49 許嫁の解消
リュアティスがレイテリアスと対峙している頃、許嫁関係を解消するためにベシス家を訪れていたアルデラフト王は用事を済ませ、城に戻る馬車に揺られていた。
ベシス家の者たちは極力表に出さないようにしていたが、相当憤っているのは肌で感じられた。
(彼らとはやはり縁がなかったということなのだろうがな)
リュアティスが生まれて少しした頃、アークレルト公爵が仲のいい男爵家の生まれたばかりの女の子と許嫁関係を結んだのだが、2歳の時に不慮の事故でその子が亡くなってしまい、次の許嫁を探している公爵にベシス侯爵が上手く取り入って自分の娘を許嫁にしたのだ。
その事故に不信感を抱いたレステラルスが秘かに調べ、ベシス家の関与が疑われたが証拠がなく、黙認せざるを得なかった。
アルデラフトとしては、ベシス家は侯爵の中でも重鎮であり、権力欲が強過ぎるところはあったが職務は全うしており、リュアティスの婚姻の相手として不足なところはなかったため放置していた。
気に入らなければ当事者が相手を見つけ、当主を動かせば解消できるのだから。
(それより問題なのは、リュアティスの選んだ相手だ。
あふれ出している圧倒的なオーラを思い出すだけで身体が震える。
あれを感じ取る資質のない者が危険に気づかず彼女に無礼を働けば、一瞬で消し去られてしまうだろう。
ま、自業自得ではあるが)
「とりあえずリュアティスの問題はこれで終わりだ。
あとは……リンシェルアだ。
いつ戻ってくるのだ……
治癒しているのなら、私のもとへ早く戻ってこい」
☆ ☆ ☆
「制限のない召喚?」
「はい。
召喚先に対象者がいる時だけ、普通の召喚に紛れて自動的に発動するそうです。
魔法陣も小さく、消費魔力も少なくていいようです。
その代わり、意識して発動することはできません」
「そのような召喚、聞いたことがないが……」
「レイテリアス殿下。
私の妻も制限のない召喚によってこの世界に来た者なのです。
ですから、そういう召喚があるのは確かなことなのです。
ただ、異世界から何かを召喚しようとした時に、たまたまその近くに召喚相手がいないと発動しないものなので、滅多に起こらない上に、起こっていても気づかないのです」
私は気づくまでに10年かかりました、とアークレルト公爵は付け足した。
「それまでは、あの召喚では呼べるはずのない人がここにいる、これは一体どういうことだろう、とずっとモヤモヤしておりました」
考え込むレイテリアス。
「ということは……どちらかといえば、その少女の召喚に兄君が巻き込まれたほうなのかもな」
「そうですね。
母上は、彼女には兄君が一緒でないと何か不都合があったのではないか、とおっしゃられていました」
(確かに、あいつだけこっちに来ていたら、10分も持たずにあっちへ帰ろうとして、世界は終わっていただろうな)
レミアシウスの背筋が凍り付く。
「母上は、制限のない召喚は深層心理の表れで召喚魔法の中にいつも含まれており、それが強い人ほど召喚の成功率が高くなるともおっしゃっていました。
ということは、召喚魔法に長けている兄上は相当強いはず。
つまり、兄上の真のお相手も、異世界にいらっしゃるのかもしれませんよ?」
「何っ!?」
「これ、リュアティス!
殿下のお心に波風を立てるでない。
殿下、お相手は、異世界におられるかもしれないだけで、この世界におられる確率のほうが圧倒的に高いのです。私もリュアティスもたまたま異世界にいただけでリンシェルアのお相手はこの国にいらっしゃったのですから」
「……なるほどな」
しばらく考えて、レイテルアスがリュアティスを見た。
「それで向こうの世界へすぐに送り返す気がなくなった、ということか」
赤くなって横を向いたリュアティスが、ボソッとつぶやいた。
「そうですよ。
いけませんか?」
そのリュアティスの様子に、心から納得したレイテリアスはにこやかに笑った。
「いけなくはない。
僕がお前でもそう思うだろう」
リュアティスは心の中で『よし』と思った。
「それで? その彼女はどこにいる?」
その時、まるで見計らったかのように勢いよく扉が開いた。
『やっと行っていいって言ってくれたー!
