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好きな短編

コンクリートテロリズム

作者: 恒河沙

 テロや自然災害を想起させる場面がありますので、苦手な方は読むことを避けていただくことをお勧めします。

 私は46年生きてきて、こんな景色に出会おうとは思っていなかった。


 都会にそびえたつビルたちが、ドミノ倒しの様に崩れているのだ。


 ビルはガラスやコンクリートが砕け散る音と皆の悲鳴が混ざり合って、とても混沌としている。ビルは根元から折れ、隣のビルを押し倒している。あのビル一つ一つに人々が働いているはずだ。なのに、バタバタとビルは崩れて、命を潰して止まらない。


 私はそのビルが崩れた衝撃で飛んできた粉塵の後、粉塵の中から誰かの人影が見えた。私は粉塵を払って、その人影を見た。


 すると、その人影の人物は白衣を身にまとい、少し痩せた中年の男だった。そしてその人物は、背中にリュックサックを背負い、右手におもちゃ持っている。


「やあ、ビルドミノは楽しんでいただけたかな? そこの一般人?」

 私は言葉も出ずに、その男を見つめた。


「素晴らしいだろう。あんなに偉そうにふんぞり返っていたビル共が今じゃ、瓦礫とガラスのガラクタ山だ。アハハ!


 だが、この程度で満足しないでくれよ。まだ、プロローグみたいなもんだぜ。


 もし、君が運良く生きていれば、僕の作品のエピローグを見ていてくれよ。


 きっと楽しいはずさ。」

 その男は崩れ落ちたビルの瓦礫の前で、大きな高笑いを見せるのだった。




「遂に完成した。」

 私は目の前にあるコンクリートブロックに、完成した液体を一粒落とすと、コンクリートブロックは綿菓子を水に溶かしたかのように、瞬時に溶けてしまった。


「素晴らしい!」

 この液体はコンクリートや土砂、岩石を溶解するもので、世間に発表すれば、ダイナマイト以来の岩石破壊での革命だ。きっと、ノーベル賞をもらったとしても、お釣りがくるほどの大発明だ。きっと、私は世界中で崇められる天才科学者になることができるだろう。


 でも、私は世界一のマッドサイエンティストになりたい。


 私はコンクリートを溶かす液体を使って、歴史に名を遺すマッドサイエンティストになる。




 私はこの液体を超酸と名付け、量産した。それに伴って、遠隔操作で超酸を噴射する爆弾のようなものも大量に作った。幸運なことに、この超酸は岩石だけを溶かすだけで、人体や他の物質を溶かすこともなく、有害なガスも発生しない。限りなく科学者の信じる概念を打ち砕く理想的な液体だ。


 私は超酸の入ったタンクと水鉄砲をチューブで繋いだ。これは少し大きいライフル状の水鉄砲だが、実際のライフルよりも実用的だ。


「さあ、始めようか。」





 私はドミノの様に崩れ去ったビルの瓦礫を見て、抑えきれず、高笑いをした。ここまで簡単にビルが崩れ落ちるとは、滑稽だ。ビルが倒れる方の壁に超酸爆弾を仕掛けたら、後は遠隔で起爆すれば、ビルドミノの完成だ。


「さて、次はどうしようかな。」

 そんなことを思っていると、多数のパトカーや救急車のサイレンが道路の向こう側から聞こえてきた。


「じゃあ、警察と遊んでみようか?」

 私はパトカーと救急車が向かってくる道路に水鉄砲の狙いを定めて、タイミングを見計らった。


「3,2,1……0.」

 そう言って、私が水鉄砲から超酸をアスファルトの道路に噴射すると、アスファルトは一瞬にして溶けてしまい、道路には大きく深い溝ができた。パトカーはそのいきなりできた溝にブレーキが間に合うことはなく、溝の中にパトカーが落ち込んだ。


 溝の壁に車体の頭をぶつけたパトカーは、アルミ缶のように簡単に凹んでしまった。そして、その落ちたパトカーに続くように、後ろの救急車もそのパトカーにぶつかった。そして、後続の車もビリヤードの様に玉突き事故を起こしている。


