ゲームの世界
ここは......どこだ...。
意識はハッキリとしているのに目を開く事ができない、それに先程からまるで重力を感じない...まるで宙に浮いているみたいだ...。
「気がつきましたね...。」
女の子の声?
「私はこの世界を守る七神の1人、モニカです...貴方を歓迎します。」
変な夢でも見ているのだろうか、ゲームのやり過ぎで頭でもおかしくなったか?
「夢ではありません、ほら...私は貴方の目の前にちゃんといますよ。」
俺の頬に暖かい感触がゆっくりと広がる、どうやらその柔らかい手が俺の顔を包み込んでいるようだ。
「時期に目が開き声を発する事もできるようになるでしょう、私は貴方の脳に直接話しかけているのです。」
なるほど...それで歓迎するってどういう事です?
「貴方を含めた6人はこの世界へ入る条件を満たした為、今こうして私の前に現れたのです。」
6人?......つまり他の奴らもあの光に飲み込まれたのか?
「はい、他の5人も同様にこの世界について説明を受けています。」
他にも神がいるのか......いきなりすぎて全く理解できないんだけど。
「簡単に説明をすると、あなた方6人にはこの世界を救って頂きたいのです。」
あっ...RPGゲームみたいな感じ?
「はい、その解釈で間違いありません。」
てことは、凄い能力とか使えるような感じ?
「はい...とその前に、そろそろ目を開けても大丈夫なはずです。」
そう言われると、俺はゆっくりと目を開いた。
真っ白な何も存在しない空間で、俺の目の前にはピンク色の髪に羽衣を纏った天女のような美少女が浮いていた。
「えっと...モニカさん?」
「はい?」
その服装は過激すぎるのでは?
モニカと名乗った神は、羽衣で大事な部分は隠れてはいるがほぼ全裸であった。
「あらそうですか?...ならこれならどうです?」
そう言うと彼女の身体に瞬時に薄い純白のドレスが纏われる、ちょっと残念な気もするがまともに話ができそうにないので仕方ない。
「それで俺はこれから何をしたらいいのかな?」
「そうですね...まずは貴方のお名前を教えてください。」
「眞木大輔。」
「では何とお呼びしましょう?...眞木さん?...大輔君?」
うーん...君付けされるのも何か嫌だしなあ。
「大輔でいいよ、呼び捨てで。」
「はい、その方が私も助かります...では大輔、まずは私の神殿にご案内するので私の身体に捕まってください。」
えっと...どこに捕まれば...。
俺が少し戸惑っているのを感じたのか、彼女が首を傾げてこちらへ一歩近寄る。
「この姿では抵抗がありますか?」
「いや、大丈夫...失礼。」
俺はモニカの背後からゆっくりと手を首の前に回す。
神と言ってもその感触は人と同じで、まるで女の子を抱きしめているかのようだった。
「では移動しますね。」
そして一瞬光ったかと思うと目の前には......。
「えっ?......なんだ...これ。」
まるでお城のような、巨大な神殿が現れた。
何本もの柱が立っており、足元を見ると赤い魔法陣のような物の上に乗っている。
「ここが私の神殿、通称"紅の神殿"。」
「紅の神殿...。」
神殿の柱に様々な文字が書かれていて、その全てが赤い光を放っている。
「さて、まずは神殿の中へ行きましょう。」
彼女が俺の手を握ると、可愛らしい笑顔で俺を神殿内にエスコートする。
神殿内は一本道となっていて、少し歩いた先に円状の広がった場所が現れ彼女はそこに立ち止まる。
「そうですね、立ち話もなんですし...。」
そう言うと彼女が右手の指を鳴らし、目の前に椅子とテーブルが現れる。
そのテーブルの上には可愛らしい花の模様が付いたコーヒーカップが置かれている。
凄いな......完全に超能力だ。
「一緒にお茶でもしながら、ゆっくりとお話ししましょう。」
「はい。」
俺が椅子に座ると、彼女は俺の反対側に座る。
その仕草や座り方を見ても、彼女がとても高貴な存在だと伝わってくる。
「最初にこの世界について簡単に説明します、ここは1人の人間が作ったゲームの世界..."フリーダムクエスト"の中です。」
「フリーダムクエスト?」
「このゲームの開発者である鷹見淳平はこう考えました、職業に囚われずプレイヤーの個性によって無限の可能性を生み出すゲームを作りたいと......。」
なるほど、確かにそれができたらただの神ゲーだ。
「そして鷹見はついにそのゲームを完成させました、しかしそのゲームには重大な問題があったのです...彼が作ったそのゲームは1度プレイするとクリアするまで終わる事のできない"セーブ不可の超大作"でした。」
「なるほど...。」
セーブができないという事はどれだけ物語を進行させても、1度中断したら最初からプレイしなければならない。
「彼の才能は人類の英知を遥かに凌駕し、最終的にはゲーム内で直接プレイヤーがゲームを楽しめるシステム。
BDシステム...バーチャルダイブシステムの開発に成功しました......。しかし先程伝えた通りこのゲームはセーブ不可の超大作、つまり1度プレイが始まってしまうとプレイヤーはゲームをクリアするまで現実世界に戻る事ができなくなってしまいます。」
つまり...。
「ここがその"フリーダムクエスト"の世界なら、俺達がゲームをクリアできなかった場合は永遠にこのゲーム世界で生きる事になると。」
「はい...。」
「なるほど...うん、問題ない。」
まったく問題ない、むしろあんな現実世界に帰るくらいならこの世界の方が楽しめそうだ。
「しかし、何で俺達がこの世界に?...俺達がやっていたのはSD4というゲームだったはずなんだけど。」
「鷹見はこのゲームの重大な問題に絶望して発売は断念したものの、この素晴らしいゲームを誰かにプレイして欲しいという欲求を消す事ができませんでした...その為、彼はこのゲームをプレイしても後悔しないであろう人間にのみ、この世界に繋がるゲートが発生する様プログラムを組みました。」
確かに俺はゲームの世界で生きる事になっても後悔はしない、むしろ大歓迎なぐらいだ。
「つまり、その条件を俺達が満たしたと。」
「はい。」
「ただみんなでいつも通りゲームしてただけだと思うんだけどなー。」
6人でSD4をやったのは勿論今日が初めてではない、なら他に条件があったという事か。
「ゲートの解放条件、気になりますか?」
「勿論。」
「鷹見は開発に関わったゲーム全てに特殊なプログラムを導入しました、そのプログラムが入ったゲームで4人以上が1秒以内に同じ行動を取るとゲーム画面がフリーズします...この段階でパーティを組んだ全員が、現実逃避したいというニュアンスの発言を行うとコンピュータが自動でゲートを開通させます。」
......あぁ、確かに俺ら言ってたな。
言ってたわ...。
「つまり現実世界から離れたい意志があり、尚且つゲームが好きな奴らが集まった時にしかゲートは開けないと。」
「はい。」
しかし、俺は良くても他の5人は現実世界に帰れないのはマズいんじゃないかな...。
がっちは嫁さんもいるし、なんなら山塚、寛人に至っては子供までいる。
まあ涼介と矢藤は...大丈夫か。
「あの、大丈夫...ですか?」
モニカが心配そうな表情でこちらを見ている。
「ん?...ああ大丈夫。」
「では説明を続けますね。」
あれこれ考えるのはやめにしよう、もう引き返す事はできない。
俺はこのゲームをプレイする、他の5人が何を考えていてもそれは変わらないのだから。