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神殺しの後日談  作者: 雑魚宮
第二章 授業開始
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職員会議

 同時刻。職員室には、ほぼ全ての教師が自らの席に腰掛け、全員の集合を待っていた。


「すみません、遅れました!」


 職員室に響く謝罪の声、代表して一人の教師がその謝罪に応える。


「時間通りなんで、大丈夫だよ」

「どうせ、校長が来るまでは終われませんしね」


 最も年長な彼の言葉に、同意するようにぼやく男が一人。遅れてきた教師は、安心したように苦笑しつつ、自らの席へ急いだ。


「やーい遅刻~」

「うっせ」


 彼の隣に座る尾長が彼をからかい、男は笑いながら尾長を小突く。


「都くんも来たし、始めない?」

「そうですね、では注目生徒から始めますか」


 女性教師が問いかけると、比較的若年の女性が進行を買って出た。


「今年は僕からですね。えーと、悩むところですが、心逆くんですかね。一番鍛え方がちゃんとしてますし、よく飢えてる」


 誰に対しても変わらない物腰の柔らかさと同時に、絶対に折れない芯の強さを併せ持った女が。 【凍った焔(シンメトリー)】1年A組担任、甲田幽里。


「私は八雲くん。今年は例年以上に読めない生徒が多いけど、彼女は断トツ。小気味良いね」


 悪辣さが滲み出る様な、歪んだ笑みを浮かべた男が。【有害部屋(ピースメーカー)】1年B組担任、霧山砂塵。


「加賀帝斗です」


 面倒臭気な態度を崩さずも、どこか真摯さを感じさせる男が。1年C組担任、七ヶ島泳。


「神泉の頭は、外れている」


 傲岸不遜にして、それに値するだけの格を全身に纏った中年が。【失効者(バッドエンド)】2年A組担任、冴島贋作。


「遠津くんです。【管理局】組を除けば、飛び抜けて優秀な子じゃないですかね。まあ、彼らのせいで目立たないんですがね」


 見目麗しいものの、どうにも冴えない男が。2年B組担任、都冴。


「黒虎くんと夢くん」


 底が見えない、空虚さと溌剌さを併せ持った瞳を爛々と輝かせた女が。【果ての獣(ウーズ・ワース)】2年C組担任、尾長雛。


「七ツ星はてな。未熟だが、才能の宝庫だ」


 好々爺然とした、穏やかな印象を与える壮年が。【裁判官(ラトリカル)】3年A組担任、鵜畔縦縞。


「才能ある子多いけど、やっぱり近衛くんが凄いわね。既に私より遥かに上」


 清楚な外見からも、隠しきれない妖艶な色気を流れ出す女が。【艶やかに】3年B組担任、佐々穿。


『逢坂さんです。既に、精神的に完成している』


 機械の様な男が。【改造失敗】3年C組担任、反論坂Σ。

 各学年の担任教師たちが、それぞれ一年生の名前を挙げた。


「では次に、要注意生徒を」


 先程と同じ順で、再度一年生の名前を挙げ始める教師陣。


「恋之淵さんですね。制御できない強大な力は、やっぱり怖い」

「神泉さんかな。見た感じ、とても気味が悪いので」

「傀儡森です」

「人形ヶ原の。精々、借りを作るなよ。高い買い物になるぞ」

「ちょっと迷いますけど、サメくんですかね。本気出されたら一番対処難しいんじゃないですか?」

「司くん一択」

「神泉幸。彼女は、二条院海辺以上の脅威に思うね」

「加賀くん。本質は都くんに似てる気がするわ」

『七ツ星さんです。未熟な心と、外れた才は噛み合わない』


 一息置いた後に、甲田が皆に向けて言った。


「今年は随分と割れましたね」

「それだけ粒ぞろいだよね~」

「そもそも【管理局】のナンバー持ちが三人、それと同格が一人。そりゃ割れるさ」

「意外だったのが冴島さん、どうしたの一体」


 尾長に問われた冴島は、その問いを一笑に付す。


「ふん、単に神泉が最も優れていただけのことだ。貴様らも見ていれば分かる、あれは【管理局】にも劣らぬ慮外の存在よ」

「まーそれにゃ賛同しますがね、絶対危険人物の部類でしょあの子。雰囲気、一昨年の都や二条院、昨年の梶谷、遠宮、寝宮にそっくりですよ」

「それらと比べれば、神泉など可愛いものよ。なぜなら奴は、確固たる理念がある」

「理念、ですか?」


 冴島の発言に霧山が首を傾げた。


「然り。霧山よ、貴様が挙げた内の二人は既に恐るるに足りんということは、貴様自身も理解していよう」