 そして、一番手前のパトカーからは何やら液体が漏れ出している。私はそれを見て、リュックサックの中の火炎瓶とマッチを取り出した。そして、マッチを使って、火炎瓶に火をつけて、ガソリンの漏れだすパトカーに向かって、火炎瓶を投げつけた。


 すると、パトカーに火炎瓶が当たった瞬間に、パトカーは火の手を上げて、爆発した。そして、それに連鎖するように後ろの車も続けて、爆発していった。


「いい! ハリウッドみたいだ。」

 私はそのあまりにも美しい爆発の数々に拍手を送った。芸術は犠牲の量に比例して、美しさを増すものだ。


 私は科学で、芸術を描いているのだ。


 今まで強固であったはずのコンクリートが文字通り、瓦解する。このふざけたプラスチックの水鉄砲一つでこの様だ。


 神様のようだ。


「ああ、もっと素晴らしい芸術を創造しよう。」

 私は服の中に入れておいた。遠隔のスイッチを押した。そのスイッチを押した瞬間に、そこら中でビルが崩れ去る音が聞こえる。見渡す限りのビル群がポキポキと気持ちがいいように折れていく。


 カタストロフ。文明の崩壊。そのメロディーは逃げ惑う人々の騒乱、人間の傲慢を顕在化させた摩天楼の倒壊、この都市の蹂躙で奏でる。私は撒き散る粉塵の中で、両手を空中に泳がした。


 その指揮者は私。……私なんだ。




「死者、行方不明者 約40万人、重軽傷者 約100万人、そして、都市全域のビル群約256棟、その他家屋約4000軒の倒壊


 人間史始まって以来、最悪のテロ行為だ。」

「法治国家ってのは、面倒だな。そんな歴史に名を遺す大犯罪者にこんな鉄の輪っかをかけて、取り調べをしなくちゃならないってのは、」

「お前、何をしたのか分かっているのか?」

 刑事は私の胸ぐらを掴んで、恐ろしい剣幕で襲い掛かった。近くにいる刑事もそれを止めようとしない。相当嫌われているらしい。


「そっちこそ、私のしたことを分かっているのか?」

 私は刑事に問いかけた。


「私はたった一人で、都市一つを消したんだ。こんなちっぽっけな警察署の建物くらい簡単に蹂躙できるんだ。」

 刑事は呆れたたように、私から手を離した。


「もういい。お前の死刑は決まっている。せいぜい、そんな絵空事を鉄の檻の中で唱えていろ。」

「いいや、もう、ここで、エピローグを描くさ。」

 そう言って、奥歯の裏に仕込んであった起爆スイッチを手で押した。


「アハハ!


 このスイッチは、この警察署の上流にあるダムに仕掛けた超酸爆弾を起爆させるものだ。


 ダムをせき止めているのは、馬鹿でかいコンクリートの塊だ。そのコンクリートの塊が一瞬にして消え去る。そうなれば、馬鹿でもわかることだが、ダムにたっぷりと貯めこまれた水がこの下流の都市に流れ込む。


 きっと、あと数分後にはここら一帯は水中都市だ。


 でもまだ足りない。ダムの中に流れ込んだ超酸は、人間の作ったコンクリートだけでなく、自然の岩盤まで溶かす。それは海中の岩盤プレートも例外なくだ。


 そうなればどうなるか分かるか?


 プレートがずれて巨大地震、地中の海底火山の一斉噴火だ。特に、噴火はヤバいなあ。日本の火山が一斉に噴火すれば、噴煙は地球全土を覆うぞ。そうなれば、地球は一気に氷河期だ。恐竜は絶滅したが、人間は果たして、どれだけ生き残れるのかな?


 私は空より少し高い所から見物できないだろうが、あんたらはきっと見られるだろうから、楽しんでくれよ。私の最高傑作を。」

 その後、山を滑る水の轟音が段々と大きく聞こえてくるのだった。

 呪術廻戦における特級術師は、単独で国家転覆が可能という条件であると聞き、もし、普通の人間がこの条件を満たすためには、どうすればよいのかと考えた結果、コンクリートなどの岩石を溶かす液体があれば、国家転覆どころか、地球を崩壊させることすらできるのではないかと想像して、書きました。


 もちろんですが、コンクリートを一瞬で溶かす液体はまだ発明されていないようです。もし、発明されましたら、この小説通りに地球を壊せるか試してみてください。

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