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神殺しの後日談  作者: 雑魚宮
第二章 授業開始
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魔獣学

人面しないでくれる?化け物がさ。

 朝九時を回った頃、僕たち一年生はC棟の一階に集まっていた。正真正銘最初の授業、昨日も聞いた魔獣学の授業。なのに、何故か、僕たちは体育館に集まっている。

 思えば変な話だ。この学校の敷地はどこを見渡しても、魔獣の影どころか魔獣が住める環境もなかった。座学に留めるのならば、わざわざ体育館に集める必要もないだろうに。


「どうも、おはようございます」


 無精髭が目立つ、中年の域に差し掛かった頃の男性教師と、大鉈を持ったエプロン姿の、おでこを出した女子生徒が現れた。


「えー、神話生物学担当の嘉山空白です。魔獣学と呼ぶ人もいますけど、まあ俺はその呼び方あんまり好きじゃないんで。皆さんはどう呼んでくれても構いません」


 かりかりと頭を掻きながら、軽く説明した。


「実を言うと、私は神話生物学の教師ではありません。本来は尾長、という教師が、魔獣学を受け持っているのですがね。急用で今回は参加できませんでした」


 首を傾げる多くの生徒と、納得した様子の一部の生徒。僕も、ようやくその言葉で気づいた、何故魔獣学の授業で、体育館に集められたのかを。


「空間魔法で繋ぐんですね!」


 一人が発した言葉に周囲がざわつく。魔法という言葉に、馴れていないから。正確には、それにリアリティを感じていないから。

 ここに来たからには異能を始め、それに近い事象があることも知っているはずだが、それでもフィクションで聞き慣れたその言葉を実在すると認めることは、中々に難しい。


「満点とは言いませんが限りなく近しいです。レオンくん、君は確か、魔法学校からの留学生でしたね」

「はい!」

「知らない人も多いでしょうし、一つ、皆の前で魔法を見せて下さいますか」

「分かりました!」


 出てきたのは金髪とそばかすが目立つ、小学生の終わりか中学生に成り立てか、第二次性徴前くらいの年代の少年。少なくとも、16歳よりは随分若く見えた彼は、手のひらから小さな光の玉を生み出した。


「これが魔力の塊です。これは単純にこのまま放って、攻撃に使うことも出来ますが」

「光線にしたり、格子状にしたり、小動物のようにして勝手に動き回らせたり、炎とか水とか霧に変えたり出来ます」


 歓声が生徒たちから上がる。特に、炎と水を同時に巨大な螺旋にしてぶつけ合ったのには、大きな歓声が。

 それも凄いと言えば凄いが、僕が驚いたのは、小動物の方。【集会】の魔法学校は、10歳から18歳までの七年制の学習機関だ。世界で唯一魔法を学べる学校でもあるから、生徒は無国籍状態だとか。

 自動操縦の魔法は、ゴーレム等魔法人形の製造等に使う、かなり高度な魔法。四年か五年生の時に習う魔法を、あの年齢で使えるとは、相当な才能の持ち主だということが伺えた。


「ありがとうございます。えー、今のが魔法です。異能と混同しやすいですが、異能と大きく違う点があります。それはあくまで魔法というものは技術であり、同じ工程を踏めば同じ結果を起こす事ができるということです」


 つまり、魔法は極論、学べば誰でも使うことが出来る。そこは、武術に近しい点だ。最も、魔力量という才能が必要だと言う前提はあるが。


「また、魔法に近しい技術は、各国に存在しています。人形師、呪術、祈祷、それに武術の最果て。これらは技術でありながら、いずれにしろ、異能無くして異能と同等、またはそれ以上の現象を起こします」


 先生の説明に、僕は頷く。覇王流も、その一つだ。

 最も、その中でも魔法は、他と比べても異質な点があるのだけれど―


「と、これ以上は、都先生の担当ですね」


 こほん、と一拍置いてから、彼は続けた。


「ここまで長々と説明しておいてなんですが、私のは只の異能ですがね。魔法使いの方に師事を受けた経験はありますが」


 へぇ、魔法の心得もあるのか、と僕は感心した。魔法学校の出身者は数少ない、という程ではないが、【集会】に残るでもない限り余り俗世とは関わらないと聞く。学校出身者から学ぶということは、かなりハードルの高いことだ。


