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解体戦士スパイナー  作者: 船上机
第11話 魂の灯火
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11-2

『シミュレーションシステムを再起動します』

 闇の底に沈んだ筈の電脳世界に、無機質な電子音声が突如として響き渡る。世界の再生を告げる、神の号令のように。それが引き金となり、世界の再構築が開始される。

 シャインシティを構成するビル群や道路、街路樹その他のオブジェクトが、振動音と共に再生されていく。だが、空と大地は夜のような暗黒に包まれたままで、各種オブジェクトも白い輪郭線が浮かび上がるのみで表面は全て黒く塗り潰されている。


 再起動の途上、モノクロで構成された街。それでも少しずつ色を取り戻しはじめた世界の中で、独り座り込むスパイナーの精神は依然として闇で覆われていた。


 メテオリオンの意志を継ぎ、シャインシティ市民の笑顔を守る。その想いを胸に、命を賭けてダークフォースと戦い続けてきた。だが、真実は違った。あらゆる戦いは仮想空間の中で、本当に市民を守れたことなど一度もなかった。ヒーローとしての信念、行動。その全ては虚構でしかない。

 いや、それだけならばまだ良かった。本当は自分自身が機械生命体、それも敵組織の幹部であったという事実。嘗ては悪の権化として街を破壊し、今は洗脳されて昔の仲間を破壊する、善悪どちらから見ても最低の殺戮機械。正義の心を植えつけられ、悪の組織の内部争いの道具として体良く使われる。


 端から見て、自分の存在はどれだけ滑稽だったことだろう。存在もしない家族の記憶に闘志を呼び起こされ、自らを正義だと語って仮想世界に君臨し、倒した味方の装備を奪って強化だと言い張る。あの男が嘲笑うのも無理はない。「正義の木偶人形」とはよく言ったものだ。若しくは正義の道化というべきか。いずれにせよ、自分自身をこれほど消し去りたいと思ったことはない。


 自分の信念、行動、記憶。その全てに、もはや意味を見出すことはできない。正義と信じた想いは、閉じた世界の中で空しく消えていくのみ。全てを作り出された操り人形の人生に、語るべき言葉などない。存在そのものが虚無。

 であるならば、この世界と共に消えてしまった方が良いのではないか。この箱庭でどれだけ足掻こうと、外の世界には届かないのだから。今は何故かシステムが再起動しているようだが、こうして悲しい事実に苛まれ続けるくらいなら、さっさと消え去って二度と復活しない方が良かった。とはいえ、外の連中もすぐに異常に気付く筈だ。最早俺のことなど気にするとは思えないが、放置されるとは考えにくい。間もなく空間ごと再度消去されるだろう。そうすれば、完全に虚無と一体化できる。喜びも苦痛も感じない永遠の暗黒に身を置くのだ。その方が、どれほど楽なことか__



「……て、起きて!」

 暗黒に覆われたスパイナーの視界に、一粒の光が舞い落ちる。二粒、三粒。闇を浄化する光の粒子が、上方から雨のように降り注ぐ。スパイナーはゆっくりと視線を上げる。

「起きてよ、お兄ちゃん!」

 そこには、光に包まれたユキエの姿があった。


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