「……ええ」

「奴らに共通する一点は単純だ。理由を得たからだ。人に依る、理由をな」

『経験則、ですか』

「忌々しいことにな」


 纏める様に言った反論坂の言葉に、冴島は自嘲するように笑った。


「で、ちょっと聞きたいんだけどさ」


 鵜畔が手を挙げて聞いた。


「あのサメ何?」

「ジャックシャーク、自称【海の王】。アメリカで暴れてたところ、初代のほうの【罪悪王】に捕まって、その流れでうちに送られたらしいですよ」

「肉体スペックだけなら、近衛、心逆以上。久尾に匹敵する」


 都が概要を語った後、冴島が補足した。


「おいおい、化け物級だね。そんなの送ってこられても困るんだけど」

「こう言っちゃなんだけど、もっと化け物染みたのはここ数年毎年のように見てるわよね」

「なぜ俺を見るんですか」


 佐々の視線に、不服そうに都がぼやいた。


「都くんと久豆里さん連れてきた張本人なんですから、当然じゃないですか」

「お兄ちゃんなんだから責任取ってよ~」

「この子らの分もね」


 都をからかう後輩と同輩を指差しながら、鵜黒が言った。


「鵜黒さんひどい~」


 等と彼らがじゃれ合っている最中、職員室の奥の部屋のドアが開いた。


「待たせたの」


 現れたのは、十の齢にさえ及ばない様に見える、流れる様に長く、煌めく様に惹かる金髪の少女。若い、と言うには余りに幼さが際立つそれは、タレント揃いの教師陣の中であっても際立つ存在感を保って止まない。

 この童女こそが、この高校を統べる校長。名を十刻院終名。元十刻院当主にして、数百年の時を生きる吸血鬼。


「校長、お疲れ様です。遅刻とは珍しいですね」

「嫌、昼寝しとっただけじゃから、全く疲れてはおらんが」

「形式上の挨拶に過ぎんものを否定することもないと思うのだがね」


 霧山の皮肉交じりを意に介さない校長に、冴島が呆れる。


「ところで、今年挙げられた生徒はどんなもんじゃ?」


 挨拶を交わした後、彼女は甲田に聞いた。

 挙げられた名前を聞いた彼女は、納得の頷きとどこか不満そうな声を漏らす。


「……成程のう、まあ順当か。儂のとこのがどっちにも入っとらんのは、少々酌じゃがな」

「そりゃそうでしょー。あの子、全然本気出す気がないんだもん」


 校長の発言に殆どの教師陣が首を傾げながらも、只一人、尾長だけがからからと笑った。


(十刻院柘榴が、か?正直、篝にすら足元も及ばない印象だったが、少しばかり見る目を変える必要があるな)


 教師陣の中でも戦闘に関して一際優れた才能を持つ彼女の反応を見て、冴島贋作が心に留めた。


「って、主題はそれではないわ。明日から新任の教師を迎える、その紹介じゃ」


 終名の発言を受け、少々の驚愕と当然の帰結に納得した雰囲気が教師陣の間に流れた。


『当然ですね。二年生の【災厄】に加えて、今年の一年生の顔ぶれは、現状の人員だけでは対処できない事態が起こる可能性が高い』

「久尾詞の復学もあるからね、ははおじさん有給とっちゃおうかな」


 鵜黒の本音とも冗談ともつかない声音で放たれた言葉に、尾長と冴島を除いた全員が彼を睨みつける。


「牽制しないでくださいよ大人げない」

「安心せい、砂塵よ。新任の名前を聞けば、そんな気もなくなるからのう」

「うわー、じゃあマジなんだあれ」


 終名の発言を聞いた尾長が心底驚いた様子を見せ、それを見た教師陣が一様に警戒する。


(雛がここまで驚くって、一体誰を呼んだんだ校長は)

「まずはここの卒業生でもある、仮天鎹じゃ」


 等と、都が思案し始めた時には、校長がその名を口にしており、都だけでなく多くの教師達は顔面蒼白、あるいは冷や汗を流した。

 ギイ、校長室に繋がるドアが開く音がした。外見だけ見れば、清楚と形容するに相応しい女性が、淡い笑顔とともに頭を下げる。


「仮天鎹です。よろしくお願いします」


 その外見に似合わしい、貞淑な雰囲気のまま、彼女は名乗った。


「鎹ちゃーん!って、まあ驚きはないんだけど」

『僕が卒業して以来ですね。お久しぶりです』

「初めまして、どうぞよろしく」

「……ふん、荒療治も必要ではあるか」


 尾長と反論坂の二人が歓迎の言葉で迎え、七ヶ島は端的に告げ、冴島は苦々しそうに言った。それ以外の面々の反応はそれぞれながらも、彼女を歓待していないのは明らかだった。


