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神殺しの後日談  作者: 雑魚宮
第三章 敵襲
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竜虎、相討つ

「始まった、か」


 夢と黒の戦いを、俺は夢の背後から盗み見ていた。この後に始まるだろう襲撃を予見すれば、恐らく満身創痍になるだろうあいつらに危険が及ぶ可能性は捨てきれない。まあ、今の時点での二人の戦闘の結果も気にならないとは言わないが。


『【破】ッ!』


 まずは破の応酬、やはり些かだが夢の出力が劣る。体制を崩した夢に、黒の追撃が襲った。


「鉄壊!」


 腹部を狙った拳に対し、夢が全身の強度を上げることで応える。両腕のみの場合よりも強度は下がるが、それでも速度重視だった黒の拳を防ぐには充分。


「撫で掌」


 嫌違う、開いたまま腹部に触れた掌を受けた夢が空に浮き、地面に叩きつけられた。塗の型、【撫で掌】。威力こそ低いが、相手が防御に回った時は今のように防御を崩し有利な状況を作り、自分が防御に回った場合でも一瞬の隙きを突き攻勢に転じる、黒らしい攻撃的な技の一つだ。


「何だ。変わったと思ってたけど、この程度か」


 倒れたままの夢に対して、黒のらしくもない、挑発的な言葉。立ち上がれない、夢を見下しながら放った彼女に、どこか俺は違和感を覚える。


「何が?」

「夢だ。撫で掌程度で立てなくなる程、あいつは柔じゃない」


 かみさまの問いに、水を差された気分になりながらも俺は答える。考えられるのは、一つ。


「こんなお遊びに付き合わされるなんて、ねえ!」


 怒りに任せながら、夢の頭に踵を叩き落とす。すると、初めからそんなものはなかったかのように夢は消え失せた。

 やはり水鏡分身、だがいつだ?いつ、入れ替わった?破の撃ち合いでは確かに、夢本体だったはず。そうでなくては、余りに力の差が無さすぎだ。


「本来は十人に分身し、それぞれ本体の十分の一程度の実力を持つ、水鏡分身。それを一体に凝縮することで、耐久性以外の劣化を最低限に抑え込んだ。違う?」


 落ち着きを取り戻した黒が、虚空に向かって問う。

 分身を一体に抑えれば殆ど本体と実力差のない分身を生める、だって。少なくとも、以前の夢には出来なかった芸当だ。


「合ってるよ。流石の観察眼だ」


 虚空から這い出た夢が、黒の推測を肯定した。おい、待て。姿を消していた?また新技かよ、透明化とか十刻じゃねえんだぞ。


「まったく、夢の野郎。出鱈目なことばっかりしやがる」

「君が言う?」


 興奮冷めやらぬ俺の発言に、冷めたような糞かみさまの問いが水を差してくれる。ため息を吐きたくなる気分を抑えつつ、返答してやる。


「あいつの実力は、破虎さんを除けば俺か黒が一番良く知ってるからな。そんな俺から言わせれば、俺以上に出鱈目な才能の持ち主だよ、あいつは」


 美月からの借り物の力を除けば、俺は運良く師匠に【純愛剣】を見出されただけの男だ。師匠と出会わなければ、この道を進むことなどなかった。それに比べ夢は、破虎さんの師事を受ける前から夢現を使えていたと聞く。


「ふーん。なら、心逆夢有利な訳?」

「嫌、そう単純じゃない」


 糞人形の気の抜けた質問に、俺は首を振る。


「黒の技術のいくつかは、夢の対策として生み出されたものだ。幾ら夢とは言え、黒相手の勝率は4割弱程。夢が新しい手札を生み出そうが、読み合いにおいて黒の有利は揺るがない」


