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神殺しの後日談  作者: 雑魚宮
第一章 入学
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神殺しの前日譚

征服者の末路はいつも、虚しい。

 世界が、壊れていた。

 目前に広がる世界の殆どが焼けて、焦げて、崩れて、残骸を残すのみ。

 それでも世界がなんとか、秩序を保っていられたのは、俺が、彼女の胸を、剣で刺し貫いていたからだ。


「美月、美月ぃ」


 俺は、泣きながら、何度も彼女の名前を呼んだ。

 泣いたって、世界は何も変わらないのに。救われなんて、しないのに。


「……ありがとね、司。私を、止めて、くれて」


 彼女は口元から血を滴しながら、息も絶え絶えに、言った。言葉を発するのも辛そうな彼女に、俺は何も言えなかった。


「司、私は君に出会えて、本当に―」


 続く言葉はなかった。彼女は生き絶えてしまったから。だけど、俺はずっと、ずっと、その言葉の続きを待つように、美月の亡骸を抱いていた。


 【神格者NO.7】【征服者】

 個体名 紫城美月(しじょうみつき)

 現時点で最も強大な力を持った【神格者】。

 僅か6歳の時点で神格者と同格の異能を身に付けており、実父により彼女を信仰対象とした宗教を立ち上げられる。詳細は別紙に記載。9歳になる頃、冷泉逢馬(れいせん おうま)により保護される。

 【機関】によって五年間、保護及び観察されてきたが、徐々に異能の進化が加速。【征服者】事件が起こる一ヶ月前の、20××年6月には、異能の抑制が困難であることが、冷泉逢馬から報告されていた。防護室に移される。

 同年7月、【征服者】暴走。当時、【機関】内にいた、澪標海以下五名が犠牲となる。

 同日、討伐隊を結成。冷泉逢馬、釈迦堂曼荼羅しゃかどうまんだら、アイントラハト、破虎(ポウフー)、カサンドラ、近衛司(このえつかさ)のナンバー持ちに加え、アーティーン、骸覇王の元ナンバー。無実はしゃぎ、心逆夢(こころざかゆめ)、サンドレアレのナンバー候補。また【集会】、【院】、【教会】、【退魔連合】に協力を要請。

 翌日、複数の死傷者を出しながらも、近衛司の手により討伐。

 

 死傷者 十名

 【管理局】所属 アイントラハト

 同上 破虎

 同上【機関】首領 冷泉逢馬

 【機関】所属 澪標海(みおつくしかい)

 同上 九十九百(つくももも)

 同上 心逆無為(こころざかむい)

 同上 迷路坂憂(めいろざかうい)

 同上 【院】所属 九窓院刃羽(くまどいんはばね)

 【院】所属 十刻院翁火(とときいんおうか)

 【骸】所属 骸公麗(むくろこうれい)



 行方不明者 三名

 【管理局】所属 凪裏明白(なぎうらめいはく)

 【骸】所属 骸王害(むくろおうがい)

 【機関】所属 離塚乖離(はなれづかかいり)


 あれから一週間、美月が死んでから、嫌、美月を殺してから一週間、俺はただ、空っぽの人形のように生きてきた。

 辛うじて、少しの食料と水を食して、それ以外はずっと横になって、ぼろぼろと涙を溢して、うずくまって過ごしていた。

 俺が失ったのは美月だけじゃない。家族同然だった、【機関】の皆も同時に失った。父同然だった、冷泉師匠。優しい叔父のような、海さん。兄のような、百さん。姉のような、無為姉。

 俺にはもう何もない。


 12月、何もせずただ時間ばかりが過ぎていた頃、俺の下にとある客人が訪れた。


「高校、ですか」

「そうだ。十刻の婆様が運営している、異能の修練を目的とした学校だ。異能に目覚めたばかりの学生が主ではあるがね」


 八司院供花(やしいんきょうか)、冷泉師匠の古馴染である彼女には、月二回の精神科の診療を条件に、住居から毎月の生活費まで頂いていた。

 その条件に4月より、その高校への入学が加わったのだが。


「……噂は聞いたことありますよ。【一宮学園高等学校異能科】、とんでもない化け物を飼っていると」


 どこかの研究所で作られた、死の具現者だか何だかがいると、曼荼羅さんが言っていたような気がする。


「さて、そこまでは知らないな。あそこの情報は私にまで届いてこないのでね」


 八司院の党首である供花さんレベルで知らないと言うことは、相当の情報規制が敷かれているんだろう。俺も【管理局】じゃなきゃ、先の情報を知れていなかったろう。


「で、どうする?」

「選択の余地なんかないでしょう?入学しますよ」


 嫌味っぽい言い方になってしまったな、と少しだけ後悔する。だが、まあ実際のところ、供花さんは俺の生存権を握っている人だ。逆らえる訳はない。


「この半年の君は、勿論そうなる理由は分かるけど、本当に酷かったからね。少しでも、生きる希望を持って欲しいんだ」


 ……あの事件で誰かを失ったのは俺だけじゃない。供花さんもまた、師匠と刃羽さんという、幼なじみの二人を失っている。

 幼なじみ、か。俺には、まだ、二人の幼なじみ、親友がいる。しばらく、会ってないな。あいつらは、今、何をしているんだろう。


「私はもう行くよ。僅かではあるけど、目に光が灯ったみたいで安心した」


 光、か。俺が生き永らえているのは、恥ずかしながら、まだこの世界に未練はあるからだ。

 光が灯ったというなら、その未練を解消するために、通ってもいいと思えたからだろうな。

 あの二人と、もう少しだけ生きられれば、それでもう思い残すところはない。


「もし、九朗の奴と絡むことがあったら、よろしく頼むよ」


 自分の世話も出来ない男に何を期待してるんですか、なんて言葉は口にせず、俺は、ただ、こくりと頷いた。

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