エヴリワン・イズ・ア・フレンド
友達なんて必要ない。
この言葉を、自分自身に思い込ませて今を生きている。
僕は小学校時代から不登校で、家でネットサーフィンをすることしか考えておらず、まともに友達を作って来なかった。
決して学校で生徒達と全く話をして来なかった訳では無い。
むしろ向こうから積極的に話を振ってくれた。
しかし僕は、向こうから渡してくれた話の種を育てる事は決して無かった。
この時は、一匹狼がカッコ良いと思っていた所があり、同時に友達の作り方が分からなかった所もあったのであろう。
今の自分自身の本音を言うと、後悔している。
例え種を育てる方法が分からなくとも、育てる努力位はするべきであったと思っている。
インターネット中毒で、土にすら植えず捨てたのである。
僕は中学校を卒業した後、進学せずにインターネット漬けの毎日を送っている。
インターネットでは、SNSでアロワナと言うハンドルネームでインターネット友達を作り、チャットで雑談をしたりしている。
とても楽しい毎日である。
今日もチャットをしながらゲームをする事にしよう。
気が付けば、ゲームを始めてから二時間程が経過していた。
その事に気が付いた直後、ゲームのチャットにある文章が書き込まれた。
『すみません! エヴフレの方呼ばれたので落ちます!』
この文章が書き込まれた後、まるで蜂の巣をつついたように、ゲームのチャットに書き込みが殺到した。
『エヴフレやってんの?』
『良ければエヴフレ交換して下さい!』
『俺もエヴフレやってるから交換しようぜ』
ある意味、異常な光景のように見えた。
僕は直ぐに検索エンジンで、聞いた事も見た事も無い、『エヴフレ』について調べた。
するとエヴフレとは、『エヴリワン・イズ・ア・フレンド』と言う、チャットやボイスチャット等が出来るSNSの事である事が判明した。
更に調べてみると、エヴリワン・イズ・ア・フレンドは、リリースされてから僅か半年で利用者数が一億人になったと言う、人気が異常なスピードで上昇したSNSである事も判明した。
インターネット中毒になっていたにも関わらず、何故このSNSを知らなかったのかが謎だが、僕は興味が湧いた為、エヴリワン・イズ・ア・フレンドを始めてみる事にした。
エヴリワン・イズ・ア・フレンドを使い始めてから一週間が経つ。
何と、僅か一週間でフレンドの数は百人を超えた。
何故こんなにも増えるのか、それは……。
『エヴフレ交換したい人いますか?』
『エヴフレ? 交換したいー!』
『交換させて! エヴフレ!』
『エヴフレ交換させて下さーい!』
SNSやゲームのチャットで、エヴリワン・イズ・ア・フレンドの事を書き込むと、一気に交換希望者が殺到するのである。
僕はこのエヴリワン・イズ・ア・フレンドと言うSNSに、インターネット友達がとても作りやすいと言う嬉しさと、インターネット友達の増えるスピードが速過ぎると言う恐怖を感じた。
利用者が皆何かに取り憑かれているのではとさえ思えて来る。
エヴリワン・イズ・ア・フレンドのとあるサーバーの方達と、一緒にボイスチャットをしながらオンラインゲームを遊んでいる途中で、遊んでいる一人がゲームのチャットに、勝手にサーバーへの誘いの文章を書き込んでしまったのだ。
ゲームのチャットには、エヴフレ交換希望者は勿論、サーバー招待希望者も殺到してしまった。
「静かに! 誰ですか? ここのサーバーに人を入れようとしている人は」
「……俺です」
「ここに人を入れるのであれば、一度サーバーにいる人達全員に了承を得る必要がありますよ? それにサーバー招待希望者の人達と面接をしなければなりません」
「……すみません……フレンドになって、サーバー側の許可が下りるまで、待ってもらいます」
「そうして下さい、皆様、どうもすみません、重たい空気にしてしまったようで」
「大丈夫ですよ!」
ここのサーバーはルールが厳しく、違反するとサーバーホストからこっ酷く叱られてしまう。
このようなサーバーがある事は、今時珍しいであろう。
今日、ゲームのチャットでエヴリワン・イズ・ア・フレンドの事を書き込み、一気にフレンドを増やした。
しかし今回は新たにフレンドになった人の中に一人だけ、怪しい人がいた。
更にその人は交換して間もなく、ダイレクトメッセージを一方的に送って来た。
『私と付き合って?』
『結構身体には自信あるよ?』
『君の願いなら何でも聞いてあげる』
『付き合った方が毎日楽しいよ? 面白いよ? ね?』
『お願いだから私と付き合ってよー』
『お願い! お願い! お願い! お願い! 付き合って! 付き合って! 付き合って! 付き合って!』
これまで何人ものインターネット友達を作って来たが、このようなパターンは初めてだ。
僕は初めてフレンドを削除する事にした。
ルールが厳しいサーバーでボイスチャットをしながらゲームを遊んでいると、サーバーホスト側の様子が一変した。
「何だお前!」
「どうして俺をサーバーに入れないんだよ! おい!」
サーバーホストの他に、男性の声や、色々な物をなぎ倒すような音が聞こえて来た。
「サーバー?」
「俺はあのサーバーに入りたかったんだよ! なのにお前は俺をあのサーバーに入れなかった! ふざけんじゃねえ!」
「はあ? あ! お前まさか! いやあれは! 貴方が常識を身に付けていなかったからだよ!」
「決め付けんじゃねえ! この……馬鹿野郎が!」
ここでボイスチャットが途絶えた。
ボイスチャットにいた人達は暫くの間あ然としていた。
今日は気分転換の為、散歩をしている。
しかし散歩を終えてマンションに帰ろうとすると、出入口の所に、見知らぬ女性が立っていた。
その女性は僕の事をじっと見ていた。
「……どうも」
そう言ってマンションに入ろうとすると、女性が僕に話しかけて来た。
「……やっと会えたね……アロワナ君」
「……」
身体が強張った。
「……はい?」
「ねえ……酷いよ……フレンド削除するなんて……」
「……まさか……貴方」
「私と付き合って!」
あの人だ。
更に今更気が付いた。
右手にカッターナイフを持っている。
僕は直ぐに逃げた。
後ろを女性が追いかけて来る。
「逃げんな! 君は私の彼氏になる人なのに!」
運動不足の僕は直ぐにばててしまい、女性に捕まった。
「もう……逃がさないからね」
そう言うと女性はカッターナイフの刃を出した。
その時だった。
「やめろ! おい! アロワナ君と私を引き剥がさないで!」
「大人しくしろ!」
警察だった。
恐らくパトロール中に気が付いてくれたのであろう。
結局、何故あの女性が僕の住所を知る事が出来たのかは分からなかった。
今日、エヴリワン・イズ・ア・フレンドのフレンドに、初めてフレンド削除をされた。
すると突然パーソナルコンピューターの画面に、何処か分からない住所と、『友達を消すなんて……酷いよね……』と言う文字が短い間映し出された。
僕はその住所を記憶し、検索し、鋏を隠し持ってその住所に向かった。
友達を消すなんて、本当に酷い。
友達を消すなんて……本当に酷い……。
友達を……消すなんて……本当に……酷い……。
友達を……。