47 素早い反応
「リュアティスが、王城でも学園寮でもなく、公爵邸に?」
「はい」
同行者の中にいる見知らぬ一人の青年というのが例の召喚対象者だろうから、その者を連れて王城へ来るものと推察していたのだが、ひとまず公爵邸に連れていったということだろうか?
リュアティスが今日中に王都に着くという情報はとっくにレイテリアスの耳に入っていた。
同行者は、アークレルト公爵、公爵の弟、リュアティス、ネスアロフ、近衛騎士数名、侍女数名という馬車3台を連ねた旅だった。
帰省していた子や孫が寮へ戻る際、一緒に家族が王都へ来るのは珍しいことではないから、それだと思っていたが……
今年の夏季休暇は帰省もせず、近場を周遊しただけで、あとはほとんど城で過ごしていたレイテリアスは、そういうこともあるか、と考えを改めた。
対象者を発見しても向こうの世界へ送り返すのにいろいろ準備がいるかもしれないし、リュアティスがどう思っているかはともかく、彼の祖父は彼を溺愛に近いほど可愛がっているので、学園が始まるまでは公爵邸で過ごせと言ったのかもしれない。
召喚魔術師たちにはリュアティスから依頼があればすぐに知らせるように根回しをしてあるから、気づかないうちに送還されてしまうことはないだろう。
王城の自室で夕食を口に運びながらいろいろ考えていると、報告にはまだ続きがあった。
「王都に入るなり馬車のカーテンが全て閉められたため、念のため、公爵邸の玄関付近が見える塔から様子をうかがっていると、例の青年のほかにもう一人、少女が王子にエスコートされて馬車を降りました」
何!?
「おそらく、青年の世話係の者ではないかと―――」
バン!!
レイテリアスがテーブルを叩き、報告者が飛び上がった。
「そんな少女がいたなど、これまでの報告にはなかったぞ!」
「そ…それは……目にする時は大抵侍女たちに交じって食事をしているか、青年の傍にいるかだったので、青年専属の侍女見習いか何かだと…………」
侍女見習いをリュアティスがエスコートなどするものか!
ふーーっと息を吐く。
「それで? その少女は、リュアティスと同じ馬車に乗っていたのだな?」
「侍女たちと一緒のこともありましたが、公爵邸に着いた時には確かに」
青年のほうが引っ掛けだった可能性が出てきた。
まあ、セフィテア嬢が嫌過ぎて、向こうで誰か見繕ったのかもしれないが。
「それから……」
「まだ何かあるのか?」
イラつき気味に問われ、口ごもりそうになった報告者は、おそるおそる口を開いた。
「王が、お忍びでアークレルト公爵邸にお越しです」
!!
「……父上が?」
これはただごとではない。
「食事はもういい。
紅茶をいれてくれ」
「「かしこまりました」」
侍女たちがテーブルの上を片付け、別の侍女が紅茶の用意をする。
紅茶の香りに癒されながら、レイテリアスは考えをまとめていく。
両方とも真実なのかもしれない。
彼が召喚された者で、彼女は許嫁対策として見繕った者、とか。
けど、色恋ごとにほとんど興味を示していなかったお子様リュアティスが、そんなことするだろうか?
ん?
……まさか……
―――――――――本命!?
飲みかけていた紅茶を吸い込んでしまい、レイテリアスは思いっきりむせた。
うそだろ?
……というのは、失礼過ぎるか……
「誰かいるか」
レイテリアスの声に、侍女が一人姿を見せた。
「アークレルト公爵家へ使者を送ってくれ。
明日、午後1時頃に僕がお伺いすると。
えーっと、そうだな……
昼食はとってから行くので食事の準備は不要。
リュアティスのハートを射止めたご令嬢に兄としてご挨拶申し上げたいだけだ、と」
「! かしこまりました」
「昼食は不要」ということは、「夕食を用意しろ」ということである。
自力で次元を越えた者への興味は尽きないレイテリアスだが、それ以上に、リュアティスがエスコートしたという少女に興味津々となっていた。
明日が楽しみだ。
☆ ☆ ☆
「どうしたものかのぅ」
「どうしたものかねぇ」
「……兄上の動きが早過ぎます。
どこかで見張っていたのでしょうね」
「「「ハアァ……」」」
公爵の部屋で、3人は盛大にため息をついた。
「見張っていたとしてもだ。
彼女とリュアティスが一緒にいたのは最後の休憩所からだ。
あとは侍女たちに混ざっているか、レミアシウス君と一緒にいた。
見張りの者は次元を越えたと思われる青年を主に見張っていたはずだから、彼女のことは気にも留めていなかっただろう。
そんな見張りからの報告で馬車を降りる時の様子を聞いただけで、リュアティスの気持ちを見抜いてしまうとは」
「仮にレイテリアスが第2王子だったら、あっという間に第1王子になっていただろうのぅ」
それは言える。
第2王妃の第一子であるシャリシス兄上は、僕から見ても権力争いなど参加したくなさそうなタイプだ。第2王妃に逆らえないだけで。
「まあ、よいほうに捉えよう。
リュアティスの意中の人だという認識となれば、彼女に無礼を働く恐れは少なくなるかもしれぬ」
それはどうだろう?
逆に、先に手を出そうとするのでは……
レステラルスもリュアティスと同じように考えたようだ。
「兄上……あいつはそんな殊勝なやつではない。
自分の欲しいものは何としても手に入れようとするやつだ。
ただ、唯一の救いは、リュアティスのことを可愛がっているということ。
明日来るのも、半分は興味本位だろうが、半分はこいつをからかいに来るようなものだろう」
……気が重い……
「となれば、問題は……」
「……彼女が現在不在だということですね」
アルデラフト王がリュアティスとセフィテアの許嫁関係の解消へ既に動き出しているため下手に隠すわけにもいかなかった公爵は、レイテリアスの使者に「了解した」と返事をしたのだが、お腹いっぱい夕飯を食べたエリスレルアは、今、ロドアルの家にいる。
つまり、明日こっちに戻ってくるとは思えない。
こんなに急にレイテリアスが動くと思っていなかった彼らは、エリスレルアに「ゆっくりしておいで」と言ってしまったのだ。
「戻ってきてくださいと頼めば、こちらに来てくれるとは思うのですが……僕としては、彼女を兄上と会わせたくはありません」
「そうであろうのぅ」
「お前と違って、あいつは手が早そうだし」
「お前と違っては余計です!」
「すまん、すまん」
だが、「彼女は今不在だ」と言ってもレイテリアスが信じないだろうということは3人とも確信していた。
「そうは言っても、彼女に戻ってきてもらうしかないであろう?
あやつは報告した見張りを従者として連れてくるであろうからな」
☆
☆
☆
そして次の日、エリスレルアが戻ってこないまま、昼を過ぎた。
「旦那様。
レイテリアス様がお越しになられました」
次回予告〔召喚された人〕




