神殺したち
頭が痛い。比喩ではなく、また実際に痛むわけでもない。心の中で思っているだけで、誰に言うでもないのに、訳もわからない嘘をついている自分に可笑しさを感じる。感じない。ただ辛い。辛いから、なにか理由をつけたいのに、理性がそれを否定して堂々巡り。
飲んでいない薬が溜まっているのを見て、少しの罪悪感と、大半を占める、どうせこんな物を飲んでも何も変わらないという開き直り。
頭が痛い。同じことを思うけれど、これは別に嘘ではなく、実際にズキ、と頭が痛んだ。思い込みというのは恐ろしいものだなと思うべきか、心が病めば身体も病むと思うべきか、悩むフリはしてみたけれど正直どうでもいい。
早く俺に罰を与えてくれ、もう罪に追われるのはうんざりなんだ。
*
「おい、聞いてんのかよ近衛」
肩を揺すられて、目が覚めた。現在、食堂。一口だけ手をつけた鯖味噌からはまだ湯気が出ている。
「……悪い、半分寝てた。もう一回言ってくれ」
眠気覚ましに味噌汁をすすりつつ、九郎に再度説明を求めた。
「だからよ、生徒会がかりてん?って奴らと模擬戦するんだってよ。明日の放課後」
「かりそらだろ。てか、教師の名字じゃなかったかそれ」
医療系とかそんな説明を聞いた覚えがある。
「そっちじゃねえ妹の方だ。今2年の。どうせなら見に行かねえ?」
「そうだなあ」
都一生が出るというなら見る価値はあると思うが、正直生徒であれとまともに戦える奴は俺を除けば片手で足りる程しかいないだろう。夢に黒に姫薔薇、曼荼羅さんにあの鮫。仮天とやらがどれだけのコネを持っているかは知らないが、流石にそこから誰かを引き抜けているとは思えない。
「ほら、参加者書いてあるチラシもあるぜ」
「サンキュ」
お、遠津くんが出るのか。彼の家は【退魔連合】の中でも重鎮で、著名だから知ってはいたが、彼自信も侮れない実力者だ。戦闘術の授業で一度当たったが、俺が本気を出しても互角に打ち合ってきた。まず間違いなく、全校生徒で十本の指に入る程の戦闘能力を有しているだろう。彼なら都一生とも、戦いになるはずだ。生憎、生徒会側だから、都一生と戦うことはないことが、惜しいところではあるな……
「はぁ!?」
なんて考えながら、仮天側の名を見て、思わず俺は立ち上がった。
「おい、どうしたよ」
どうもこうしたもない。いるじゃねえか、都一生と戦える奴。心逆夢の名を指差しながら、九郎にチラシを見せる。
「俄然、楽しみになってきたよ、これ」
*
「首尾はどうじゃ?」
異空間より帰還した、冴島贋作と鵜黒縦縞を迎える校長と嘉山空白。早速、校長が彼らに問う。
「駄目だね、彼女。何の情報も持ってない」
「想定通りと言えば想定通りだろう。所詮は、教会から排斥されたものだ」
先日、学校を襲撃した一人である【過虐】のパンタシアを、彼らは尋問していた。しかし、出てきた情報は、彼女が元【教会】所属の戦闘員で、複数回の独断専行で除名されたこと程度。彼女と接触していた敵組織のものは凪裏明白のみであり、実のところ内情には一切知識がなかったのだ。凪裏明白が所属する組織すら、胡乱な状態と言える。
「ああ、けど、興味深いことを言っていたね彼女」
「興味深いこと?」
「神の復活は近い、とね」
鵜黒がその言葉を発すると、贋作が鼻で笑った。
「巫山戯た発言だったよ、実に」
苛立ちを隠さず、贋作が吐き捨てた。その余りの剣幕に、空白が後ずさる。
主にとっては、地雷以外の何物でもないじゃろうな、と校長の頭に浮かんだ言葉は、発せられることはなかった。その言葉が、贋作の怒りを買うことは明白だったから。
「神など、この世には存在しない」
憤りが前面に出すぎた贋作の集中を逸らすように、鵜黒がまとめた。
「まあ、いずれにせよ、凪裏明白、あるいは同等レベルに情報を持っている者で試してみないと、これ以上の推測は意味がないだろうね」
「うむ、ご苦労じゃった。後は、明日の準備に移るから、鵜黒は下がって良い」
「お疲れ様」
鵜黒が去るのを見届けてから、贋作が口を開いた。
「生徒会対仮天一派だったな。流石に生徒会の相手にはならんと思ったが、成程仮天め、逸材を揃えてきたな」
「心逆夢と十二単竜胆は分かりますが、他の二人も?」
贋作の発言に、空白が首を傾げた。
「ああ、特に加賀帝斗の特異性は群を抜いている」
「そういえば、加賀を対処したのは贋作じゃったな」
校長が思い出したように、付け加える。
「おいおい、あんたの指示だろう。吸血鬼も認知症とは無縁じゃいられないのか?」
「失礼な、覚えとるわ。言葉の綾じゃろうが」
「怪しいもんだがな」
ムキになる校長に贋作が苦笑した。
「校長、明日の試合だが、もう一人人員が欲しい」
「構わんが、不足か?」
「不足ということはないが」
贋作は一瞬だけ悩むような表情を見せてから、続けた。
「……神の復活という発言は、やはり見過ごせないものがある。新たなる神格者の登場か、紫城美月から一年、それでもあり得ない話ではあるまい。間隔は、短くなっているのだから、いつにしろ用心に越したことはない」
校長が首肯する。五番目の神格者である【魔法】からは百年以上後に【救済】が登場したというのに、【救済】からは十年で【征服者】紫城美月が生まれた。次の神格者が一年で生まれてもおかしくはないだろう。
「過去の神格者の再現というのも有り得る話だ。校長も存じているだろう、【企業】は二十年前、神格者についての研究をしていた。担当だったミルの奴は抜けているし存続しているかは分からんが、後任がいてもおかしくない」
「あるいは、ミルミキアめが首魁という可能性もあるじゃろ?」
「否定はしない、あいつ程フィフィを信仰していた奴はいないからな。だが、肯定もしない。あいつがフィフィの模造品を作る可能性など塵程もないだろう」
校長が問うと、贋作はどちらとも言い難いと、答えた。
「信仰、故か」
「その通りだ。が、可能性は捨てきれないというのも事実だ。一応、連絡はしておこう。生憎、ミルの連絡先は知らんが、他の連中は未だ【企業】に属しているはずだからな」
「うむ。それで、明日のもう一人の人員は誰にする?」
校長が本題に戻り、贋作に聞いた。彼はにやりと笑い、答えた。
「仮天鎹で頼む」
ここまで明確に書いてしまうと、最早隠す意味もないので明言しちゃいますけど、
神殺しの後日談というタイトルの神殺しは、近衛司に加えて冴島贋作のことも指しています。




