102 お菓子はどこ
リンシェルアのところからエリスレルアと一緒に伯爵家の彼女の部屋に戻ってきたリュアティスは、礼を言って自分の部屋に戻った。
エリスレルアが彼を迎えに行ってから既に1時間以上経っている。
それは、彼女に連続でテレポートさせなくて済むように、リンシェルアがティ・タイムを取ったからだ。
その間、リュアティスもそこでお茶を飲んでいたのだが、表向きはともかく、体感的には彼女からの光の直撃への対処に伴う疲労感がまだ抜けていなかった。
本当は少しでもここと王都間の実験をしたかったが眠くて仕方がない。
寝室に行くのも面倒で、ソファに寝転がった。
「あんなに眩しいなんて……」
しかも、どういう原理かわからないけど、あれは僕の想いだと言う。
光の塊という実体があるようでないようなものに変わってはいるが、普通は見ることすらできない『想い』に触れそうなのは、とても興味深い。
触ったからってどうにかできるわけではないけれど。
ウトウトしながら考えるリュアティス。
あの光のように、『想い』にものすごいエネルギーがあれば、確かに思っただけで家の一つくらい消せるのかもしれないな。
あんなの、僕でも受け止めきれないかも……
まあ、僕にはそんな光、見えないから平気だけど……
それを、受け取ってっていうのは、僕のわがままなのかな……
そんなことを考えながら眠ったせいだろう。
リュアティスはおかしな夢を見た。
それは―――
学園の廊下を歩いているリュアティスに、セフィテアが声をかけてきた。
「これ、プレゼントよ!」と箱を渡される。
「いらない」と返そうとするのだが、「大切にしてね」と置いていく。
追いかけていると別のセフィテアが現れ、プレゼントだと言って置いていく。
「僕が欲しいのはこれじゃない」と返そうとするのだが受け取ってもらえず、いつの間にか身動きが取れないほどのプレゼントで廊下が埋まってしまった。
これ、どうしたらいいんだ、と途方に暮れていると『声』が聞こえてきた。
『王子しゃま、この中のどれかが、じゅっと食べたかったお菓子なの』と。
『開けないで、しょれを当てられたら、王子しゃまのモノだよ!』
「開けないで?」
『王子しゃまなら、わかるよ!』
開けないで当てるって……当たったかどうかわからないんじゃ?
そう思いながらも、大量のプレゼントの中、箱を振ったり、においをかいでみたりして、必死に探していると、何かが光った。
「これだ!!」
「キャワッ!!」
「え? わっ!」
光った箱を掴んで引っ張ったら、リュアティスの上に何かが倒れてきて目が覚めた。
「何するのーー!」
「何やってるの?」
エリスレルアだった。
少しだけ怒ったような、慌てたような顔をしていて、ほっぺが赤くなっている。
「何って、鳥が飛んできて!
おにいさま宛てのお手紙に、一緒にリュアティス宛てが入ってて!
届けろっておにいさまが言うから持ってきたの…に…って……
リュアティス?」
「お菓子、発見」
「えっ? どこに?」
自分の上に半分乗ったまま辺りに視線を送っているエリスレルアを、リュアティスは微笑みながらそっと抱きしめた。
「ここ」
「えっ!? 私、お菓子じゃないよ!」
そう叫んで、エリスレルアはテレポートして消えた。
「………………逃げられた」
なんて捕まえ辛いお菓子なんだ。
そんなことを思いながら起き上がったリュアティスに、『声』が届く。
『リュアティスさんのせいで、手紙持って戻っちゃったじゃない!
これ、手紙!』
リュアティスの目の前に手紙が突然現れて、床に落ちた。
フフフ!
笑いながら拾い上げた手紙は、ネスアロフからだった。
【王子。
そろそろそちらも落ち着かれたのではないかと思います。
休暇の申請は2日後に切れますが、どうなさいますか?
延長する場合は至急ご連絡ください。
ネスアロフ・コーレスタ】
「あと2日か」
今日は魔力の使い過ぎで、もう実験は不可能だ。
明日と明後日、少しでもやっておくかな。
本当は延長したくてたまらないリュアティスだが、2,3日増やしたからって状況が変わるとは思えず、それなら学園に戻っていろいろと自分を鍛えたほうがいいと判断した。
体力も精神力も全然足りない。
彼女に逃げられないようになりたい。
で、午前中に、いやいやながら兄上に無理やり聞かされた話を実践……
ボッと音がしたんじゃないかと思うくらい顔が熱くなったリュアティスは、慌てて取り消した。
僕には、まだ早い!
彼女には、もっと早い!!
ルオレアスの話は1年後とかに聞くべきだったと後悔したリュアティスだが、ふと、あることに気づいた。
……待てよ?
「僕は、一番守りたい人に逃げられ続けているが……
それって、もしかして、ある意味、守っていることになるのでは……」
って、それでどうする!
そう心の中で叫びながらも、逃げてくれたほうが助かると思っている自分もいて、やはり自分にはまだ早いのだという結論に達する。
その辺りも何とか鍛えたい。
……鍛え方がわからないが……
「とにかく、こんな根性なしではどうにもならない」
逃げられたと言っても、同じ建物の中だし、同じ国の中だ。
兄上のように、もう二度と会えないわけじゃない。
立ち上がって寝室に向かいながら、リュアティスはエリスレルアに話しかけた。
『エリスレルア。
ネスアロフに、「延長はしなくていい」と伝えてくれ』
『わかったー』
ずっと食べたかったお菓子を手に入れられるのは、一体いつのことだろう。
そんなことを考えながら、リュアティスは眠りについた。




