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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第2部 第1章 許嫁の解消

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46 公爵家別邸への訪問者

 馬車に乗ったまま城壁に囲まれた王都の城門をくぐり、遠くからでもよく見える学園の時計塔を夕暮れの街なかに見つけた時、リュアティスはホッと息をついた。


 帰って来たんだな。


 今思えば、アークレルト公爵領であったことは、全て夢の中のことだったような気がする。

 それくらい現実的ではないことが立て続けに起こったのだ。


 ここを出発した時、婚約することになるなんて夢にも思っていなかったし、それ以上に、母上の病気が治るなんてありえないことだった。

 毒による肺へのダメージは、宮廷医術師たちが下した診断である『不治の病』で間違いなかった。

 それが治ってしまうなんて、はっきり言って、異常事態だ。


 だけど、全て現実に起こったことなのだ。


 このまま外の景色を眺めながら公爵邸に向かいたかったが、リュアティスは自分側の窓のカーテンを閉めた。


『リュアティスさん?』


 反対側のカーテンをネスアロフが閉める。


『どうして閉めちゃうの?

 きれいな街なのに』


 あなたの姿を極力人に見られないようにするためです。


『こっそり隠れて移動するほうが、楽しいじゃないですか』


 にっこり笑いながらそう言うと、リュアティスの前に座っていたエリスレルアもにっこり笑った。


『なるほど!』


 こういう時は、彼女の単純な性格がとてもありがたい。


『もうすぐおじいさまの別邸に着きますよ』

『おー!』


 レミアシウスが気にしていたとおり、エリスレルアはリルテと遊ぶためにラーレス家へ時々テレポートしていたが、行程の半分を過ぎるとその回数は減っていった。


 結晶石の無駄遣いはレミアシウスが禁止したので、テレポートする距離は長くなっていくのに途中の休憩所の食糧事情では充分なエネルギーを摂ることができなかったからだ。

 公爵家の別邸でリュアティスのおとうさんと会ったあとなら遊びに行ってもいいという条件で、エリスレルアは馬車の中にとどまっていた。


 公爵の侍女たちが乗っている1台を除いた2台の馬車が、公爵邸の門を通って玄関へ向かう。

 玄関前に横付けされた1台目の馬車からアークレルト公爵と伯爵であるレステラルスが降りた。


 次に、2台目の馬車からまずネスアロフが降り、続いてそれなりに正装っぽい服装をしたレミアシウスが降りて、リュアティスが続く。

 最後に、頭に髪飾りを一つ付けただけで、普通のドレス姿のエリスレルアがリュアティスに手を取られながら降りた。


 公爵邸とはいえ、大型の馬車が一度に2台も訪れることは舞踏会でも開かない限りあまりないことなので、どうしても人目を引いてしまうため、目撃者がいてもなるべく不審がられないようにとの配慮だ。


 リュアティスが、見たこともない女性をエスコートしていること自体、詮索好きな(やから)には格好のネタであったが。


「旦那様、陛下は既にお越しです」

「うむ。まず私とレステラルスがお会いする。

 リュアティス。

 お前はお二人を客間へご案内しなさい。

 そこにいる者たちがいろいろ取り計らってくれるから、それに従うように」

「はい」


 あらかじめ伝書鳥でやり取りし、エリスレルアの好みに合わせて整えてある部屋へリュアティスは二人を案内した。

 別室で公爵たちが大人同士の打ち合わせをしているうちに、リュアティスたちはそれぞれ、旅の汚れを軽く流し、身支度を整えた。


 この国の王に会うということでレミアシウスは若干緊張しているが、エリスレルアは普通にお菓子を食べている。


 育った環境の差って大きいな、とレミアシウスが彼女を羨ましがっていると、ノックする音が聞こえた。


「リュアティスです。お迎えに来ました。

 父がお会いするそうです」


 エリスレルアが貴賓室に入ると、王は彼女の前に片膝をついた。


「私がアルデラフト・シュテリアムです。

 この度は、我が妃をお救いくださり、誠にありがとうございました」

「どういたしまして!

 エリスレルアです! よろしくです!」


 リュアティスは隣で微笑んでいたが、レミアシウスは卒倒しそうになっていた。


(王様相手に『よろしくです!』は、ないだろーーー!!)


『リュアティスさん!

 この人は話しかけても大丈夫なのかな?』

『どうでしょう?

 聞いてみますので少し待ってください』


 あの大量気絶事件のあとリンシェルアが計らって、公爵邸にいる者は全て、エリスレルアと一人ずつ『相性診断』と称した顔合わせをし、彼女の『魔法』に適性があるかどうかを判別していた。

 その結果、全員適性があり、この前のように叫ばなければ大丈夫だということがわかった。

 ただ、耐えられる最大値の強さは人によって違っていたため、耐性の高い者ほど彼女の傍で身の回りの世話をすることになったのだ。


 ネスアロフが僕と二人だけになった直後、「あれは、精神攻撃魔法そのものではありませんか!!」と叫び、違うと納得させるのに骨が折れた。


「父上、今から彼女の『魔法』に対する『相性診断』を行いますので、これ以上だと気を失ってしまうと思ったら、片手をあげてください」

「? わかった」


 途中から頭痛がして顔をしかめてはいたが、アルデラフトはかなりの強さまで耐えた。


『よかったー!