「雛さん以外の皆さんは本当にお久しぶりですね。皆さんお元気そうで嬉しいです。七ヶ島さんは初めましてですね、改めてどうぞよろしく」


 そんな雰囲気を感じ取っているのかいないのか、彼女はそんな中でも微笑を崩さない。


「鎹には、秤と共に医療班、必要に応じて各実技授業の補助教員としてついてもらう予定じゃ」

「……医療行為だって言って、四肢切断とかしなきゃいいけど」


 校長の説明を受け、佐々が隣の鵜黒や反論坂にも聞こえない程度の声でぼやき、直ぐに後悔したような表情を見せる。


「流石に、身内でもないのにそんなことしませんよ」


 聞こえていたのだろう、鎹は佐々を見て困ったように笑った。


「次は【集会】からの客人、アトランタちゃんじゃ」

「アトランタ・リリィと申します。一年間、教鞭を執らせていただくことになりました。よろしくお願いします」

「リリィ!【集会】!うわー、後で戦ろうよ!」


 興奮したように捲し立てる尾長に、苦笑しつつアトランタが応じる。


「貴方には到底及びませんよ、【果ての獣】さん。私は戦闘に長けたタイプではないので」

「そっかあ……残念」

「とは言え、雛。主にとって、この出会いは決して無駄ではないぞ」


 本気でがっかりしたような表情を見せた尾長を見て、校長はくつくつと笑った。


「アトランタちゃんは戦闘は不得手とは言え、あのリリスターが【集会】に組み込んだ人材じゃからな。儂は聞いたが、魔法以外にも侮り難い一芸を持っておる」

「恐れ多い限りです」


 校長の言葉に、アトランタは恐縮するように微笑む。


「最後に【五基製作所】から、五基院仄火じゃ」


 教師、というには些か幼く見える風貌で現れた彼女は、無表情で頭を下げる。


「よろしく。武器の調整とかあれば遠慮なく言ってほしい」

「校長の身内かい」

「五基院って言えば【十刻暗殺部隊】とずぶずぶって聞くわよね」


 直様突っ込んだ霧山に同調する佐々を、戒めるように鵜黒が口を開く。


「あのね、君たちもう少し仄火ちゃん慮ってあげよっか。コネって言ってるようなもんだよそれ」

「実際コネだ」

「コネかい」

「七ヶ島先生以外は私達もそうじゃないですか。校長が連れてきたなら実力も疑問はないし、誰も気にしませんよ」


 鵜黒と仄火のやり取りを呆れた表情で見守っていた甲田が言うと、教師の間から同調の声が上がった。


「新任の教師は以上じゃ。皆、歓迎してやると良い」

「午後の準備もありますので、これで」

「私何の準備も出来てない!冴、どうしよ!?」

「何の準備もいらねえからだよ……」


 校長の発言を聞いた七ヶ島が足早に去ると、他の教師たちも続いて職員室を後にした。


「我々はどうしたら?」

「鎹とアトランタちゃんは医療班として待機。冴は加減するじゃろうが、雛と砂塵はまあせんじゃろうからな。まず間違いなく、怪我人は出る。仄火は【紫電】の調整でもしておれ」


 校長を除いた全員が職員室を後にする。


「で、何の用じゃ。曼荼羅」


 それを待っていたかのように、何もいないはずの虚空に呼びかける校長。それに応じるかのように女子高生姿の女が現れた。


「や、終名ちゃん」

「ちゃんはよせと言っとるじゃろが」


 からかうような曼荼羅の呼び方に、終名はむくれたように頬を膨らます。

 3年C組釈迦堂曼荼羅。彼女の本来の所属は、【管理局】NO.3。千年を超える時を生きる、文字通りの化け物。


「昨日、今日と、気になる情報がいくつか入ってきてね。君にも知らせるべきだと判断した」

「主が単独で解決できぬ事案か。正直、嫌な予感しかせぬが、聞かねばならんじゃろうな」


 曼荼羅の発言を聞いた終名は、実に渋々と続きを促した。


「【かみさま】と名乗る【神格者】が司に接触した」

「何者じゃ?」

「旦那の古い知り合いだとさ。小もアーティーンの婆ちゃんも知らない、最重要機密っておまけ付きだけどね」


 終名の問いを受け、曼荼羅が困ったように笑う。


「それだけじゃない。外部組織からの攻撃が始まる可能性が高い。何せ、所属の異なる三者からの情報だ、ほぼ確実と言っても良い」

「ひとまず、午後のオリエンテーションには細心の備えが必要じゃな。教師陣に通達と、十刻院から人員を呼び寄せておこう」


 校長の返答に、曼荼羅が眉を顰めた。


「……まあ、仕方ないか。そりゃ、都くんがついてたほうが安全だろうしね」


 納得したように呟くと、曼荼羅は立ち上がった。


「もう行くよ。そろそろ午後の授業も始まる。私は一先ず、手薄になりそうなA棟で待機してるよ」

「頼む」


 曼荼羅が去ると、終名は校長室に戻った。


「新たな【神格者】、か。【救済】や【征服者】の時のように大事にならなければ、良いのじゃが」


 それが杞憂になることを願いながら、校長は呟いた。

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