生徒会 二
さて、俺が生を受けてから十数年になるわけだが、自分がここまで没個性な人間だと思い知らされたのは、この教室が初めてだった。
「がちゃーん」
常に人形遊びから離れない少女。
『機械の発言であり、人間たる貴様が理解せずとも別段構わんのだが』
ロボット野郎etc…
「ねー、大和。お昼どうする?」
「俺は魚以外なら歓迎する」
そんな事を考えてると、また個性の塊な、チビ武闘家と二足歩行のデカい鮫が声をかけてきた。
「ジャックはともかく、黒虎って意外と地味だな……」
「何で急にディスられてんの僕」
黒虎が困惑した顔を向けて来たから、今考えていたことを説明してやる。
「嫌、このクラスの面子濃いなあ、って何となく思ってさ」
「あー確かに。大体ジャックとカルマのせいだと思うけど」
「待て。私や鴉よりもあの機械の方がおかしかろう」
俺が突っ込む前に、ジャックに先に突っ込まれた。
「僕はあんな感じの見慣れてるからなー」
いるんだ、管理局怖いな。
「俺、飯はパスな。呼び出し食らってる」
「黒虎よ、聞いたか?遠津とは今生の別れになるかもしれんぞ」
「せっかく仲良くなれたのに悲しいね」
「何もやってねえよ!大体、俺だけじゃない、カルマも呼ばれてる」
そもそも呼ばれただけで問題起こしたって認識はおかしい。俺がそう見られてるってこと?
「なら無罪だな」
「良かったねジャック」
こいつらぶん殴ってやりたいけど、絶対負けるから殴れない。
「お前ら覚えとけよ」
負け惜しみを言って我慢する。
「ていうか、もうカルマいないよ?急がなくていいの?」
「ああ、ちょっとした作戦だ」
俺とカルマに繋がりがあるという知識もないなら、答えは決まっている。
「とは言え、もう時間だし行くよ。飯はまた今度誘ってくれ」
「おっけ。ジャック何食べたい?」
「パフェ、フルーツパーラーを希望する」
「高校生が昼に行く店かな……」
黒虎が代案を考え始めた頃、俺は教室を出た。
あんなんだが、あの二人こそ俺を没個性に位置づけた張本人と言っていいだろう。入学初日に見たあの二人の一瞬の攻防は、俺の自信を奪うには十分すぎた。
最初は関わることもないと思っていた二人だったが、地上の生活に不慣れだったジャックを世話したり、俺の名前を知っていたらしい黒虎が俺に声をかけたことで、カルマを入れ四人でつるむようになった。人生とは不思議なものだ。
なんて、思い出している間に目的地にたどり着いてしまった。B棟4階、生徒会室に。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けると、そこには八人の男女がいた。
五人は生徒会の面々。そして、一年が三人。カルマ、それとB組の温盛朝顔にC組の旧インダストリアル。どういう面子だ?
「足を運んでくれたことに礼を言いますわ。どうぞ、お座りなさって」
促されるまま、空いた一つの席に座る。冷えた茶を出されたので一口飲むと、うえ何だこれミントティーか?嫌いじゃないが、普通のお茶だと思ったのでびっくりした。
「カルマさんと一緒じゃなかったのには理由が?」
「……少し用事があったので、ご容赦いただけると助かります」
まあ、その程度の下調べはしているか、侮ったことに対し頭を下げる。
「嫌々、謝ることはないよ。これからは君も僕たちの仲間なんだからね!」
おいおい、確定路線かよ。そういうのに好感を持つやつもいるんだろうが、俺はその高慢な感性は嫌いだ。さっきの評価は取り消しておこう。
「バカ、論偽。お前その言い方だと拒否権もないみたいじゃねえか、言葉に気をつけろ」
「む!確かに、済まない遠津くん!」
そんなに素直に謝られるとこっちも申し訳なくなるから止めてほしい。
何せ、こっちはそんなことに気を取られているほどの余裕はないんだから。
「そろそろ、本題に入ろうよ、歌音」
そう口にしたのは、生徒会副会長、都一生。入学する前にカルマから聞いたその名前は、近衛司を筆頭とした管理局の連中さえ、比較にならないほどの危険性を有する。そして、入学式、今、自分でも体感している。相対して感じるこの圧倒的な存在感は、事実黒虎やジャックさえも凌駕する。それはある種、自分の実力を抑える術を知らない未熟さ、とも言えるのだが、こうも強大無比ならむしろその未熟さが恐ろしい。
「そうですわね、一生」
都一生の言葉に首肯した生徒会長は、こほんと咳払いをしてから言った。
「カルマ、遠津大和、温盛朝顔、旧インダストリアル。あなた達を生徒会に勧誘させていただきますわ」
やはり勧誘か、カルマに目配せすると、彼女が頷いた。小さい方の女子、旧さんも予想していたようで、大きなリアクションは見せなかった。
