相討つ
集合した場所はまた、体育館。
新入生たちは穏やかに談笑する数人を除けば、どこか緊張感が奔っている。
正確な情報を当然持っているだろう夏織ちゃんなんかは、明らかにテンションがガタ落ちでちょっと愉快だ。今まで実戦練習をサボったツケだな。
逆に、夢には良い緊張感が見える。午前中とは見違えるようだ、何かいい出会いでもあったか?
よくよく観察を続けていると、それ以上に俺は教師陣が気になり始めていた。
自然体に見える女教師はともかく、どこか警戒するように周囲を何度も見回す男教師二人は、俺でなくとも不自然に見える。
(先入観かもしれんが、先生たちにどこか剣呑な雰囲気を感じるな。曼荼羅さん経由で情報が行ったか)
それなら一先ず安心はできるか。午前中の二人の教師の実力を見れば、他の教師陣のレベルも相当なものだと伺える。
(狭いけど、やっぱり人肌って安心するねえ。いつも誰に聞かせるでもない独り言を聞いてくれる人がいることも感無量だなあ。ねえねえ、反応してよ。こんなに喋ってるのに無視なんてごむたい~)
(……せめて人目につくとこでは黙ってくんねえかな)
さっきの授業はロッカーに放り込んでおいたが、流石にこの授業に連れてこないわけには行かない。曼荼羅さんは他からも情報を得ていると言っていたが、俺にはこいつしかない。
「よし、時間だ。始めよう」
三人の中で最も若い男の先生が前に出た。
「オリエンテーション担当の都冴です、よろしく」
名乗ると、学生の緊張を解すためか、彼は柔和な笑みを湛えた。
「そんなに固くならなくて良いよ、これはあくまでゲームみたいな物。皆の親交を深めるためのね」
そう言うなら、まずそっちから気を抜いてほしいもんだが、それは無理な話というものだろう。今の所は気を抜いておく。
「まず、3つのグループに分けさせてもらったから、それを発表しよう」
都先生の後方にあるプロジェクターに、全てのグループと、そのグループに属する全員の名が表示される。
第一には神泉に逢坂さん。第二には九郎、大曲さん。第三には俺。純粋な実力順、かな。第三に行くに連れ手練が増える。分かりやすく、第一を初級、第二を中級、第三を上級と呼称しよう。
夢や黒も当然上級だが、改めて見るとそれ以外の面子も中々に錚々たる面々が揃ってるな。遠津家の長子にその懐刀、鮫に竜の血族。いずれを取っても、俺たちに負けない何らかの武器を持っている。
しかし、七ツ星や柘榴を差し置いて選ばれた他の二人は全くの無名だ。人形ヶ原と傀儡森、肉体的にはそう優れたものはなさそうだが、一体何者だ?
「とりあえず、実際に体験してみようか」
都先生が指を鳴らした。
「【難攻迷宮】」
瞬間、轟々という騒音と共に、体育館が構造を変えていく。嫌違うか、新たなる空間を生み出した。
体育館よりは狭いが、それでもそれなりに広い土作りの部屋に俺たちは送られた。中央には何らかの文字が書かれた、立板。
「ま、見なければ始まりませんよねぇ」
少しの間その場にいる全員が逡巡するように様子を伺っていたが、人形ヶ原のぼやきによって全員が一先ず立板の前に集まった。
立板には、まあ当然と言うべきか、迷宮を出る速さを競おうと書いてあった。魔獣が出るとかなんだとか、正気かと思う要項もあったが、戦闘不能者は襲わないと書いてあったから心配は無いのだろう。無いのだと思う。
立板を確認した奴から順番に、迷宮を進んでいく。一人、また一人と向かう中で、最後まで残る二人の人物がいた。
*
「じゃあ、黒。始めようか」
「どういう風の吹き回し?」
全員が向かったのを確認してから、直ぐに僕が言うと、黒が戸惑ったように聞いた。ずっと逃げてきた僕から誘ったんだ、そりゃ困惑もするだろう。
「本当は言葉で伝えても良いんだけど、僕らには拳の方が分かりやすいだろ?」
僕はその問いには答えない。ただ、拳を持って対話する。僕らには、それでいい。
「そうだね。打ち合ってればそのうち分かる」
黒も、僕の言葉に肯定してくれた。
だから、すぐに構える。一拍遅れて、黒も応えるように構えた。
「夢」
「何、黒」
始まる前に、僕の名前を呼ぶ黒。
「ずっと、見せたかった。僕が進化した拳を、君に見せるために磨いた虎の拳をようやく見せることが出来るから」
ぞわり、とする程に攻撃的な笑み。獣が牙を剥くようなその笑みに、僕は薄く笑うことで応えた。僕も、負けてはいられない。
「がぁお」
黒が尖った歯をむき出しにして、虎の様に吠える仕草を見せ、それが開戦の合図となった。




