観戦
「あ、司。こっちこっち~」
遅れて視聴覚室にたどり着いた俺に、黒が直ぐに声を掛けてくれた。そんなに、呼ばなくても、俺ら以外には数えるほどしか来てないだろ、と思いながら苦笑する。
「席取りさんきゅ」
「良いよ良いよ。出来れば特等席で見たいしね」
「つってもスクリーンだがな」
「口が減らないね八司院くん」
「あー、何で険悪になってんだ?」
最前席に腰掛けていた黒と九郎の真ん中に腰を下ろしながら、俺は聞いた。
「自分の才能に無自覚なのがムカつく」
「稀代の天才様の横にいて気分がいいと思うか?」
「急に褒め合うんじゃねえよ」
息合ってんじゃねえか。思わず、突っ込む。武術やってる同士、繋がるもんでもあったか?九郎にはいつか、夢ともちゃんと会わせてみたいもんだ。
「そういや、お前がつるんでる鮫くんは?」
「ジャック?ジャックなら、先約があるとか言ってどっか行っちゃった」
黒は答えると、耳元にそっと囁いた。
(……ジャックのこと、疑ってる?)
(疑ってるのは彼じゃない、彼の周辺だ)
深海からの来訪者、彼は自らを海の王と名乗っているとは聞いた。黒とも互角以上に渡り合ったその強さは、確かにその名に相応しいのだろう。
だからこそ、気になる。彼はこのまま、地上に放置されていいものなのかと。
つまり、彼を始末しようと試みる、深海の何者かが来訪する可能性はないか?彼の敵対者が、凪裏たちの組織と手を組む可能性はないか、と俺は懸念している。
そのことを説明すると、黒が納得したようにうなずいた。
ふと、そろそろ始まるようで、映写機の準備が始まった。何人かの、スタッフと思しき生徒が入ってくる。
「あ、司くん。やっぱり来てたんだ」
「よう、夏織ちゃん」
その中にいた、元同僚の夏織ちゃんが声を掛けてきた。同じ【院】所属とは言え、九郎とは殆ど親交がなかったらしく、今も特に会話を交わすことはない。
「良くスタッフなんてやる気になったな」
「いやー、夏織ちゃん慈善家だからなあ。ボランティア最高ですよ」
「嘘つけ、どうせ校長に駆り出されたんだろ」
俺が指摘すると、図星を食らった夏織ちゃんはそっぽを向きながら、口笛を吹き始めた。怠惰な彼女が自ら手伝いを申し出ることなどない。多分、小遣いも貰ってるんだろ。
とは言え、最適な人材ということも確かだろう。夏織ちゃんは九窓院、つまるところ情報収集のエキスパートだ。事前に許可を取った上でのモニタリングくらいなら、基本スキルの内だろう。
「夏織ちゃん、こっちお願いするっす」
夏織ちゃんは他のスタッフに呼ばれて、去っていった。
「それでは、対戦表を発表します」
呼ばれていった先で夏織ちゃんが機材を動かすと、スクリーンに名前が記された。
先鋒 遠津大和対十二単竜胆
次鋒 八尾論議対加賀帝斗
中堅 温盛朝顔対久豆里ゼノ
副将 都一生対心逆夢
大将 聖定坂歌音対仮天真
「これは……」
事前に知っていた生徒会の面々はともかく、仮天派閥とやらの面子は中々意外なものだった。十二単と加賀ってのは、夢とつるんでいた奴らだったか?十二単の方はとんでもない膂力で記憶には残っているが、加賀はどんな奴だったか、印象に残っていないのは余り戦闘力が高い相手だとは思えなかったということだろう。
しかし、それよりもこれは。
「流石に、仮天有利かな」
黒が、率直な感想を漏らした。嫌、ちょっと待て黒。
「どうしてそう思ったんだ?見た感じ別に、生徒会派閥も悪くなさそうだが」
「何なら俺は生徒会有利だと思ったんだが」
「えっ、司と意見割れるの?」
俺の発言を聞いた黒は驚いた様子で、腕を組んだ。
「ちなみに、司はなんで生徒会有利だと思ったの?」
「まず、副会長に夢が当たったからだな。あれは夢ですら不利だろ。次に遠津くんもまあ夢以外には負けないと見てるから、十二単不利。仮天先輩に久豆里先輩は知らんが、加賀は少なくともそれほど出来る生徒ではなく、少なくとも加賀の相手の八尾先輩はまあまあ出来るように見えたから、不利3と見て生徒会有利だと思った」
「成る程、じゃ情報量の差だ」
俺の予想を聞いた黒は、簡潔にそう言った。
「僕の考えだと、生徒会が不利3。内訳は、大和、八尾先輩、温盛さん」
「何?」
意外なその返答に俺は驚く。遠津くんだけは不利に入らんだろうと思ったが。
「遠津くんが不利ってのはどういうことだ?」
「それはね―」
「先鋒戦、開始します」
黒が口を開きかけた瞬間、アナウンスが入った。
「……ま、大和に関しては、見てのお楽しみってことにしよう。見てれば、嫌でも分かるからさ」
書き溜めがないのでしばらく更新停止します。




