先鋒戦
『先鋒戦、十分前です。両選手は入場準備をお願いします』
「……始まり、か」
柔軟を終える頃、そんなアナウンスが流れた。大丈夫、リラックスは出来ている。
「頑張ってください!遠津くん!」
「カルマにも言ってあげてくださいよ」
八尾先輩から、激励の言葉を受けて、俺は少し笑って返した。
所属して間もない、正直愛着もクソもない組織のために、模擬戦とは言え戦うのはどうかと思わなくもないが、こうしてチームの一員のような顔ができるのはまあ悪くはない。
「そうですわね、お二方共に、頼みましたわよ」
聖定坂先輩がそう言ってくれたのに合わせて、頭を下げて、部屋を出た。
「大丈夫、大和?正直言って、十二単さんって相性最悪だよね」
「むしろ、俺で良かった、だろ?あの怪物は俺か都先輩じゃなきゃ崩せない。まあ八尾先輩ならラッキーパンチで勝てるかもしれんが」
部屋を出てから試すように言ったカルマに、俺はそう返した。
「武装は最適化、戦術も充分、準備は万端だ。違うか?」
「ううん、違わない。そのまま、行けば僕たちは勝てる」
「ああ、勝つぞ」
会場に入る前に、戦いの前のルーティーンを。高慢はいけないが、自信は勝利につながる。それは、充分だ。負ける予感はないし、負けてやる気分でもない。
「さて、竜退治の時間だ」
俺は笑みを湛えながら、会場へ足を踏み入れた。
*
「……じゃ、行ってくる」
『ちょっと待って下さい』
アナウンスを受けて、私が立ち上がると、仮天先輩がそう言って私を引き止めた。
「何?」
『緊張しすぎですよ。少しでも、解してから行きましょう』
そう言って彼女は、私の胸を突いた。
『大丈夫ですよ、心逆くんみたいのなんてそうはいませんから』
小さく耳元だけに聞こえるほど、音声を絞った言葉。
正直、図星だった。私は彼に恐怖心を抱いている。底が見えない彼の実力に、そんな実力を持ちながら平気に学校に通っている神経に、【管理局】という肩書に。
「むしろ余計に硬くなってません?」
「後輩いじめ止めてくださいよぉ」
『え、あ、そんなつもりじゃ…』
二人に詰められて分かりやすいくらい狼狽した仮天先輩を見て、少しだけ落ち着く。
だが、次に話しかけてきた彼によって、また身体が強ばったような気がした。
「あんまり考えずに行くと良いよ。単純な殴り合いに限れば、竜胆はきっと校内一強い。だから、最初から自分の土俵に持ち込んでやろう」
夢の発言に、その最強に拳だけで勝利したのはどこの誰だ、という嫌味が頭をよぎり、それ以上に彼と同等の怪物が相手だったらどうしようという恐怖が思考を占める。
「頑張って」
だけど、そんな何でもない言葉で、私の恐怖は氷解した。
彼が友人であり、仲間だということを久々に思い出せた気がする。それならば、彼の強さは頼りになるものだと考えるべきであり、恐怖なんかよりむしろ、心強く思うべきだ。
「うん、がんばる」
仲間、というのは存外に悪くないものだな、と、私は思った。
会場に入ると、既に相手はそこにいた。
(強いな…)
さっき、仮天先輩が言ったことを思い出す。夢ほどの存在はそうはいないと。大嘘もいいところだ、少なくともこの相手は夢にも負けず劣らず強大な存在感を有している。
だが、それで無理に戦術を考えるのは、きっと良くない。何も考えずに、がむしゃらに、自分の全力をぶつける。それが良いと、夢も言っていた。
『試合、開始!』
だから、私は、開始の宣言とともに、直ぐ様彼に拳を叩き込んだ。
めーっちゃ久々になってしまいました。