 こう言ってしまえばなんだが、先程二つ見せた夢の新技はどちらも、今までの夢への対策で充分補える程度の技だ。透明化も分身も、混じり震脚で終わる。


「で?今ので、僕を上回れるとでも?悪いけど、そんなものじゃ僕は追い抜けない」

「思ってないよ。ただ、今のは君に見せたかったんだ。さっきまでの僕とは違うことを」


 それは互いに承知の上、だから黒の声音には不信感など一切滲まず、夢の言葉は現実感がある。


「へぇ、余裕だね。この程度手札を明かしても、尚勝てる自信がある訳だ」

「違うよ、昔誓ったことを思い出しただけだ」


 黒の問いに首を振った夢は、腰を深く下ろし、構えた。


「君が虎なら、僕は龍となろう。君がどれだけ先を進もうとも、いつだって追いついて見せる。君の隣は、僕だけのものだ」

「……バカなことは言わないで」


 言葉だけは突き放すような言い方ではあったが、少しだけ、だが確かに、黒は口角を上げた。


「早く見せてよ、成長した夢の力を」


 実に嬉しそうに言った黒を見て、俺はただ、心から安心した。



 第二ラウンド、開幕。


『【破】ッ!』


 開幕の音はまたも、【破】の応酬によって奏でられた。


「ぐっ!」

「ちぃ!」


 次こそ互角、互いに幾分か吹き飛ばされ、痛み分けの状態となる。が、距離の離れた今の状況は、若干僕が有利だ。水鏡分身、朧駆け、飛び漣、それに加え姿を消す白昼夢辺りが選択肢となる。

 最も、それら全てが混じり震脚一発で崩れてしまうことを考えれば、あくまで若干程度だろうが。


「痺れ痣!」


 腕をしならせ鞭の様に打つ技、掠りでもすればその部位は機能停止に陥る。


「夢現」

「ま、そうなるか」


 念には念を入れ、痺れ痣は夢現で回避。勿論黒も予想していたはず、驚く気配も見せない。

 ここからだ。混じり震脚は、撃たせない。黒の予想を超えてやる。


「水晶蓮華!」


 夢現で回避した瞬間に、連打を放つ。水鏡分身の応用で、拳のみを増やし僕の動きに合わせて自動で打つ。増やした拳の一撃一撃自体は大した威力にはならないが、本命、僕自身の拳の回避を許さない。


「ぐ!」


 それでも、黒は僕の拳を予想し、既の所で防御を間に合わせる。


「まだだ!」


 それも予定の内だ。直様僕は、分身全てを自分の拳一点に集中させた。【怒張一体】、僕が出来る技の中で、最も威力のある技だ。


「鉄壊!」


 無論黒も、その打撃をただでは通してくれない。初めて見る技だろうが、鉄壊の使い所を間違えない。

 だが怒張一体の一撃は、単なる威力だけなら【破】すら凌ぐ。


「―!?」


 強引な突きは、鉄壊の上からでも、その小さな体ごと吹き飛ばす。

 両足で踏ん張り、なんとか姿勢を保った黒。つまり、意識を僕から外した。


「外し、四連!」


 ようやく、あの黒が隙を見せた。直様、突っ込んで連打を食らわす。


「ちぃ!」


 反応が遅れた。今はギリギリのところで直撃を避けてはいるが、隙が着実に生まれ始めている。それを知ってか、黒が後退した。

 チャンスだ。ここで、勝負を賭ける。


「うおおお!」


 後退に合わせて、追撃。生み出した幻と共に。迅速な追撃は、黒から混じり震脚を放つ余裕を奪う。


「まだ、だぁ!」


 黒が咄嗟に放ったのは破の型【双星乱打】、両の腕で無数の打撃を広範囲に放つ技。僕が生み出した幻が、飛び漣でも朧駆けでもカバー出来るように、だろう。試作段階しか知らない技だが、この半年で体得に至っていたか。

 だが生憎、どちらも外れだ。


「両方とも、幻覚!?」


 そう、両方とも幻だ。【明け眩まし】、攻撃と体の両方の幻惑を生む、飛び漣と朧駆けの複合技。


「決まりだ」


 白昼夢により姿を消して近づいた僕は、黒の腹部に触れ、囁いた。


「【破】ッ!」

「う、えっ!」


 ノーガードで直撃、流石の黒も嘔吐と共に崩れ落ちる。


「……まだ、温い!」


 黒が地に落ちる直前、手のひらがそっと、僕の腹に触った。


「混撃・疵痕!」

「か、ぁッ!」


 やられた、そう思うよりも前に、腹部に尋常じゃないほどの痛みが襲った。思わず、苦悶の声を漏らす。


「が、ああああああああ!」


 だけじゃない。地面に倒れ、のたうち回る。

 【混撃・疵痕】は事前に感じた痛みを相手の内部に押し付ける。今で言えば、【破】の破壊力がそのまま、僕の腹部に押し付けられた。痛みは同じでも、外側から加えられる皮膚越しの攻撃と、内部にそのまま押し付けられる攻撃では、苦しさは段違いだ。


「……ま、だ、やれる、よね?」


 黒は息も絶え絶えに、のたうつ僕に問うた。

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