エピローグ
「ば、か、な」
黒の槍を全身に突き刺された中年は、正しく絶体絶命の状況であった。
「な、ぜ?脳は、掴んだ、はずなのに」
全身から血を流した、死の間際の彼は、呆然とただ疑問を発する。
「残念、その手の扇動は、もう僕には効かないんですよね」
微笑みを湛えた彼、都一生は、答えを口にする前に、黒にだけ染まったその鋭利な槍で心臓を突き刺す。
「歌音が、僕に道を教えてくれたから、ね」
心底、幸せそうに。
*
どこかの場所で、凪裏明白を含めた男女が円卓を囲んでいた。中央には、大きな棺桶が。
「おいおいおいおい、どうなってんだ凪裏さんよぉ。いくらなんでもうまく対処されすぎだろ」
態度の悪い、二十そこそこの男が、嘲るように。
「あーあ、大失敗じゃないですか。二人も犠牲者が出るなんて」
仮面の集団と同じ顔をした女が、つまらなそうに。
「先生を、責めないで。先生は、できる限りのことをやった」
まだ少女の年に見える、繊細な少女が、庇うように。
「これも、運命かよ。凪裏」
怒りを堪えながらも、冷静に努めようとする中年間際の女性が、責めるように。
「いいや?生憎、運命を乗り越える人間というのは割りと存在するものでね。少しばかりのズレは許容頂きたい」
微笑みながら、凪裏は中年の女性に返答する。
「はっ、言い訳かよ。あんたがちゃんとやってたら、その乗り越えた運命とやらも覆せただろ」
「出来なくはないが、リスクがつきものなのでね。ここで無理をすることはない、最後に上手く行けば良い、違うかいミルミキア?」
「……腹は立つが、言う通りだな。次はいつだ、凪裏」
ミルミキアと呼ばれた中年はため息を吐きながらも、凪裏の言い分を認めた。
「グッドイコォルの蒔いた種が咲いた時かな。今は待とう」
「なら今日のところはもう解散だ。次に呼ぶまで、好きに過ごせ」
ミルミキアが解散を言い渡すと、凪裏は少女の手を繋ぎ、それ以外の二人は各々別々に去っていった。
「最後に上手く行けば良い、ね。確かにその通りだ」
全員が消えた後、彼女は独り言を漏らしながら、中央にある棺桶を開けた。
「早く、会いたいよ。フィフィ」
彼女は愛おしそうに、童女の亡骸の頬をなでた。その亡骸は、まるでつい先程亡くなったかのように生気に溢れていて、血色良く、今にも動き出しそうなくらいで、二十年以上も前に亡くなったものとは思えなかった。
*
「曼荼羅の、野郎!これでも、勝てねえか!」
「はいはい、暴れないでくださいねー」
僕たちが校内に戻ると、校内を襲ったらしい何者かは、既に立ち去った後だった。多少の被害はあったようで、何人かが保健室に運ばれていて、僕はその内の一人に用があり保健室に向かった。
「すいません、仮天先輩は―」
「真ちゃん?真ちゃんはそこのベッドですよ」
保健室というよりも、病院の大部屋のような広さのそこで、先生に聞くと実に簡単に仮天先輩のベッドを聞くことが出来た。
「失礼します」
『心逆くん?どうぞ、入ってください』
カーテンの外から声を掛けると、仮天先輩が驚きながらも、直ぐに迎えてくれた。
入ると、そこには既に一人の男性がいたので、お互いに軽く会釈し合う。
『どうやってここが?』
「久豆里先輩から伺いました。保健室送りになったと」
『あのクソチビ……』
僕が答えると、仮天先輩が小さな声で毒づいた。どうやら何かしらのいざこざがあったんだろう、苦笑しておく。
「良く、彼女の言ってることが分かりましたね?」
「?はあ、まあ」
男性が不思議そうに聞いてきたので、戸惑いながら曖昧な声を漏らす。ハイテンションな人だったけど、分からないほどじゃないと思うんだけどな。
『それで、あの時の答えを、聞かせに来てくれたのですよね?』
「はい、良ければあなたの下で拳を振るいたいと思います」
『しゃぁ!』
僕が肯定の意を示すと、すごい勢いで仮天先輩がガッツポーズした。
「最も、自分のため、の意味も強いですが」
『それで結構、私は私のためにこの組織を動かします。私だけじゃなく、メンバーも皆。あなたも自分のために動きなさい』
ちょっと申し訳なくなった僕が本音で言うと、ガッツポーズを止め、実に先輩らしい態度で応えた。
『改めて、ようこそ、【似た者同士】へ』
手を差し出した彼女の細い手を、しっかりと握る。
『私たちは、貴方を歓迎します』
にっこりと笑った、仮天先輩を見て僕は、いずれ、この歓待に応えられれば、と少しだけ思った。
ひとまず、第一部完。ということで、ようやく下地が出来た感じです。今後どんどん物語は動いていきますので、ご期待頂ければと思います。
また、全然書き溜めないのでしばらく更新停止します。よろしくお願いします。




