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誰がための光  作者: Nixe(ニクセ)
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プロローグ

新作を始めてしまいました!亀更新ですが、宜しくお願いします。

表紙が出来次第、挿入する予定です(汗

「オレは貴女の忠実な僕なので、貴方が死ねと言えば、いつでも死にますよ」

 

 黒曜石の瞳を細め、薄っすらと笑みさえ浮かべて。

 この男は、また、さも当たり前のようにそんなことを言うのだ。 


 ――私はそんなこと、一度として望んだことなどないというのに。











「リーゼヴェータ様、今日はどちらまで行かれるのです?」

 雛鳥よろしく、今日も今日とて私の背を追ってくるその男の名は、ソギ・アガフォンという。アガフォン家の爵位を授かったのは一年ほど前のことだが。

「今日は東のアビデンス地域の視察だ。だが、其方は留守番だぞ?」

「えっ!? なんでですか!」

「なんでもなにも……昨日、そのように申し伝えてあったであろう」

 他人の話を聞いてなかったのかと呆れると、唇を嘴のように尖らせた。

「リーゼヴェータ様が行く所なら、何処でも付いていくに決まっているでしょう」

 さも当然です! といった顔をしているが、そんな我儘が通るような立場ではもうない。

「其方は副団長だろう。其方がやらずに、誰が団員に指示を出す?」

「え~? それはアバトゥロアン様がいつも通りになさればいいのでは?」

「そのアバトゥロアンが領地に戻っているから、今日は其方に任せたのではないか」

 えぇー!? なんで居ないんですか? などと叫んでいるが、彼が領地に戻ったのは3日も前のことではないか。

「だから、今は副団長は其方しかおらん。ならば、其方が指示を出すしかないな」

 いやだー! オレも行きますー! と叫んでいる愚か者を捨て置いて出発の準備に取り掛かった。


 私ことリーゼヴェータ・カルネ・ブランシュは、現在、王立第2騎士団団長を拝命している。王立騎士団は3部隊構成となっており、第1騎士団は武術に特化した者達で構成され、第2騎士団は魔術に特化した者達で構成されている。第3騎士団は主に王族の身辺警護を主としており、戦闘に出向くことはあまりない。

 若干22歳で団長いう地位に就いたのには、私の家柄もあるが、その魔術属性に寄るところが大きいと思う。私の魔術属性は光で、魔術士の中でも僅か数%しか存在しないと言われている。加えて光属性は他属性に対してほぼ優位に魔術を発動することが出来るという特性も兼ね備えており、いうならば『天下無敵』に近しい存在であった。そのため多くの国家がこの光属性の魔術士を重用していた。

 自分の実力ではなく、持って生まれた才能により王命を授かったというのは些か不満ではあったが、それでもこの力を遺憾なく発揮できるのであれば、それでいいと思っていたのだ。


 そう――あの者に出会う前までは。


 その出会いは、必然であったのか。

 西の領地からの要請があり、隣国からの侵入者を捕縛したその帰り道でのことだった。たいして大きくもない、どちらかというと貧困に喘いでいるような小さな街を通り過ぎようとしていた時のこと、住宅の合間の細い路地から痩身の男が飛び出してきた。衝突を避けるべく慌てて手綱を引いたその時、男の漆黒の瞳が紫紺色に煌めいた。私は防衛本能からか咄嗟に光の壁を作った、はずだったのだが。

「……なっ!?」

 声を上げたのは、私ではなく、私の隣で瞳を大きく見開いていた騎士。それもそのはず、私の頬は痩身の男の手から放たれた魔法が掠めたことにより流血していたからだった。

 私が作り出したのは光の壁。咄嗟に作り上げた壁だったため、確かにそこまでの防御力はなかったかもしれない。しかし光属性で作られたその壁は、上位魔術士でもなければそうそう破壊されることはない。ましてや今、この男の放った魔法は、壁を崩壊させたのではなく、通過したのだ。

「其方……もしや、闇属性か?」

 ギロリとこちらを睨め上げる漆黒の瞳を、私は頬を伝う血を拭うこともなく、ただ静かに眺めていた。

 光の壁を崩壊させることなく通過した魔法。

 行きつく答えは――闇属性の魔法が放たれたということに他ならない。

 場が凍り付いたように静寂に包まれる。まさか、この世界に闇属性の魔術士が存在していたとは。

 私の隣の騎士がゴクリと喉を鳴らしたその刹那、沈黙を打ち破ったのは痩身の男が飛び出してきた路地から更に飛び出してきた男達だった。

「舐めんなよ、ソギ! お前が今まで食えてこれたのは、俺達のお陰だろうが! それを今更足を洗いたいなんてぬかしやがって!」

 斧のような物を振り下ろそうとした大柄な男に、痩身の男が体を捩って右手を翳す。その手から黒い波動が放たれる。黒い靄のようなものが一瞬斧を覆いつくしたが、その靄が霧散した時には、斧刃はザラリと砂のように崩れ落ちた。