「何故なら、君たちが目にする【空間】は、魔法でさえも尚、足りない規模なのですから」


 そんな、思わせぶりに言った先生は、何もなかったはずの場所から、剣を取り出す。

 ここまでは驚くほどのことじゃない。適切な知識ではあったが、教師ならそれくらいの知識量を持ってて当然だろうし、剣を取り出したのも、異能の発現だろうから。


「割いて繋げ、【空白間】」


 なにもない場所を剣で切り裂いた先生、その何もない場所が裂けて、入口になる。

 僕が驚いたのはここからだった。

 その先には、なにもない真っ白な空間。事実、なにもないその場所は間違いなく、異能によるもの。

 その先には、更に複数の異空間の入り口があり、それら全てに、世界各国の名が記された看板が見えた。


(嘘だろ……?)


 ざわめきの声、他ならない僕も、とても驚いている。かなり、特異な異能。

 教師陣を侮っていたかもしれない、これは【管理局】にいても見劣りしないぞ。


「では、畠山くん、後はお願いします」

「はい」


 硬い声で了承すると、大鉈を持った彼女が前に出た。


「3年の畠山肉斬だ。飼育委員長をしている。今回は尾長先生の代理で、授業に同行した」 


 受ける印象としては、生徒会長に似ているが、決定的な違いが一つあった。その瞳の奥、声色、生徒会長にはどこか暖かみというか、慈愛を感じたが、彼女はどこに触れても冷たいような錯覚を覚える。


「先程、嘉山先生は神話生物学という呼称を使ったが、事実その呼び方の方が理にかなっている。何故なら、この授業で実際に触れることとなる魔獣の一部は、人間以上の知恵と知識を備えている」


 その言いようから、彼女は、心の底から魔獣へ敬意を抱いていることが分かった。

 成程、そこで僕は彼女に感じた冷たさに思い至る。

 知恵を持つ魔獣へ敬意を示す、それ自体は間違ったことではない。というか、まあ常識だ。人間同士でだって日常的にやっている、敵意の無さを伝える方法だから。

 だが、敬意を抱く必要はない。何故なら、人間が敬意を示せば、あちらも敬意を示してくれるのだから。ある意味での互助関係。


「つまるところ、礼節が必要なのだ。本日、君たちにはユニコーンを例に、礼節を学んでもらう」


 ヨーロッパと書かれた看板を指差す彼女。推測するに、実際に国に繋がっているわけではなく、国ごとに空間を作り、そこに各国の魔獣に適した環境を整えているんだろう。

 恋之淵さんを見る。彼女は少しだけ、唇を噛んでいた。それが、どのような感情かまでは、彼女の感情表現の薄い顔からは伺えなかった。


「それと、昨年一昨年と、この授業を受けることを禁じられた生徒は、数人いる。君たちがそうならないように、規則を重視することを望む」


 それを聞きながら、僕は寝宮と遠宮先輩の顔を思い出す。あの二人が生物と温和に接している姿は中々に予想し難い。

 と、同じクラスの久尾さんもいないことを思い出した。普通に欠席だとは思うが。


「まずはガイダンスと行きたいところだが、今年は既に充分に知識を持っている生徒がいるようなので、そちらは見学とする」


 一年生を見渡す彼女。どうやらその、知識を持った生徒を探しているようだった。


「君と君と、それと君たちもいいか。君たちは直ぐに見学に移っていい、聞きたければ残ってもいいがな」


 僕と黒と、もう二人、A組の男女が指名された。


「ラッキーだね大和、どこから行く?」

「お前に任せるよ」


 和気あいあいと話していた男女は、ヨーロッパ方面へ向かっていった。


「……」


 黒は僕を一瞥してから、さっさと日本方面へと進んでいった。

 あの二グループとは別の所と考えると、残るはアメリカ、ロシア、アフリカ、中国。


「やっぱり、ここかな」


 昔から馴染みのある、中国へ向かうことに決めた。

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