梅雨
三題噺もどき―にひゃくはちじゅうろく。
ジメジメとした日々がいまだ続く。
梅雨の時期というのは……どうしてこうも気分が悪い。
「……」
全身にまとわりつくような空気。
あるはずもない掌に撫ぜられているような、心地の悪さ。
「……」
昨日引っ張り出した扇風機の音がやけに煩い。
肌に触れる風がキモチワルイ。
「……」
外はどうやら雨が降っているようだ。
窓ガラスを叩く音がやけに耳に響く。
「……」
ぼぅっとしたまま、座っている。
ベッドの上に。
「……」
隅に置かれた携帯が、チカチカと光っているのが目に入る。
画面にはお気に入りのクラゲが泳いでいる。
「……」
ふわふわと風船のように浮かんでいる。
流されるままに生きている。
「……」
どこかで聞いたが、クラゲという生き物は、水流がないと泳いでいけないのだと言う。
実際のところどうなのかは知らないが。
「……」
だからあんなにふわふわと、流されるままなのかと、その時思った。
その様はとても美しいが、事実を知ってしまうと、どうも。
「……」
部屋の中は薄暗い。
電気を点けていない上に、カーテンも閉じてしまっているから。
「……」
そんな暗さの中で、チカチカとひかっているのだから。
正直鬱陶しくて仕方ないのだが。
「……」
それを、止めるために動くことの方が。
めんどくさい。
「……」
少しでも視界から外すために、隅に行く。
無意識に握り締めていた布団を足の間に挟み、膝を曲げ、手で抱える。
「……」
壁に寄りかかるようにして縮む。
扇風機の風からも逃れられて、一石二鳥だ。
「……」
こんどは、白い何かがちらついているが。
何だろうか、もう。
「……」
スゥと焦点を合わせると、吊り下げられたティッシュだった。
床に置くとじゃまだからと、壁のフックに下げている。
「……」
それが扇風機に煽られて、揺れているようだ。
ひらひらと、うざったい。
「……」
ティッシュごときにイライラし始めている。
あぁ、もうなんだか、自分が面倒だな。
「……」
嫌まぁ、今に始まったことじゃないし。
これは、単なる八つ当たりだし……八つ当たりにすらなっていなさそうだが。
「……」
全部全部。
自分が悪いし、自業自得だし、救いようのない阿呆だ。
「……」
こんな風に、逃げたところで何もならないのに。
変えようとしない限り、何も変わらないのに。
「……」
何かがあれば、逃げて、隠れて。
何かがあれば、すぐに自己防衛に全力を尽くして。
「……」
その後こうして、八つ当たりして。
後悔して。
「……」
全く、何がしたいのか分からない。
何がしたくて、何をもってして、生きているんだか。
「……」
頭が痛くなってきた。
なんでこんなことになっていたんだか、忘れてしまった。
「……」
何かが顔の表面を撫ぜた。
それは唇を伝って、口内へと侵入した。
「……」
ジワリと、塩の味が広がる。
一文字に口を閉じていても、それは流れ続ける。
「……」
こんなことしたところで、何にもならないが。
ひたすらに、頭が痛くなるだけなのだが。
「……」
今日はもう。
無理だ。
お題:ティッシュ・塩・クラゲ