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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~式神契約~


 源綴宮の急な坂道を上りきり、保昌の黒いスポーツセダンが駐車場に停まり、中から5人の人影がわらわらと出て来る。

「うわ~、エキゾチック。あの赤いゲートが『トリイ』というやつね?」

 アリアンナが目を輝かせて、駐車場向こうに見える朱の鳥居を眺めた。

「それじゃ、僕は崇弘に報告して来るから。頼くん、香澄ちゃん。今日はおつかれさま。帰ってゆっくりしてくれ。」

 頼光は軽く手を挙げて保昌を呼び止めた。

「あ、僕も着替えてから談話室に向かいます。鴨川童子が言ってた事も相談したいし。」

「そうか、分かったよ。じゃあ、先に行ってるから。」

 保昌とササメはノートパソコンを提げて朱の鳥居へと向かった。


「失礼します。頼光です。」

 襖越しに声が掛かり、談話室の中の崇弘が答える。

「ああ。入ってくれ。」

 正座した頼光がすっと襖を開け、その後ろに香澄、アリアンナがぎこちない座り方で頼光に続いた。

 頼光に倣って膝を折って入室したアリアンナの翼の先が談話室の床を擦って行く。

 鏃型のしっぽが緊張した仔犬のように、お腹の方へと巻いている。

 崇弘は仕事の相棒であり、彼の式神でもある『(つゆ)』を傍らに伴って、保昌のノートパソコンを眺めていた。

 崇弘が香澄の後に続く見慣れぬ少女に目を止める。

「おや、お客さんも居るのかい? 香澄ちゃんおつかれさま。それと後ろの娘は・・・妖族の子かい?」

「はい。アリアンナと言います。お見知りおきを・・・ え? ディアファニス・ニーマ? 」

 崇弘の隣に座っているプラチナブロンドの(つゆ)を見てアリアンナが目を丸くした。

「うん? 露、知り合いかい?」

崇弘が露を覗き込む。

「えっと・・・ごめんなさい。思い出せないわ。でも、私の本名を知ってるって?」

「露さん、ホントはそんな名前なんですか。」

 頼光が長テーブルの端につき、香澄はアリアンナに取られる前に、急いで頼光の隣に座る。

 ちょっと出遅れたアリアンナがチラリと香澄を見た。

「17年前の戦のあたりまで、ウエリエル様の配下の軍で『惨殺(ジェノサイド)毒蜘蛛(スパイダー)』と恐れられていたエース級の殺戮者ですよね? 敵対勢力の前哨基地を一人で壊滅させて、その敵兵を貪り食ったとの武勇伝はうかがってます。お会い出来て光栄ですっ。」

 にこにこしながらアリアンナが香澄の隣に座った。

『こわっ。露さん(こわ)っ!』

「それ、誇張しすぎのヤツっ。ウワサ話なヤツだからっ。崇弘まで引かないでっ!」

 仰け反って露を見るみんなに、露は頬を上気させて立ち上がった。

「え?・・・でもそのウワサを知ってるってことは、あなた西洋妖魔?」

 露はセミロングのプラチナブロンドを揺らせて振り向く。

「はい、種族はサキュバスです。まだ実績も何もありませんけど。」

 アリアンナは恥ずかしそうに微笑んだ。

「頼くん、すごい知り合いが出来たね。淫魔か・・・」

「ちょっと。その言い方、偏見っ。」

 アリアンナが少しむくれて、腕組している崇弘を指差した。

「確かに、リリム様とかアブラヘル様なんかは、生命エネルギーの『オド』を抜き取るのにSEXを好んで使ってますよ。でも、そういうお姉さま方の行為がピックアップされて広まってるだけであって、サキュバス自体は『夢魔』なんですからっ。そんな目で見ないでくださいねっ。」

