた。
…はぁ…
食堂に入ると、先に席に付いていた公爵たちが立ち上がり、カルファレスが一番上座に座り、次にレイテリアス、その隣にリュアティスが座って、レイテリアスの向かいに公爵が、リュアティスの向かいにレステラルスが座った。
レミアシウスがリュアティスの隣に座り、その向かいにエリスレルアが座る。
「いただきます!」
両手を合わせたエリスレルアのこの挨拶に、二人の王子が不思議そうな顔をしていると。
「いただきます」
リュアティスが同じように挨拶して食べ始めた。
その彼に、レイテリアスが問うた。
『リュアティス、今、何と言ったのだ?』
『「いただきます」です』
『なんだ、それは?』
『彼らの世界の食事前の挨拶です。
食材と、この状態にしてくれるまでに携わった人々への感謝の言葉だそうです』
『へぇ』
それから普通に食事は終わり、満足したエリスレルアが席を立ち、リュアティスも席を立った。
レミアシウスも席を立とうとしたらレイテリアスに止められた。
『まあまあ、いいじゃないか。
お子様たちは放っておいて、僕たちは飲もうよ』
『いえ、僕は……』
この方々の傍から早く逃げたい……
『この世界では16歳以上は飲んでもいいことになっているんだが、酒がだめならジュースでもいいよ?』
お酒がだめっていうより、部屋に戻りたいんだー!
心の中で涙に暮れながらも、公爵たちの顔をつぶすことになってはいけないな、とレミアシウスはしばらく彼らに付き合うことにした。
それから半時ほど経った頃。
『王子、私たちはもう休もうと思いますが、王子たちはどうなさいますか?
王城や学園寮へお帰りになるなら、馬車をお出ししますが』
『んー?
少し酔ってきたから、今日は泊まることにするよ。
こんな状態で馬車に揺られると、気持ち悪くなるからね』
『そうだな、俺もそうしたい』
えぇ!?
『では、部屋を用意させるので、そちらでお休みください』
そう言って軽く会釈し、公爵たちは退室していった。
広い食堂内には王子二人とレミアシウス以外は給仕している侍女たち数名のみとなり、ガランとしている。
『じゃ、僕もこれで』
レミアシウスが席を立つとレイテリアスも立ち上がった。
少しよろけてうつむきながらレミアシウスの肩に手を置く。
『大丈夫ですか?』
心配になって顔を覗き込もうとしたレミアシウスの耳元で、レイテリアスがささやいた。
『きみ、何か隠しているよね?』
ギクッ!
この王子……酔ってない!?
『別に、何も―――』
否定するために彼のほうを見ようとしたら、レイテリアスの唇が頬に当たった!
『!!??』
近過ぎるだろ!!
反射的になぎ払おうとして、その手を掴まれた。
やっぱ、酔ってないよね!
蒸留酒のビンを片手に掴んで手酌で飲んでいたカルファレスが、その様子を見て笑った。
『ハハハ! やめろ、レイテリアス!
彼が驚いているじゃないか』
フッと笑って離れるレイテリアス。
『いいじゃないか、少しくらい。
僕としては、結構、好みなんだよねー』
何が?
『まぁ、それはー…俺もわかんなくは、ない』
………。
『だろ~?
だから、今夜は3人で―――』
『部屋に戻ります!』
真っ赤になって扉へ向かうレミアシウスに、レイテリアスはおかしそうに笑った。
『冗談だよ』
冗談じゃないでしょ!
『きみの部屋って、エリスレルアちゃんと同部屋? 別?』
『……公爵が部屋はたくさんあるとおっしゃってくださり、別ですよ』
隣同士だけど。
『じゃ、2次会はきみの部屋にしよう。
ここは広すぎる』
え゛っ!?
レミアシウスがレイテリアスから更に3メートルくらい離れた。
それを見て、二人の王子は顔を見合わせ、吹き出した。
『何もしやしないよ。
きみが隠していることを知りたいだけさ』
あ~。
本当の目的はそれか。
『……こっちです』
部屋を出ていきながらレミアシウスは思った。
王子様の相手は…………疲れる。
とうとう50話まで来ました!
ここまでこの物語をお読みいただいた方、大変感謝しています。
ありがとうございます!
次回予告〔光の塊〕




