43 婚約の条件
リュアティス君のスケジュールがどうなっているのか確認しようと聞いてもらっただけなのに、途中から黙ってしまって、「何やってるんだ?」って聞こうとしたら、消えてしまった。
「おーーーい!!」
あいつ、絶対リュアティス君のところに行ってるよなぁ。
ほかだったらまずいかもだけど、それならまあ、ぎりぎりOK?
何か用があって、呼ばれたのかもしれないし……
だとしたら、向こうから連絡してくるまで待つべきか……
や、そうだとしても、せめて、そう言ってから行けよ!
作業をしながら1時間ほど待ってみたけど、何の連絡もない。
最初は怒っていたレミアシウスだったが、だんだん心配になってきた。
この家の周辺やロドアルさんちの辺りなら好きに散歩していいよ、とは言ったけど、今リュアティス君がいる公爵家は、範囲外だ。
周辺の安全とかも確認できてないし、何か僕の想定外の事態が起こって、とんでもないことになっているのでは!
やきもきしながら更に1時間ほど待った頃、やっとエリスレルアが話しかけてきた。
『おにいさま!』
『お、ま、えー! もう夕方だぞ!
何やってたんだ!』
『ん? 寝てた』
ガクッ
公爵邸まで行って、昼寝!?
何を考えているんだか……
『リンシェルアがね!
馬車を行かせるから、レステラルスさんと一緒に来てって!』
リンシェルア?
『リンシェルアって、誰?』
『リンシェルアだよー』
聞き方間違えた。
『リンシェルアって、どういう人?』
『きれいで、優しくて、髪が長い人ー』
……。
『それで、リュアティスのおかあさん』
それだよ、それ!
僕が聞きたかったのは!
って、リュアティス君のお母さんってことは……王妃様では?
王妃様、呼び捨てかよ……
行くのが怖くなってきた……
『馬車が来るから明日一緒に公爵邸に行ってくれって、レステラルスさんに言うだけでいいんだな?』
『……………それでいいって!
………馬車が着くのは夜中過ぎてからで、明日の朝出発でいいってー』
随分急いでるんだな。
とは思ったが、答えが返ってくるまでの間から、エリスレルアが向こうで誰かに聞きながら話している感じがしたので、レミアシウスは少しだけ安心した。
『わかった。
そっちのみんなに迷惑かけるんじゃないぞー!』
『ラジャ!!』
…………不安だ…………
☆
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午前2時頃、公爵邸からの馬車が到着し、アークレルト公爵からの手紙を携えたネスアロフがレステラルスの部屋を訪れた。
普通なら当然就寝中の時間帯だが、レミアシウスから話を聞いていたレステラルスが起きて待っていたため、すぐに部屋に迎え入れられた。
「リンシェルアの病が……治った…だと!?」
「はい」
詳しい内容は聞いていないネスアロフだったが、公爵から、伯爵宛ての手紙を届けてほしいと手渡された時に傍にいたリュアティスの様子から彼にとっていい方向に話が進んでいるのを感じ、胸を撫で下ろしていた。
手紙を読み終えたレステラルスは、机の引き出しから1枚の紙を取り出し、それに走り書きをしてネスアロフに渡した。
「これを持って、至急ロドアルのところに行ってくれ。
リルちゃんが必要だ」
「かしこまりました」
☆
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朝の8時に出発した僕たちの馬車の旅は、1時間進んで、馬を替えてさらに1時間進み、昼食タイムを含んで2時間休憩し、その後1時間程進んであと数分で公爵邸に着くところまでやってきた。
「リルちゃ~~~ん!」
最初の、馬を替えるだけの休憩所の辺りから、『今どこ?』『今は?』『今どの辺り?』とずっと僕に聞いてきてメッチャうるさかったエリスレルアは、『あと5分くらいで着くよ』と返事したら、走って馬車まで迎えに来た。
正直、今、「この世界で一番誰が好きだ?」って聞いたら、間違いなく「リルちゃん!」と答えるだろうな~。
聞かないけどね。
下手なこと聞いて、にいさんを思い出されると困るから。
レステラルスさんの隣に座っていたネスアロフさんがエリスレルアに場所を開けるために馬車から降りた。
「私、歩くからいいって、おにいさま言って」
『彼女は歩くと言っています』
『リルテも歩くのー』
レミアシウスとネルティの間にいたリルテがごそごそと動き出し、馬車から降りた。
ネルティさんも降り、「二人は私が見ていますので、先にお行きください」と言われ、レステラルスさんがうなずいてネスアロフさんが戻り、馬車が動き出した。
……なんとなく……僕も降りたいかも……
『……あの~……』
『きみに用があるのだ』
そうですよね。
☆
☆
☆
『こ…………婚約ぅーーーー????』
なんでそんな話に!?