「斧の刃が消えている……」

今まで見たこともないその現象に、私達はただただ呆気にとられていた。

「くそっ! おい! そっちの棒を寄こしやがれ!」

 一際大柄な男が隣の男から棒きれを奪い取り、すぐさま痩身の男に殴りかかろうとする。痩身の男は瞳を眇めてよろめいた。恐らく先程の魔法で魔力を使い切ったのだろう。

「リュシュール!」

 私の声と共に右手から光の矢が放たれる。それは大柄な男の右肩を貫いた。

「ぐあぁぁっ!」

 男は右肩を押さえて倒れ込む。その様子を見た仲間達はやっと私達の存在に気付いたようだった。

「あの、鎧は……王立騎士団じゃないか!!」

 純白の鎧を纏った馬上の集団を見上げ、男達の顔色が瞬時に青に染まる。

「くっそぉぉぉ! 覚えてろよ、ソギィィッ!」

 大柄な男が歯を食いしばり立ち上がると、右肩を押さえたまま走り出した。

「あ! おいっ! 待て!!」

 傍の騎士が手綱を操り男達を追おうとしたが、それを片手で制する。

「捨て置け。今は――それよりも重要なことがある」

 この時の私は、まだ一部隊の隊長だったが、その長の命により騎士の動きが止まる。私はゆっくりと馬の背から降り立ち、痩身の男に歩み寄った。

「なんだよ……王立騎士様自らオレを殺そうってのか?」

 ブッと口内に溜まった血を吐き捨てた男が、膝をついたまま私を睨み上げる。正に手負いの獣だなと僅かばかりおかしくなった。更に数歩歩み寄り、男の傍に跪く。目の前の灰色掛かった銀髪が微かに揺れた。

「クラルベール」

 だらりと腕を下げたままの男の左肩に右手を翳す。淡い光が男の肩を包むこむと、男がたじろいだように身を引く。

「動くな、案ずることはない。治癒魔法だ」

 私の言葉に男は黙って自身の左肩を見つめていた。右手から光が消えるのを確認して、男に声を掛ける。

「どうだ? 動かしてみろ」

 私の言葉に男が左肩をグルグルと回し、瞬時に暗黒色の瞳を煌めかせる。

「なんだこれ! 治ってる!」

 治癒魔法を初めて受けたのだろう。その瞳には明らかに歓喜の色が浮かんでいた。

「他に痛むところはあるか?」

 尋ねれば、男は薄っすらと苦い笑みを浮かべる。

「あー……恐らく全身。今回は結構やられたからなぁ」

 ふうっと息を吐いて男はそのままペタリと地面に座り込む。確かに見えている顔・首筋・手も傷だらけだった。

「助かったよ。騎士様達が現れなかったら、殺されてたかも」

 ヘラっと笑ったその顔に、眉を寄せる。この街では、こんな命のやり取りが日常茶飯事なのだろう。青黒く腫れあがった男の左頬に手を寄せた。

「あ! おい、よせよ! 騎士様の手が汚れるだろう!」

 傷だらけの左手がやんわりと私の動きを制する。

「オレにそんな、貴重な魔法を使う必要なんかない」

 『勿体ないから要らない』と繰り返す男の頬に、私は右手をグイっと押し付けた。

「痛って!!」

 そのまま『クラルベール』と小さく囁くと、淡い光が男の頬を包む。男は今度は観念したのか、されるままに大人しくしていた。


「命は等しく同じだ。違うか?」


 そう言い放った私を、黒曜石の瞳がただ黙って見詰めていた。


 男の体は自身が宣言した通り酷い有様だった。それを確認すると、私はこの場で全てを治療することを諦め、馬上へと乗り上げた。

「其方……ソギといったか?」

 マントを翻し軽々と白馬に跨った私を、痩身の男は口を開いて見上げていた。若干の間抜け顔だ。

「え? あぁ、そうです。ソギっていいます」

 『助けて貰って、有難う御座いました』と下げられた頭に、馬上から左手を伸ばす。

「共に来い、ソギ」

 私の言葉に、さらにポカンと口を開いて固まっている。

「え? あ、なんで、オレが?」

「この街に、何か未練はあるか?」

 殺されかけるような状況だ、決して良いと呼べるような環境ではないとすぐに察しはついたが。けれどそれでもこの地で生きるかどうかは、彼の判断に任せたかったから。

 しかし、私のその問いに、ソギはすぐに力強い暗黒色の視線を向けてくる。

「……一欠片もないです」

 あまりにも潔いその答えに、私は喉の奥をクッと鳴らした。

「ならば、共に来い。其方には教えなければならないことが山ほどある」

 差し出された傷だらけの右手を強く引く。痩身の男は、軽々と私の背後に乗り上げた。


 そうしてソギは――私の腹心の部下となったのだった。

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