 これだとリュアティスさんのおとうさんとも話せるね!』

「そうですね」

「もしだめだったらどうなっていたのだ?」

「申し訳ないのですが気絶させるわけにはまいりませんので、父上には仲間外れになっていただいていただけです」

「なんと!」

「あ、誤解なさらないでいただきたいのですが、『彼女が直接話しかけることができる仲間』から外れるだけです。

 その場合は彼女の兄君が通訳してくださいますので、会話から外されるわけではござません」

「そうか。ならばよい。

 不特定多数の者たち全員が『相性診断』とやらをしなければならないのかと思ったぞ」


 リュアティスは苦笑した。


「そういう場合は、彼女は聞くだけにしていただきますのでご安心を」


 微笑んだ王は、皆に着席を促し、主要メンバーが席についてそれぞれの従者たちが壁際に下がると、まじめな顔になった。


「余は、第5王子、リュアティス・ラディサリスの正式な婚約者として―――」

「父上ーーーー!!」


 リュアティスが大声で叫び、王とエリスレルアがびっくりした顔をして固まり、公爵とレステラルスとレミアシウスは苦笑いを浮かべた。

 公爵が口を開く。


「王よ、それは言ってはならないと申し上げたではありませぬか」

「! そ、そうであったな。

 つい先走ってしまった。すまぬ」


 一つ咳ばらいをして気を取り直し、アルデラフトは改めてエリスレルアたちに視線を向けた。


「そなたたちには家名がないと聞いた。

 それではこの世界では平民以下となってしまうため、あらかじめそちらから申し出のあった、『ラ・ルイエルト』姓を名乗るがよい」

『ありがとうございます』


 立ち上がってレミアシウスが最敬礼した。

 これで、エリスレルアはエリスレルア・ラ・ルイエルト、レミアシウスはレミアシウス・ラ・ルイエルトとなった。


「便宜上、レステラルス義叔父上(おじうえ)の遠縁に当たる者として、彼の屋敷でこの国のことを学びながら過ごすように」

『はい』

『ベンギジョウって?』

『そういうことにしておくといいことがあるよってことだよ』

『なるほどー』


 王がリュアティスに視線を送る。

 瞬きだけ返してリュアティスはエリスレルアに微笑みかけた。


「エリスレルア、夕食の用意ができている時間ですから、レミアシウスさんと一緒に食事に行ってください。

 僕たちはもう少しだけ話してから行きます」

『はーい!

 おにいさま、行こ行こ!』

『お、お前ー! 

 礼儀知らずで、本当に申し訳ありません!』


 王たちに何度も頭を下げたあと、レミアシウスは、さっさと部屋を出ていったエリスレルアをあたふたと追いかけて部屋を出た。


 二人がいなくなると、王は大きく息を吐いた。


「ふうぅぅ~~~……リュアティス。

 なんという姫を迎えたのだ。

 兄君は礼儀知らずと言っておられたが、あの姫はおそらく、こちらが最大限の礼儀を払わなければならぬ、お方であるぞ。

 王としての威厳など、保ちたくもなかったわ」

「申し訳ありません、父上」

「陛下。やはり陛下もそう思われましたか」

「お義父上(ちちうえ)から話を聞き、リンシェルアの病を治したということからも、ある程度は敬意を払わねば、とは思っていたが、部屋に入ってこられただけで膝をつくことしかできなかったわ」


 王城へ呼び寄せなくてよかった、と胸を撫で下ろしたアルデラフトは、リュアティスに視線を戻した。


「リュアティス。

 あの姫は、こちらの都合でこの世界に引き留めることはできないお方だ。

 それでもベシス家の娘との許嫁関係は解消すると言うのだな?」

「はい。

 この先彼女が向こうへ帰り、その後の人生を一人で過ごさなくてはならなくなったとしても構いません。

 その際は、おじいさまの家を継ぎ、養子をとって暮らします」

「そうか。

 では明日にでもベシス家に使いを送り、直接私が解消してくる」

「ありがとうございます、父上」

「リュアティス~?

 わしは、あの子がずっとここにいてくださる場合でも、ひ孫は養子で一向に構わぬぞ?」

「えっ……」

「はっはっは! さすが兄上!

 俺も構わぬぞ?

 できれば、以前提案したように、遠縁の娘ではなく俺の養子にしたかった」

「義叔父上! そのような提案をしていたとは!

 あの子は、リュアティスの婚約者なのだ!

 いずれ私の娘になるのだ!」


 彼女は僕の婚約者であり、あなた方の孫や娘を増やすための者ではありません。

 この物語をお読みいただき、ありがとうございます!


 次回予告〔素早い反応〕

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