「勧誘、だァ……!?」
だが、温盛さんにとっては想定外だったようで、声を震わせながら、言葉を返す。
「ええ、あなた方の才能は目を見張るものがありますわ。そして、生徒会はその力を求めている」
才能に目を見張るものがある、か。本心ではあるとは思うが、言っていない理由もある。それは僕らがどこの組織にも属していないということだ。
近衛司や黒虎なら管理局、レオンなら集会、それに院も何人か、学生でありながらも組織に属している生徒は少なくない。優秀な生徒であればあるほど無所属の生徒は少なくなる。
どういうわけか、生徒会はその手の生徒を勧誘することはない。まともに考えれば優秀かつ人格に問題ない、骸帝や釈迦堂曼荼羅が生徒会に加入していないのはおかしいからな。
僕らは所詮、残ったパイの中から少しでも美味しいものを得ようとして選ばれたに過ぎないということだ。決して、彼らが僕らを高く評価しているわけではない。
「僕は参加するよ。一生の推薦だろう?断る理由はないな」
「ありがとう、ふー」
旧さんが、まず参加の意向を示した。都一生の親しげな態度を見ると、二人は情報通り旧知の仲らしい。
「あたしも文句はねえよ。生徒会ってのは柄じゃねえが、弱いままなのは気がすまねえからな」
「温盛さんその意気です!私たちとともに切磋琢磨し、鍛え上げましょう!」
次に温盛さんが。彼女は確か、オリエンテーションでは中級レベルに属していたはずだ。異能を鍛えられる環境にいなかったにしては、充分すぎる評価だとは思うが、見上げた向上心と言っておこう。
「君らはどうする?さっきも言ったけど、別に断ってくれても構わねえよ」
「推薦した身としては、入ってくれたら嬉しいけどねぇ」
灘誤答の言葉に、大袋のポップコーンを抱えた佐々木恋が応じた。
(どうする、大和。この人達、思ったより僕らのこと評価してくれてるみたいだよ?)
(それ自体は嬉しいことだがな。結局のところ、彼らは俺達に何を求めているか、それが気になる)
俺の戦闘能力を最も評価しているのであれば拒否一択、カルマの特殊性でもなし、俺たちを二人で評価しているかが問題だ。
「……俺を推薦してくれたのはどちらですか」
「私と誤答くんの二人で、遠津くんとカルマさん二人、かな。どうやら、君たちは単独よりも二人で光るタイプみたいだし」
「あいつの受け売りですけどね」
ちょっと言わないでよぉ、と言い返す佐々木恋を尻目に、俺は『あいつ』とやらについて思案を巡らす。
(どうやら、予想通りみたいだな)
(うん。生徒会は5人じゃない、もう一人いるね)
恐らくは、意図的なヒントだろう。俺たちを試しているのか、気に入らないが飲み込めなくはない。
「いいでしょう、俺も参加させていただきます」
「勿論、僕もね」
俺に続いて、カルマが参加の意向を示した。飲み込めなくはないから、乗ってやる。どちらにせよ、何処かには所属するつもりだったからな。都一生が所属していて、恐らくそれなりにまともな人間性を有している生徒会なら、釈迦堂曼荼羅と無実はしゃぎが属する、報道委員会についで悪くない選択だ。
「皆さん、快諾して下さったこと、感謝いたします。今後少なからず仕事の機会がありますけれど、その手間以上のメリットを皆さんに提供することを約束しますわ」
慇懃とも感じるほどの礼の言葉を、生徒会長が発する。メリット、か。言わずとも享受させては貰うつもりだが、言葉にされると改めて期待はしてしまうな。
すると、誰かの携帯から着信音がなった。可愛げな音楽が生徒会長の方から流れていると、分かるのにそう時間はかからなかった。
「失礼、電話が入りましたわ。恋、先に書類の記入を進めておいて下さいまし」
「はーい」
黙々と書き物を始めた佐々木先輩、手持ち無沙汰にする間もなく、会長が電話を終えた。
「皆さん、早速ですが、仕事の予定が入りましたわ」
「歌音ちゃん、仕事って何?」
「模擬戦の誘いですわ。珍しく、真からの。余程、良い一年を揃えたのでしょうね」
模擬戦か、俺はともかく、温盛さんにとってはいい機会になるだろう。
「あー、確か心逆夢くんが入ったって聞いたね。化け物の内の一人だ」
心逆夢!あのレベルと戦えるなら、俺にとっても願ってもいない機会だ。
「遠津くんに温盛さん、良い目をしますわね。乗り気でなによりですわ」
そんな指摘を受けて、少し恥ずかしくなる。余り、感情を前面に出したくはないんだが。努めて、自制しようと思うが、
「予定は一週間後ですわ。あなた達の力、見せて下さいまし」
待ちきれないと思う気持ちまでは、消せやしない。早く、来週が来ないかな。




