48 召喚された人
「お久しぶりです、アークレルト公爵、セルアティス伯爵」
「殿下、よくまいられました。
お母上はご息災ですか?」
「えぇ、とても」
貴賓室に招かれたレイテリアスは、二人と当たり障りのない会話をしながらリュアティスが来るのを待っていた。
「リュアティスは夏季休暇中、そちらのご領地で療養していたようですが、彼の体調は?」
「はい、おかげさまで休暇明けからは学園に通えそうです」
「それはよかった」
短い沈黙が訪れる。
レイテリアスは、どっちを先に聞くべきか一瞬考え、先に召喚対象者のことを聞くことにした。
「それはそうと、リュアティスから対象指定間違いによる召喚によって地球から人を呼び寄せてしまったがどこにいるのかわからず、探しに行きたいと相談を受けていたのですが、その人物は見つかったのですか?」
「あぁ、それは見つかりました。
彼が管轄している牧草地に召喚されていたようです」
公爵がレステラルスを指し示す。
「はい。
牧草地を管理している者から不思議な言葉を話す者がいるがどうしたものか、と相談され、我が屋敷にて保護しました」
「ふーん…
リュアティスは召喚時に契約しなかったと言っていたのだが、意思疎通はどうやって?」
「その者は、言葉の通じない者と会話できる『テレパシ』という魔法が使えるようで、さして不自由はしませんでした」
「なるほど。
ということは、僕も会話できると?」
「おそらくは」
「その方は、今どこに?
公爵領に保護されたままなのですか?」
((彼女の姿を確認しているのなら彼が来ていることも知っているだろうに…))
「我々がリュアティスとともに王都へ行くと言うと興味を持たれたようで、一緒に来られ、しばらく滞在されるようです。
我々とともに向こうへ戻られることになるでしょう」
「ん? リュアティスは異世界へ早急に戻そうとしていたはずだが……」
「せっかく来たのだからしばらくはこちらの生活を楽しみたいと言われまして」
今のところ筋は通っているな、とレイテリアスは思った。
「是非、お会いしてみたいな」
「少々お待ちください。
例の方をお連れしなさい」
レイテリアスに断ったあと、扉の傍で待機していた侍女に公爵が指示し、彼女は部屋を出た。
再び沈黙が訪れる。
「お連れいたしました」
扉が開き、レミアシウスが中に入って、挨拶した。
『お初にお目にかかります。
レミアシウス・ラ・ルイエルトです。
よろしくお願いします』
「!? これは……?」
頭の中に直接聞こえる声に、さすがのレイテリアスも戸惑った。
「王子、これが『テレパシ』です。
彼はこの魔法で我らに話しかけ、こちらの言葉を理解できるようです」
「ふむ。
レイテリアス・ルコルタスです。
正式名称は、レイテリアス・ルコルタス・ラ・クレンリア、この国の第4王子です。
以後、お見知りおきを」
『こちらこそ、丁寧なご挨拶、痛み入ります』
挨拶しながらじっと観察するレイテリアス。
(整った中性的な顔立ちに大きめの濃い青緑色の瞳、空色の髪。
穏やかで人当たりがよさそうな雰囲気だし、年格好も背格好も大体僕と同じくらいに見える)
異世界の扉の向こうにこの彼を認めたら、リュアティスでなくても注目してしまうかもしれないな、とレイテリアスは思った。
「いきなりこっちの世界に呼ばれてしまって大変だったでしょう?」
『はい。レステラルスさんのところの牧草地を管理している方がとてもいい方で、助かりました』
普通に会話しているように見えるレミアシウスだが、内心は、ドキドキものだった。
礼儀作法はともかくセルネシウスとともにずっと過ごしていたエリスレルアと違い、地球であちこち転居しながら成長していった彼は、『高貴な方々』的な人物とはあまり接触がなかったのだ。
落ち着いているように見える態度は、セルネシウスならこんな感じかな、と真似しているだけだった。
(ボロが出ないうちに部屋に戻りたいー!)
そう心の中で叫びながら何とか話を合わせて歓談していると、レイテリアスがとうとうここへ来た一番の目的を口にした。
「ところで、何やらリュアティスに新しい彼女ができたとか、できてないとか……昨日一緒にこちらへ来たとか、小耳にはさんだのですが……というか、リュアティスは何をしているのですか?
兄として挨拶したいと言ったはずですが」
タイミングよく別の侍女が扉を開けた。
「リュアティス様がいらっしゃいました」
「お久しぶりです、兄上」
「少し見ないうちに大きくなったか?」
「なりませんよ」
『リュアティス君! エリスレルアは戻ってきたの?』
『えぇ、少し前に。
ですが、直前に川に落ちたとかで、びしょ濡れだったのです。
身支度を整えるのにしばし時間がかかります』
『あいつ、何やってんだ、ほんとにもー!
ごめんね!』
「? リュアティス?」
『いえいえ』
「兄上こそ、僕のことを見張っておられたのですか?
昨日王都に帰ったばかりで、もうお会いすることになるとは思ってもいませんでしたよ」
クスッと笑うレイテリアス。
「お前が可愛らしいお嬢さんと一緒に帰ってきたと聞いたのでな。
これは何を置いても挨拶しないといけないだろう?」
「そうですか?」
「それで、どんなお嬢さんなのだ?
セフィテア嬢との許嫁関係を解消できるほどの者なのか?」
「父上が了承してくださいました」
「ほぉ……」
ここまで少し微笑みながら話していたリュアティスは、真顔になってレイテリアスを見つめた。
「ですから兄上、彼女は僕の将来的な婚約者です。
今後どのような理由が発生しようと、彼女に手出しすることは僕が許しません」
「何!?」
「了承していただけないのでしたら、彼女に会わせるわけにはまいりません」
「リュアティス……」
レイテリアスは考えた。
リュアティスは本気だ。
休み前はお子様だったのに、少し見ないうちに随分男らしくなったものだ。
公爵領で何があったのだろう?
ま、それは追々聞くとして。
リュアティスにここまで言わせる少女に、会わずに帰ることなどできるものか。
レイテリアスが優しい笑みを浮かべた。
「わかった。了承しよう」
「ありがとうございます」
リュアティスも微笑む。
「それにしても、お前がそこまで言うほどの女性がアークレルト公爵領内にいたとはな。母上のご実家の隣の領なのに、まったく気づかなかったぞ?」
「兄上……ここから先の話は他言無用でお願いいたします」
「? それは僕が判断する」
ですよね。
リュアティスたちは、レイテリアスの態度によってどこまで話すのか決めていた。
この場合だと、制限のない召喚までということになる。
つまり、エリスレルアが自力で世界を渡ったことは秘匿する、ということだ。
「では、お人払いを」
「うむ。皆の者は下がれ」
レイテリアスの命に従って従者や侍女たちが退室し、部屋の中にはリュアティス、公爵、伯爵、レイテリアス、そしてレミアシウスの5人だけとなった。
「彼女は、おじいさまの領内にいたわけではありません」
「ん?」
ベシス家に対して彼女を『婚約者』だと主張する以上、兄上に紹介しないわけにはいかない。
そして、彼女がレミアシウスさんのことを『おにいさま』と呼ぶのを止めるのは不可能だ。
つまり。
「僕の婚約者であるエリスレルアさんは、レミアシウスさんの妹で、異世界から召喚された方なのです」
次回予告〔許嫁の解消〕




