二日月
さよなら、君。
日暮れ時の西の空に白い爪のような二日月が浮かんでいた。
つい今しがたまでつないでいた手と手がゆっくりと解けていく。
疲れ果てた二人の行く先はもう重ならない。
「ごめん。」
と一言、言いたかったけれど、その一言が言えなくて
「ふぅ…。」
と、小さなため息が一つ。
俯いた顔を上げて、隣に居た君を見たけれど、君の白い顔は夕闇に紛れて、もう見えないんだ。
「さよなら。」
踵を返して君と反対方向へと歩き出す。
空を見上げると細い二日月がチカリと冷たく僕を見下ろしていた。
夕暮れ時、薄闇の中見上げた空に浮かんだ二日月に想起されて作った小品です。とても短い作品ですが映画のワンシーンのような情景を書いてみました。
少しでも何か感じていただければ幸いです。
ご一読ありがとうございました。
石田 幸