 熱弁を振るったアリアンナは、ふうと一息ついて浮かしていた腰を落とした。

「頼くん。君が来るまでにあらかたの説明はしたよ。また危険なコトに巻き込んだ事は怒られたがね。」

「当たり前だ。いくら『白鳳』の能力があっても、まだ発現して半年も経ってないんだ。まだ頼くん自身が自分の『力』を把握しきれていない。そんな状態で無茶させないでくれ。」

 崇弘は不機嫌そうに言い放ち、保昌はごまかす様に手元のお茶をすすった。

 会話が途切れた頃を見計らって頼光が声を掛ける。

「あの、崇弘さんに聞きたいんですが、崇弘さんは母さんの『天狗』の姿は見たことありますか?」

紅葉(くれは)さんの? ああ、漆黒の翼に長い黒髪でキレイな姿だったよ。人の姿の時も、和の美人って形容詞がぴったりな美しい人だった。」

 崇弘は懐かしそうに微笑み、隣の露がぴくりと眉を上げた。

「あら、崇弘は和風美人がお好みだったかしら? ごめんなさいね。かけ離れたタイプで。」

 崇弘の隣でぷいと露がそっぽを向いた。

「母さんに僕の変化した時のような『角』はありました?」

「いや、僕は見たことがないな。それがどうかしたかい?」

「鴨川童子が僕の角を『鬼の角』と言っていました。何かご存じですか?」

 真剣に頼光は崇弘を見つめる。

 その横顔を香澄とアリアンナが注視する。

「う~ん。関係があるかは判らないが・・・昔、僕ら兄弟が伊勢の退魔団で義晃さんと行動していた時、対立するグループから義晃さんが『鬼子』と呼ばれていた。」

「父さんが、『鬼子』?」

「本人が嫌そうにしていたので、僕らは深くは聞かなかった。ただ、義晃さんのケタ外れの術の破壊力は修行だけでは身につくモノじゃないと思う。」

 表情を曇らせたまま崇弘は呟いた。

「月曜日の夕刻に義晃さんが伊勢から帰って来る予定だ。そのことについては直接聞いた方が良いんじゃないかな。」

「そうですね。分かりました・・・」

 頼光は机の上に視線を落として静かになった。

「あ、あの。ディアファニス・ニーマ。」

 アリアンナが沈んだ雰囲気を変えようと明るめに声を掛けた。

「なあに?」

「ウエリエル様の傘下を離れたあなたが、どうして極東の術者に仕えているの?」

 露はにっこりと微笑んで、ちらりと隣の崇弘を見た。

「あの時の戦で直属のマスターがエクソシストの一団に倒されてね。で、連中はそのまま配下の者を一掃しようとしたの。その時に崇弘が私を『式神』として自分の傘下に組み込んでくれたのよ。おかげで同士討ちの暴走状態から抜け出せたし、彼とこうして一緒にいられるの。」

