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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第3章 相反する想い

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28 一つめの休憩所

「やられた」


 朝食後、制服に着替えている時、リュアティスが長期休暇の申請を出し受理されたという報告を聞いて、レイテリアスは思わずつぶやいた。

 先の事件以降リュアティスが理由秘匿で学園を休んでいると聞き、魔力が充分に回復していないのだと、彼にしては珍しく油断していたのだ。


「申請理由はわかっているのか?」

「はい。

 一般の学生には伏せられていますが、第1王妃様のお見舞いをかねてアークレルト公爵家にてご静養なされるということで学園と王城の許可を取られたようです」

「行き先は、リンシェルア様の故郷か」


 右手の人差し指を曲げて下唇の辺りに当て、思案する。


 母上のご実家であるホスフレイル侯爵領はそのすぐ南、僕も行けなくもないところではあるが……


「出発はいつだ?」

「既にご出立なされている模様です」

「……早過ぎるだろ」


 僕に察知されることを嫌ったか。

 カルファレスが言っていたとおりだったな。


「どういたしますか?」

「まあいい。

 リンシェルア様のところへ行ったのなら早急に戻れとも言えないし、言う必要もない。

 リュアティスが自発的に戻ってくるのを気長に待つさ」


 鏡の中の自分をチェックしながら微かに笑みを浮かべる。


 付いていくことができなかったのは残念だが、リュアティスが動いたということは、目的の人物の居場所を突き止めたか、少なくともその見当がついたということで、それは悪いことではない。


 この短期間に、しかも部屋から出ないままどうやって見つけ出したのか、ということについても、とても興味をそそられる。


 化粧室を出てベランダへ行き、登校前の紅茶をゆっくりと味わいながら今後の展開に思いを巡らす。


 リュアティスの望みは、対象者を無事に向こうの世界へ送り返すことだ。

 そうであるならば、公爵家にそれなりの召喚魔術師がいない限り、必ず同伴して城へ戻るはず。

 召喚魔法によらずにこの世界へ来た可能性がある者と対面するのは、その時になりそうだ。


 空になったカップをテーブルに置き、レイテリアスは流れていく雲に視線を送った。


 公爵家に優秀な召喚魔術師がいた場合は―――


 素直にお前の作戦勝ちを認めるよ、リュアティス。


 ☆ ☆ ☆


 リュアティスの馬車の旅は、1時間弱進んで3時間ほど休むという計画になっていた。

 この国の街道は結構整備されていて、それくらいの進み具合に合わせて休憩できる場所が配置してある。


 王都より東には第1王妃と第2王妃の故郷だけでなく大物貴族の所領が他にもあり、しかもその先は海。

 侵略される可能性が低いことから西側よりも発展していて、休憩場所もただのスペースではなく小さな村を形成していた。

 一方、西側へ向かう街道は、他国の珍しい交易品を手に入れることができるにもかかわらず、町というより関所のような雰囲気となっている。


 一行が着いた一つめの休憩所は、王都に近いこともあり、村というよりは町だった。深夜にもかかわらず、町全体がにぎわっている。

 先を急いでいるので宿には泊まらず、簡易的な休憩場所で馬を休ませながら軽食を摂った。


 リュアティスにとっては久しぶりの帰省。

 いきなり帰って驚かせたい気持ちもあったが、それをするとされたほうが大変なので、あらかじめ伝書鳥を使って短い手紙を送ることにした。


 2通書き、それぞれ封をする。

 1通はリュアティスの祖父であるアークレルト公爵宛、もう1通は大叔父であり伯爵位のレステラルス・アークレルト・セルアティス宛だ。


 アークレルト公爵には大体の到着日時とそこでしばらく療養する旨を伝え、大叔父のレステラルスには、母の見舞いをかねて療養することと、昔行ったことがある牧草地からの海の眺めが懐かしい、と書いた。

 本当はエリスレルアたちの保護を頼みたかったが、王都にいた自分が彼らの存在を知っていては不自然だと気づき、書けなかったのだ。


 お会いしたら詳しく話すことになるだろうが。


 同行している近衛兵の一人に調達してきてもらったそれぞれの家専用の伝書鳥に手紙を預けて暗い空へ放つ。加速と体力維持の魔法がかかっている鳥たちは白く光りながら飛んで行った。


 あの鳥たちは最速便だから、10時間ほどでそれぞれの家に着くだろう。

 早ければ届くのは昼頃かな。

 もしかしたら10時間というのはうたい文句で、鳥によっては休憩を長めに取ったりして、もっとかかるかも。


 どちらにしても、馬車と比べたら圧倒的に鳥の勝ちだ。

 手紙しか運べないところが残念だ。


 東の空へ飛び去っていく鳥たちを見えなくなるまで眺めていたリュアティスは、それらをうらやましがっている自分に気づいて、顔が熱くなってきた。


 何を考えているんだ、僕は!

 飛んでいく鳥がうらやましいなんて、少女趣味もいいところじゃないか!


「リュアティス様?」


 ネスアロフに声をかけられ、ますます熱くなって、急いで建物の中に入った。


「出発までには、まだ1時間半ほどあるな。

 少し仮眠を取ることにする」


 備え付けの簡素なベッドに横になり、目を閉じる。


 そうだよ。

 うらやましいのは鳥よりも、あの、彼女の、テレポートという能力だ。

 あれができたらどんなにいいだろう。


 「またねー」と言って消えた彼女の姿が浮かんでは消える。


 あれと同じことを魔法でやろうと思ったら転移の魔法陣を覚えなくてはならない。

 おじいさまの書庫にあったかな?


 クレファイス学園に入学して入寮したのは、リュアティスが11歳の時だった。

 それまでは公爵家で暮らしていたのだが、公爵の書庫の本はどれも難しい物ばかりで、リュアティスが読んでいたのは、城で暮らしていて主のいない、リンシェルアの部屋の本だった。


 あったらまずそれを覚えよう。

 彼女たちと合流できたら、アークレルト領内をいろいろ案内してあげたいし。

 言葉だって、覚えられるものなら覚えたい。


 召喚契約を結べば、エリスレルアたちはすぐさまこちらの言語を理解できるようになるのだが、それと同時に契約に縛られることになる。

 何かしてほしくて召喚しようとしたわけではないリュアティスは、彼らをこちらの世界に縛り付けたくはなかった。


 そもそも、僕は、彼らを召喚していないのだから契約するほうがおかしいよな。

 彼らに対して義務があるとすれば、それは、こちらでの生活を保障し、無事に送り返す……ことだけだ。


 ふと、飛んでいく鳥たちの姿がよみがえり、うらやましいとは違う感情が胸に湧いた。


 これは――――――寂しい?

 次回予告〔異国の魔法使い〕

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