学徒 宇宙からの落とし子
幾ら強さの高みに上がっても、死は抗えぬものである。
しかし、壊せぬものではない。
ある日、隕石が私の家に落ちてきた。
当たり前のように、私の家は全壊して、家族は皆死んで、私だけが、生き残った。外傷も殆どなかった、私を救急隊員は不思議に思い、気味悪く思ったことだろう。
病院に運ばれて、一週間。体の検査、メンタルチェック、体だけは元気な私に次々と行われるそれらに、私は現実感を感じられずにいた。この現実が全て、夢ならばいいのに。
そして、それ以上に夢のような現実が、私の元へ訪れた。
「どうも、七ツ星はてなさん。突然で悪いが、あなたをスカウトしに来た」
まだ幼さの残る少年は、私の病室を訪ねるなりそう言って、呆然とした私に説明を続けた。
どうやら、この世界には人智の及ばない存在が多数いることと、私が生き残ったのは隕石のエネルギーを得たかららしい、ということを私は知った。
【星の選定者】、彼は隕石のエネルギーを、そう呼称した。星に選ばれ、星の力を自在に扱える、異能。
そんな力なんて、いらなかったのに。そうつぶやくと、少年はつまらなそうに鼻息を漏らした。
「一部を除けば、皆そう言うよ。君だけじゃない」
僕に言わせれば、皆、贅沢者だけどね、と少年が付け加える。そう言う彼は求めていたのだろうか、疑問には思ったけれども、聞く間もなく、彼は続けた。
「君の現状には同情する、手助けはしよう。だがこの席を望むものは多い。君が要らないというなら、残す理由はない」
不遜な態度で言う彼の手を、悩むこと無く私は取った。どうせ、選択肢なんてない。
連れてこられた先で、私は今まで住んでいた世界の常識は役に立たないと悟った。
悠久の時を生きる仙人、無限を操る神に等しき者、機械の擬人化、龍のクォーター、それらと同等以上に渡り合うただの人間たち。
私は彼らから、【星の選定者】を扱うための修行をつけられた。思い出しても、厳しい、辛い修行だった。だからこそ、それを乗り越えた私はかなり強くなっていると思った。なんて微温い、考え。
ジャックシャーク、突如私の目の前に現れたそれは、簡単に私を蹂躙した。黒虎に助けられなければ、私には、明確な死が訪れていてもおかしくなかった。
心逆夢、私は彼に挑戦した。かつての候補者くらいなら、私は既に超えているはずだ、そんな根拠のない自信と共に。修行中に何度も聞いたその名の壁は、想像以上に高かった。私は完膚なきまでに敗北した。そんな彼が、私を倒した後も、戦い続ける余力を残していたことに、絶望した。
憎かった。弱い自分が。
そんな、拭えない劣等感を抱えていた時、私は天啓に出会った。
憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い!初めから何もかもを持っている彼が、持ちながら幸福を享受している彼が、我が物顔で最強のふたりの横に並び立つ彼が、彼の全てが、憎くて、堪らない。
だから、私は、彼を殺してやることに決めた。
*
ある日、隕石が俺の街に落ちてきた。
当たり前のように、その事実は噂になり、とある家に直撃して人が亡くなったと聞いて、俺は可哀想だな、と思いつつも変わらない日常を過ごした。過ごす、はずだった。
翌日、俺が隕石が落ちたと知る前の時、目覚めた瞬間、途轍も無い空腹が俺を襲った。腹が空いて仕方ない、朝食を摂る習慣がなかった俺だったが、空腹には耐えきれず、山盛りの朝食を平らげた。家族もそんな俺を珍しがった。それでも俺は尚、腹が空いていた。だから、家族がどこか体調が悪そうなことにも気づけずにいた。
そんな空腹も登校中に段々と紛れていった。人通りの多い所に行けば行くほど、特に駅につく頃には空腹は完全に収まった。道端で倒れる人が異様に多いことにも気づかずに。
電車に乗った時だった。そこで俺は、周囲の様子がおかしいことに気がついた。吊り革に捕まりながら頭を抱えている人、顔面蒼白な人、座っていても倦怠感が抑えきれない人、自分の周囲に、体調が悪そうな人が多すぎる、否体調の悪い人しかいなかったことに。ああ、馬鹿な俺は、流行病かと思い不安がるばかりで、俺自身の問題に気づくことはなかった。そこで問題の根本に気づくべきだった。気づいていれば、この後にもっとデカい問題を起こすことはなかったのに。
学校に着いても、体調が悪そうな人間が多いことに疑問を覚えながらも、教室に向かった。
ホームルームの時間になり、先生が教室に入ってきた瞬間に、頭を抱えしゃがみ込んだ。大丈夫ですか、とクラスメイトの誰かが聞いた。
「教室来たらちょっとふらっと来てな。体調不良みたいだ」
そんな教師の様子を見て、俺は言いようのない不安に襲われた。
2時間目の授業の途中、一人の女子生徒が倒れた。終わる前に、また一人、早退した。
3時間目が始まる前に更に二人、途中で三人、終わる頃に更に三人。学校も何かがおかしいと気づく。
そして、俺は何がおかしいのか気づき始めていた。一人、また一人と、早退していく中、俺だけが、元気に立っていることが、どう考えても不自然だった。
怖くなった俺は学校を抜け出し、誰もいないところまで駆けて、息を切らす。すると、餌を求めるように、腹がぐうとなった。




