資金と食料
10分程歩いた所で、遠くを見ると小さな建物の塊がうっすらと見える。
おそらくあそこがアライパ村だろう、しかしまさかここまでリアルに再現されているとは思わなかった。
「矢藤ほら明かり見えたぞ頑張れ。」
「足が......痛い...。」
矢藤...彼は暴飲暴食の果てに屈強な肉体を手に入れた。
その代償が目に見える形として今現れている。
ちなみに矢藤以外の5人の体型は、山塚がマッチョ、俺が細マッチョ、あとの3人は痩せている。
「町に行くのはいいけど、俺達金持ってないよな?」
「確かに、モンスター倒すか?」
モンスターって言ってもなー、確かに動物の鳴き声はするけどモンスターって言う程の奴はいなかったし...。
「さっきいたウサギとかどうかな。」
「あの白いやつ?」
「手ぶらで町に行っても何もできないし。」
とりあえず俺達はその辺にいるウサギ達を片っ端から狩る事にした。
そして数分後...。
「待てウサギゴルァ!?」
山塚が変身した状態でウサギの群れを追い回している、こんなヒーローは嫌だ。
「もはやイノシシだな。」
「脳まで筋肉でできてんじゃね。」
「脳筋ヒーローだな。」
「ガン攻め戦士ゴリラ騎士!ってか?」
「ああ、うん。」
山塚は運動神経だけは良い、適当に追い回してるように見えてしっかりと逃げ道を塞ぎながら的確にウサギを攻撃する。
「ふう...とりあえず1匹。」
ちなみにウサギは1羽と数える、山塚の数え方は間違いだ......めんどくさい生き物だ。
「山塚、少し離れてろ!」
涼介が右手に銃を構える、片手銃は狙いにくい為この距離でも動く獲物を相手に当てるのは至難の技だ。
涼介が引き金を引くと1発目はウサギから30cm程離れた位置に弾が飛ぶ。
「あれ、涼介がミスるなんて珍しいな。」
「やっぱリアルは違うって事か。」
「リアルじゃないぞ。」
そんな事を言ってると、涼介が軽く息を吐き2発目3発目と的確にウサギを撃ちぬいていく。
「流石だな。」
「まあ俺は知ってた。」
「本当かよマッキー。」
「エイムアシストとかロックオンとか見てたんだろ?」
涼介は1発目の射撃でわざとウサギの右を狙ってこのゲームのシステムを確認した、エイムアシストとは敵に対して銃の照準が少し移動する物で、ある程度狙った範囲内に敵がいればオートで照準を合わせてくれるシステムだ。
ロックオンとは狙った敵を自動的にオートで照準してくれる物で、エイムアシストの上位のような物だ。
「流石わかってんな...この武器にエイムアシストは存在しない、つまりこうやって的確に狙う必要があるって事だ。」
涼介が続け様に4発目、5発目を命中させていく。
そして6発目を命中させた所で涼介が構えを解く。
「やるねー、そのまま全部やっちゃえば?」
「弾切れだ...。」
「まさかの6発かよ、そこまでリアルとはなー。」
「例のビームライフルは?」
「ああ...てかお前らも戦えよ。」
そう言われるとがっちくんがウサギの方へ歩いていく。
「お、がっちくん行け。」
「...あのさ?」
「うん?」
「医者ってどう戦うんだ?」
「......。」
そうだよな、まあメス投げたり注射したり?
「ちゃんとチュートリアル受けたか?」
「いやー薬作ったり仲間の治療したり...あれ戦闘...。」
「お、おう...とりあえず武器出したら?」
「そーだな...。」
がっちくんが右手にメスを左手に注射を用意する。
「あーなるほど、これ強化薬だ。」
「ほう。」
「寛人、ちょっといいか?」
「ん?」
(ぷすっ)
「あああああ!?」
唐突にがっちくんが寛人の尻に注射を刺す。
「おいテメェがっち、ふざけるなー!!」
「みなぎってきた?」
「せめて腕にしろやボケがあ!」
あ、あの地味な寛人が興奮している...。
「しゃーねー、ウサギぶっ殺す!」
寛人が短刀を抜くとウサギの群れにダッシュする、そのスピードはゴリラ騎士よりも軽快でウサギ達も驚いて一斉に散る。
「はやっ、てかあいつ性格変わってないか?」
「強化薬ってより興奮剤だな...マッキーも刺すか?」
「いや、やめとく。」
寛人は軽快なステップでリズムよく時にフェイントを混ぜながらウサギを倒していく。
「あの動きってさ。」
「ダンビーだよな。」
ダンビーとは、ダンシングビートという音楽ゲームで足を使ってパネルを踏む俺達が10代の頃に流行ったゲームだ。
寛人は音ゲーなら何でもこなす器用な奴で、ダンシングビートで鍛えたステップは伊達じゃないな。
「ところでマッキーと矢藤は戦わないのか?」
「確かに実践は大事だよな...でも矢藤の奴バテバテだぜ?」
「まあ、しゃーないなあいつは。」
まあでも、俺も発動できる魔法を確認しときたいな。
「寛人、避けろよー...ファイヤー!」
「あっ?...っておいあぶねーだろ!」
寛人は危ないと言いながら余裕で俺の魔法を回避した...。
やっぱりスキル名がショボいと技もショボいんだなこれ。
「へー、龍王って魔法使えんのか。」
「何か魔法以外も割と何でもできるっぽい。」
「なんかお前らしいな。」
悪く言えば器用貧乏なんだけどね。
「寛人、次は避けるの大変だぞ。」
「おい!」
「拡散する火炎弾!」
10発程の火の玉がウサギ達と寛人に襲いかかる。
なるほど、イメージではもっと大量に発射する予定だったが10発しか出なかった。
レベルが上がれば同じスキルでも威力が変わりそうだ。
「マッキーふざけんな!?」
寛人は俺の攻撃を寸前の所で避け、最後の1発を短刀で弾く。
「お前なら避けれると思ってさ。」
「死ぬわボケぇ!?」
とかいいつつ、最後の1発でリズム決めちゃってる辺り楽しんでんなあいつも。
さて、そんなこんなでウサギを20羽程仕留めたが。
当然アイテム化はされないわけで死体が転がっている。
「これどうすんだ?」
「とりあえず運ぶしかないな...。」
ウサギ肉は食用に用いられる事もある。
確かに腹も減ってきたな...。
「動いたらお腹空いたンゴ。」
「お前は何もしてねーだろ。」
矢藤はその場に座り込んで動こうとはしなかった。
それを見た山塚が周りを見渡して指を指す。
「あの木でウサギ焼くか。」
「マジ?」
「頼んだマッキー!」
「せめて薪にしてからだろ。」
「マッキーだけに?」
「うるせー!」
「てかウサギって美味いのか?」
まあ1度だけ食った事はあるけど、あの時は調理された物だったからな...。
焼肉をタレなしで食うようなものか。
「マッキー、火頼む。」
涼介と寛人が薪を運んで来ると、山塚がブロックのように交互に薪を積み上げる。
そしてその中に細かく切られた木材を入れた後その上にウサギを1匹乗せる。
そして俺が魔法で火を放つ、俺らは円になって焼き上がりを待つ。
「懐かしいなバーベキュー。」
「5年ぶりくらいか?」
「まあウサギ焼いてるだけなんだけどな。」
「てかウサギって売れるのか?」
「さあ?」
RPGゲームなら売店で買い取ってくれるんだろうな。
問題は俺達6人が一夜を越せる金額に達するのにいくら必要なのかだ。
この世界の通貨についてまず把握する必要がありそうだ。