もー、せっかく戻ってきたのに、リュアティスさんは私に水とかかけていなくなるし、服を着替えろとか、まだ行っちゃダメとか、ネスアロフさんは言うし。
ネスアロフさんって案外きれい好き?
まあ、川に落ちたのは失敗だったけど浅くてよか…った…って………誰?』
『僕の兄です』
落ちながらも摘んだ花を握ってテレポートしてきたエリスレルアは、待ち受けていたリュアティスにその花を差し出したところ、受け取ってはもらえたのだが、彼に水魔法で頭から水をかけられ、風魔法で乾かされ、右手に感謝のキスをされ、ネスアロフにあとのことを頼まれて、部屋に残された。
その後、侍女たちに着替えさせられたのだが、リュアティスのところに行こうとすると、ネスアロフチェックに引っかかり、通してもらえなかったのだ。
もちろん、ネスアロフは彼女の服装が気に入らなくていろいろ指摘していたのではない。リュアティスからの合図があるまで、エリスレルアを部屋に引き留めていただけである。
リュアティスとネスアロフは、リュアティスの通信方法をアレンジして訓練し、合図くらいなら送り合えるようになっていた。
せっかく戻ってきたのにリュアティスがどこかへ行ってしまい、しかも、彼のところに行こうとする度に理由をつけて足止めされたことによって、むくれ気味の彼女の『声』に、レミアシウスと慣れているリュアティス以外の3人はひどい頭痛に襲われた。
その上、レイテリアスには更に追加のダメージが。
『おお! リュアティスさんのおにいさん!
はじめまして! エリスレルアです!』
頭の中にキーンと響きながら虹色に輝いている彼女の『声』に、レイテリアスがたまらず声を上げた。
「リュアティス! なんとかしてくれ!」
「エリスレルア、もう少し加減してあげてください。
兄上には強過ぎるようです」
『あ! ごめんなさい! これくらい?』
リンシェルアがおこなった多人数との『相性診断』の経験から、これくらいなら大抵の人は大丈夫という強さをマスターしていたエリスレルアは、我に返ってテレパシーの強さを加減した。
「はい……ありがとうございます」
まだくらくらする頭をゆっくりと振ったレイテリアスはエリスレルアに向き直り、彼女の前まで行って正式な挨拶をおこなった。
「リュアティスの兄、レイテリアス・ルコルタスです。
以後、お見知りおきを」
「こちらこそ、よろしくです!」
☆ ☆ ☆
「なんたることだ!
セフィテア! だから早く王子を落とせと言ったのだ!
まさか、許嫁を解消されてしまうとは!」
「…申し訳ございません、お父様…」
唇をかみしめて泣きそうになっているセフィテアに、姉たちは冷ややかな視線を送っていたが、母親は同情していた。
「あなた。仕方ないではありませんか。
はたから見ていても、リュアティス王子はそういうことに関心がないようでしたし、セフィテアはがんばったほうだと思いますよ?」
「結果がこれでは意味がない!
だが……王自らが解消しにまいられたのだ。
どうしようもあるまい。
セフィテアが王子と同年に生まれた時点で計画した策略だったのに、失敗に終わるとは」
「…申し訳ございませんでした」
絶望的な思いでいるセフィテアに、ベシス侯爵はどうしたものかと頭をひねる。
「まあよい。過ぎたことよりこれから先だ。
セフィテアの相手は他に見つけよう。
王家の5男など、元々それほど力などないのだ。
王家と血縁関係を結べるというメリット以外はな」
それが一番の望みだったのだが、と悔しがりながらも自家の発展のため、次の手を考えるベシス侯爵であった。
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次回予告〔二人の王子様〕