到着早々、家じゅうの使用人さんたちが集まっているのではないかと思われるくらい広いホールがぎゅうぎゅう詰めになっている中、アークレルト公爵に、リンシェルアさんの病気をエリスレルアが治したことに関してのお礼を何度も言われ、リンシェルアさんとリュアティス君にも深々と礼をされた。
それが本当なら僕としても「よかったですね」とは思うけど、「何やってんだ、あいつ」って気持ちのほうが強い。
その後、病中、リンシェルアさんが暮らしていたという家に招待され、お茶を出されて、彼女とリュアティス君と僕以外の人たちが人払いされたあと、最初に彼女が発した言葉がエリスレルアとリュアティス君の婚約の話だったのだ。
『無理無理無理無理無理無理!』
婚約って、結婚するってことでしょ?
絶対、無理でしょ!!
あいつ、家のこととか、何もできないぞ!
『エリスレルア、料理とか掃除とか、家庭的なこと、まったくできませんよ!』
『それは使用人がするから大丈夫よ』
や、そういう問題じゃなく!
『リュアティス君! 僕、言ったよね?
あいつはまだ、好きが1種類しかないって』
『僕もそう説明しました』
赤面しながら目をそらすリュアティス君。
リンシェルアさんが、優しい笑みを浮かべた。
『そちらの事情は充分理解しているつもりです。
でも、早くしないと、もっと面倒なことになってしまうのよ』
『面倒なこと?』
あいつの婚約以外に面倒なことなんて……ないでしょ。
『リュアティスには許嫁がいるのだけれど、それを解消するには正式に婚約したい人がいることにするのが一番簡単なの』
……ん?
『それって……許嫁の解消に、エリスレルアを利用するということですか?』
ムッとしたレミアシウスに、リンシェルアが慌てて訂正しようとした時、リュアティスが叫んだ。
『違います!』
『リュアティス……』
『彼女がそういうことにまったく興味がないというか、僕に対してそういう気持ちをまったく持っていないことがわかっているから、婚約したい人がいるということにするしかないだけで、本当は婚約したいんです!』
『……今すぐ婚約したいのは許嫁の解消のためだけど、その気持ちに偽りはないってこと?』
『はい。
婚姻もそうですけど、婚約にも彼女の同意が必要ですが、彼女がいつ、そういうことに興味を持ってくれるのかわからない今の状況では、確認すること自体が不可能でしょう?』
それはそのとおりだ。
『僕は、その時が来るまで彼女の意思確認は待つつもりですし、僕を選んでくれなければあきらめます。
ですが、今、彼女のことしか想えないのに、別の許嫁がいること自体が嫌なのです。現在許嫁の女性にも失礼ですし。
返事は今すぐでなくて構いません。
できれば、僕が学園に帰る前までにはお聞きしたいとは思いますけれど』
あ~、そういうことか。
リュアティス君は、エリスレルアに直接確認できないから、保護者的な僕に彼女をそういう立場にする許可を取りたいのだろう。
そして。
『その、許嫁の人が、学園にいるのですね?』
『はい』
どうしよう……こんな大事なこと、僕が決めていいのか?
『と…とりあえず、保留にさせてください。
ちょっと考えてみます』
『『よろしくお願いいたします』』
泊り客用の部屋に案内され、一息つく。
ここは異世界だと割り切ってもいいのだろうか?
あっちに戻ったら、あっちで恋人とか、結婚とかしてもいいのだろうか?
まぁ……ルイエルト星には、結婚制度とかはないんだけど。
ていうか、エリスレルアがリュアティス君のこと、ホントの好きになっちゃったら、どうなるんだ?
えっ?
……それって、なんか……まずくないか?
でも、彼の気持ちもわかるし……
にいさ~~~~ん!
僕はどうしたらいいのさーーー!
心の中で叫びながら、レミアシウスはベランダへ出た。
「許可できそうな条件を考えてみるか」
エリスレルアが恋愛感情に気づくまでは何を言っても意味がない、という大前提を踏まえてっと。
1.正式に許嫁が解消されてフリーになるまでは、婚約者がエリスレルアだということをなるべく周囲に気づかれないようにすること。
彼女の発言によっては解消のための偽装だと思われかねないから。
2.彼女が恋愛感情に気づいて両思いになるまでは、手を出そうとしないこと。
これはどっちかっていうと注意事項だ。
理由は単純。危険だから。
それこそ、精神破壊されたり、あの世まで吹っ飛ばされても知らないよ、っていうね。
3.彼女が誰か別の人を好きになっても、浮気とか、婚約破棄罪には当たらないってこと。
この婚約は、僕が勝手に決めたことだから。
4.ほかにも何かあるかもだけど、それは気づいた時に話し合って決めること。
僕だって婚約者どころか恋人だっていないのに、それによってどんな問題が発生するのか、想像しきれないよ。
5.にいさんが迎えに来たら、その指示には必ず従うこと。
こんな感じ?
もし、にいさんが来た時、彼女が逆らうような事態になっていたらどうしよう。
滅多にないけど、エリスレルアだけはにいさんに逆らうことができるからな。
万が一、二人が喧嘩したりしたら、次元を越えなくてもこの世界は終わる。
そうなったら、僕はどこに避難しようかな……
この物語をお読みいただき、ありがとうございます!
次回予告〔秘かに交わされた約束〕




