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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第2章 コンタクト

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19 気になっていたこと

 夕方になってようやく目覚めたリュアティスは、朝食、昼食共に抜いているためさすがに空腹が限界となって寝室を出た。

 夕食の時間には少し早かったが、この棟にある食堂ではなく校舎のほうにある食堂なら何か食べ物があるのではないかと自室を出ようとしていると、ネスアロフが食事を持って部屋に戻ってきた。


 相変わらず気が利くというか、先読みがすごいっていうか。


「下の厨房で作ったのか?」

「ええ。殿下の侍女たちに、自分たちの仕事を奪うなと怒られました」


 テーブルに料理を並べながらにっこりと笑うネスアロフに、リュアティスは苦笑した。


「ここは学園で僕は学生なのだから、ほかの学生たちと同じように共同生活でいいし、侍女もいらないと主張したのだが」

「それはなりません。

 王族というのはそのご身分だけでいろいろな者たちに狙われているのですから」

「学園は学びの場だぞ。甘やかし過ぎだし、心配し過ぎだろ」


 寮生活を始める時に「部屋は空いているのだろう?」と、近衛兵を十数名と侍女十数名を同行させようとした父王にあきれ、リュアティスは「どちらも不要」とかなりの時間をかけて訴えたのだが、近衛兵を2名に、侍女を半分に減らすだけで精いっぱいだった。


「そんなことはございません。さ、どうぞ。

 お茶を入れてきますね」


 そう言って室内のキッチンへ向かうネスアロフ。


 ―――こいつが一番甘やかし過ぎだな。


 食事中、向かいの椅子に座ってお茶を飲んでいるネスアロフに、リュアティスは午前中に気になったことを試したくなった。


「お前さ、かなり勘がいいよな。

 どうして僕の腹が減っているとわかった?」

「それは、朝食も昼食を取られていませんし、もう夕方ですから」

「それにしたってだ。

 これ、僕が寝ているうちに作り始めているだろ?」


 リュアティスが指さしたのは具だくさんのクリームスープと焼きたてのパンだ。


 こんなの、魔石で火力調節したとしてもそれなりに煮込む必要があるだろうし、パンなんて、どう見てもさっき焼いたばかりじゃないか。


「もし僕が起きなかったらどうするつもりだったんだ?」

「その時はその時です。

 そうなってもいいように、パンとスープにいたしました。

 殿下の欠席事由は秘匿になっていますので、共同学食のほうへは行かれないほうがよろしいでしょうし」


 そこへ行こうとしてたんだけど。

 それに、確かにこれなら煮込み続ければいいだけかもしれないけど、お前は侍女じゃなくて従者じゃないか。


 リュアティス的には、侍女たちの言い分のほうが正しい気がした。


「どう見ても起きる時間に合わせて作ったように見えるんだがな」


 スプーンを置き、向かいに座っているネスアロフを見つめる。


「殿下?」


 明日の宿題を代わりにやってくれ……明日の宿題を代わりにやってくれ……

 明日の宿題を代わりに……


「お口に合いませんでしたか?」


 がっくりと肩を落とすリュアティス。


「そーだよなー」

「は?」

「何でもない。おいしいよ、とっても」


 自分の行動が恥ずかしくなり、スープを掬うペースが上がった。

 思い切りハテナの表情を浮かべてリュアティスを見ていたネスアロフだったが、スッと真顔になった。


「リュアティス様、少々お尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


 ホント美味いな、このスープ。


「なんだ?」


 空腹と照れ隠しのためにスープを口元へ運びながら聞くと。


「今朝、何者に向かって声をあげられたのですか?」

「!!」


 リュアティスの手が止まる。

 顔を上げると、真剣なまなざしでこっちを見ているネスアロフの視線と視線がぶつかった。


 ……あの時、叫んでしまったからな……


 どう答えればいいのか、いい返答がすぐには浮かばない。


「なんのことだ?」

「おとぼけにならないでください。殿下は確かに誰何(すいか)なさいました。

 それも、ご自分の名を名乗られたあとに。

 ですが、この部屋には殿下と私しかいませんでした」


 おそらく朝からずっと気にしていながら今まで口にすることなくリュアティスの好きにさせてくれていたのだろう。

 その彼に、話すべきなのか、話さないほうがいいのか、迷う。


 ただ、今回は、油断のならない兄にではなく最も信頼している従者にだ。

 ネスアロフにはこれからも自分を補佐してもらわなければならない。

 どの道、話さなければならなくなるだろう。


 が―――


「少し時間をくれないか?」


 未だに二人の名前と性別しかわかっていない。

 それだけ話しても何の意味もないし、現状で、「その声を聞けば意識を失ってしまう」などと言おうものなら、彼女はすぐさま警戒対象にされてしまうだろう。

 国中に指名手配され、本当の意味で拉致監禁されてしまうかもしれない。


 ―――そんなこと……絶対にさせないけど


 僕は二人に、向こうの世界へ無事に帰ってほしいだけなんだ。


「話せるようになったら、必ずお前には話すから」


 ネスアロフを信用していないわけじゃない。

 けれど、僕に危害を加える可能性のある人物を放置するとは思えない。


 自分をまっすぐ見つめてそう言ったリュアティスをじっと見つめ返していたネスアロフは、ふーっと息を吐いた。


「一つだけ確認させてください」

「……なんだ?」

「何者かに、遠距離魔法攻撃を受けているわけではないのですね?」

「それはない」


 会話しようとしているだけだ。


「そうですか」


 一旦、目を閉じたネスアロフはそれを開き、再びリュアティスを見つめた。


「わかりました。殿下を信じます。

 ですが、くれぐれも危険なことはなさらないように」

「わかっている」


 リュアティスは食事を再開した。

 次回予告〔連絡してみよう〕

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