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5 海沿いの牧草地

 落ちた。

 思いっきり落ちた。

 どれだけ思いっきりかというと、そうだな。

 10階建てのビルの屋上くらいの高さかな?


 それでなんで無事だったかというと―――

 まあ、正確に言えば、ルイエルト星で似たような高さからにいさんのベッドの上とかに落ちた時ほど無事ではなかったけど


 なんで命に別条がなかったかというと―――

 まあ、ルイエルト星人は基本的には死なないんだけど


 で、なんで軽傷で済んだかというと―――

 落ちた場所が、地面直撃とかじゃなかったからだ。


 そして、なんで僕が、こんなに冷静に、誰が聞いてるわけでもないのに、状況説明をしようとしているかというと。


「エリスレルアの、ボケーーーーッ!!!」


 と、溜めるだけ溜めてから叫びたかったからだ。


「ちゃんと行き先イメージしてからテレポートしろって、何度も言ってるのに」


 レミアシウスが落ちたのは、屋根が布を張っただけの、簡易的な干し草用の小屋だった。


 ここはルイエルト星ではないのでさすがに無傷というわけにはいかず、打ち身と右手首の捻挫、布に擦った時にできた擦過傷、そして、衝撃で小屋が潰れたことによって四隅にあった柱が内側に倒れてきてそれに当たり、頭に打撲を負った。


 『力』を使って自分の上に乗っている柱を少し浮かせ、その下からなんとか抜け出す。

 自分を助けてくれた小屋の屋根だった布の上から地面に降り、痛む右手首を左手で押さえながら振り返ると、そこには跡形もなく壊れ、中にあった干し草のほとんどが外へ飛散してしまっている元小屋の残骸があった。


「これ、直さないとダメかな?」


 誰に問うでもなく、なんとなく口にしただけだったのだが。


「? エリスレルア?」


 エリスレルアの気配がない。


『エリスレルアー?』


 またどこかに隠れて自分を驚かそうとしているのかとも思ったレミアシウスだったが、なんとなく、それは違うような気がした。

 辺りは手ごろな広さの牧草地で片手に森、向こうに山、残りの柵の向こうには海が見える。


「暑いな」


 何気なく空を見上げたレミアシウスは、一見、普通の牧草地帯に見えるここが、地球ではないと確信した。

 空には三つの太陽があり、それらは三角形を構成していたのだ。


 三つもあるのに、別に地球の3倍の気温になってるわけじゃないから、みんな地球の太陽より遠いか、小さいか、だろうな。


「それにしてもエリスレルアのヤツ、遊園地から出るなってあんなに言ったのに、ほかの星まで飛ぶって、どーいうことだよ」


 テレポートして出ていっても、テレポートで戻ってくれば構わないんだけど。

 僕が「出たら入る時にお金がいる」って言ったのは、そう言っておけば勝手に遊園地の外に出ていかないかなって思ったからだし。


 (ひと)()ちながらも、あの髪の長さではさすがに星間テレポートは無理だということを、彼はわかっていた。


 それができるなら、自分だって月くらいなら行けてもおかしくない。


 僕のテレポートなんて、地球じゃ最高に条件を整えても10キロくらいが関の山だけどさ。

 てか、これ、僕だけこの星に来てたら、どーしよ!


 焦りながら自分の持ち物を確認する。

 ショルダーバッグの中身は、財布、ハンドタオル3枚、フェイスタオル2枚…

 ため息が出た。


「遊園地ならこれでいいけど、知らない星でサバイバルとかだと何の役にも立ちそうもないな」


 エリスレルアもここにいるって、信じよう!


 海の見え方の感じから海面からの高さが結構ある気がして柵に近寄って下を覗くと、レミアシウスが感じたとおり、そこは50メートルくらいの断崖絶壁となっていた。

 そして、かなり沖に切り立った岩肌をした複数の島々が見える。


 海には異常がないようだから、海には落ちてないようだ。


 下手なダジャレっぽくなって苦笑いした時、レミアシウスは彼女のテレパシーを感じた。


〈レミアシウスおにいさまーー〉


 いつものエリスレルアのテレパシーとは比べ物にならないくらい弱く、彼女の身に何かあったのではと慌てかけたレミアシウスだったが、今の彼女は自分とそれほど差がないことを思い出し、この強さでも当然か、と思い直す。


 とりあえず、ここにいるのは僕だけじゃないみたいだ。よかったー。

 とはいえ、精いっぱいの強さで叫んでいるはずだから、その『声』がこんなに弱いということは結構離れているのかな?


 なぜそんな遠くに、と思ったが、一つだけ心当たりがある。


 あの時、僕はエリスレルアを白い模様の外へ弾き出そうとした。

 けど、エリスレルアのテレポートのほうが優先された。

 そのテレポートの途中で僕の『力』が働いたのかも。


 だから彼女とこんなに離れてしまったのかもしれないなと思いながら、自分はここにいるという思いを込めて、全力で『叫ぶ』。


『エリスレルアーーー!!!』


 すると、今度はさっきよりクリアな『声』が返ってきた。


『いたーー! すぐそこ行くねーー!』


 ―――え?


 普段ならいいけど、今の彼女は『力』の強さが自分とそれほど変わらないはず。

 どこにいるのかわからないのにテレポートするのは危険すぎる。


『待て!』


 と言われて待つヤツじゃないのは百も承知だから、予期せぬ事態を警戒して身構えた。

 が、なかなか何も起きない。


 ん?


 「何してるんだ?」と聞こうとして、聞こえてきた内容にずっこけた。


『おにいさま! ガイコツが死んじゃった!』


 はぁ???

 ガイコツが……死んだ???


 って聞こえたけど……ガイコツって、普通、死んでるからガイコツなんじゃ?

 ……聞き間違いかな?


『……ごめん、エリスレルア。電波の調子が悪いのか、よく聞き取れなかった。

 もう一度言って』


 テレパシーに電波は関係ないけど。

 地球暮らしをしていた時の名残りだ。ハハハ。


『おにいさま、デンパって、何?』


 ……………………。

 次回予告〔戻ってきちゃダメ〕

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