神泉幸
「ま、予想はしていましたが」
悲しいものですね。近衛くんに、あんな悲痛な顔をさせてしまうなんて。
「……集中、しましょう」
とは言え、これ以上、悩んではいられない。これから出会う相手は、私以上の異質な相手だ。気を抜けば喰われかねない。
改めて、自分の決意を心で唱える。必ず、彼を救って見せる。悪魔の手を振り払って、私が彼が救われる道を見つけ出して見せる。
そのためには、神とは違う、悪魔の手を借りるのも、考えなくてはならない。
「おや、手は不要かね?」
「あなたは、ジャックさん」
階段までたどり着くと、ジャックシャークと出会った。深海からの来訪者は、その見た目にそぐわない程に紳士的だ。今の発言も車椅子に乗る私を気遣った発言だろう。
「では、お言葉に甘えて、お手を拝借させていただきます」
「気にすることはない、レディに対する礼儀だ」
私が頼むと、彼は車椅子ごと軽々と持ち上げながら、自然にそんな台詞を口にした。察するに深海では上流階級だったんだろう。彼が自称する海の王というのも、強ち間違いでもないと思う。
「ここまでで大丈夫ですよ、ありがとうございます」
「また、困ったことがあれば言ってくれたまえ」
下ろしてもらった私が礼を言うと、彼はそう言って去っていった。ま、どの道この後も会いますけどね。ちょっとしたいたずら心、です。
B棟にたどり着いた私はエレベーターに乗って、4階へと向かった。向かうは、美化委員会室。
「どうぞ、嫌開けてあげたほうが良いか、頼むよ篝」
ノックをすると、直ぐに返事が帰ってきて、扉が開かれる。
「ほう、どうやら一杯食わされたようだな」
「ふふ、そういうつもりではなかったのですけれど」
私の顔を見て、まず最初にジャックさんがそう反応した。
「ようこそ、神泉幸。会えて嬉しいよ」
「今日は、お時間をいただきありがとうございます」
前に出て、手を差し出してきた二条院海辺の手を握る。
……目を見れば分かる。やはり、狂人の類ですね、二条院海辺。【院】を統べる、二条院家に長子として生まれながらも、幼い頃からの奇言、奇行によりその当主候補の座から外された男。しかし、知能の高さもまた折り紙付きであり、先の【征服者】の一件では、参加について意見の割れた【院】内部を参加の方向に推し進めた立役者とも。
そして、懐刀として控える十刻院篝。決して、戦闘能力は高くない方と聞いたが、何だ?どこか、あの人に近いような―
そこまで、考えたところで、二条院海辺が口を開いた。
「さ、商談を始めよう」
「では、単刀直入に」
なんて、呑気に言った海辺さんに、私は直ぐ様、要求を叩きつけた。
「【指定危険生物】十刻院姫薔薇との、会話を許可してください」
「……良いね、早くも気に入っちゃったよ。神泉さん」
私の要求を聞いた彼は、にぃと嬉しそうに笑った。