 露はそう言うと、ぺとっと崇弘の肩にもたれ掛かった。

「あの、質問なんですけど。私、マスターが討たれてフリーなんです。そういう契約ってすぐに結べるものなんですか?」

 アリアンナがうきうきした感じで身を乗り出した。

「え? あなた、崇弘と契約したいの?」

 露は驚いた表情を浮かべる。

「いやだなぁ、違いますよ。」

 アリアンナはすっと立ち上がって頼光の後ろに立った。

「天使さまの『式神』になりたいんですっ。」

 彼女はむきゅっと頼光に抱き付いた。

「こっ、こらーっ。何抱き付いてんのよっ、離れなさいっ。」

 香澄が二人の間に割り込んで引き剥がす。

「あん。何よ、減るもんじゃ無し。」

 アリアンナが不機嫌そうに香澄を睨む。

「に、日本では人前で、あんまりそういう事はしないものなのっ。」

「ふ~ん。そういうシキタリなら仕方ないか。で、どうなんです?」

 アリアンナはキラキラした目で露と崇弘を見つめる。

「ん~、お互いが了承しているんなら『契約』はすぐにでも結べるよ。その娘はノリノリみたいだけど、頼くんはどうなんだい?」

 崇弘はテーブルの上で両手を組む。

「そうですね。彼女を宿無しにしたのは僕ですから責任もありますし。僕は構いませんよ。」

「え、ちょっとライコウ。ホントにいいの?」

 香澄が驚きの表情で見つめる。

「ほぉらっ。天使さまが良いって言ってんの。香澄ちゃんは口を挟まないっ。」

「だから、抱き付くなってーの! ライコウもそこのトコははっきり言いなさいっ。」

 三人の攻防を、他のみんなが生暖かく見守ることしばらく。

 ようやく落ち着いた三人がテーブルの前に座った。

「お互いが認め合っているなら簡単な儀式で済むよ。」

 そう言って崇弘は桐の平箱を持ち出して蓋を開けた。

 シルクの布の上に、吉祥結びに結われた真っ白の絹の紐が乗っている。

 その吉祥紋からは緋と白の二色の紐が伸びている。

「この紐の両端をお互いが握って宣言し合う。この時、式神を召し抱える側は式神に『名前』をつけ、『式神』はその名前を受け入れることを宣言する。『名前』という言霊を介しての契約となる。良いかい?」

 崇弘が宣言の文言を伝え、頼光とアリアンナは真剣に頷く。

「名前か・・・リクエストとかあるかい?」

 頼光はアリアンナに顔を向ける。

「天使さまが名付けてくれるなら何でも。あ、欲を言えば、せっかくなんで日本の女の子の名前が良いです。」

「『天使さま』ね。頼くん、気に入られてるね。」

 崇弘がニヤリと笑って隣の露を見た。

「私と出会った時を思い出した?」

 露が微笑む。

「じゃあ・・・『明日香(あすか)』は?」

「あ、かわいい。それにします。」

 アリアンナは嬉しそうに笑って、いそいそと緋紐を手に取った。

 頼光が白紐を握って、長歌を詠唱する。

「ぬばたまのひかり えにしをつなぎて あらたまのつきひ とこよへいざなふ ・・・ひふみよいむなやここのたり もも ち よろず・・・」

 ふうと大きく息をつき、軽く目を(つむ)った頼光はゆっくりと言葉を発した。

「私、皆本頼光は、このアリアンナを『明日香』の名のもとに式神となす。」

「私、アリアンナは『明日香』の名を受け、皆本頼光に仕える。」

 詠唱が終わると吉祥紋が光を放ち、紅白の紐が熱を帯びる。

「ふわっ。」

 アリアンナがビクッとなって体を縮こまらせる。

 体が小刻みに震えて、頬が赤く染まり、息が荒くなった。

 1~2分後、光が消え、紐の熱量も元に落ち着いた。

 ぺたりと腰を落としたアリアンナのコウモリの翼が、だらりと力が抜けて広がった。

 鏃型のしっぽもだらりと畳みの上に伸びている。

「大丈夫かい? アリアンナ・・・明日香?」

「ふ、ふぁい・・・だ、だいじょおぶ、ですぅ。」

 はぁはぁと肩で息をしながら、焦点の定まらない潤んだ目で頼光を見つめた。

 露がいそいそとやって来て、アリアンナの耳元に囁いた。

「どう? 契約の時、相手の『オド』が流れ込んで来たでしょ?」

「は、はい・・・何だか天使さまが体の中に入って来たみたい・・・すごい気持ちいぃ・・・あぁ・・・こんなの初めてぇ・・・」

 少しぼうっとしているアリアンナはうわ言のように露に囁き返し、赤い顔のまま自身の両肩を抱えて身震いした。

「ホントに大丈夫? 何かエネルギー的な物が合わなかったんじゃないか?」

「ううん。大丈夫よ頼光くん。初体験ですもの、いろいろと慣れないのよ。」

 露は、うふふっと口元を手で隠した。

「露さん、言い方いやらしいですよ。」


「さて、『式神』は神聖結界で括られた、僕らの居住空間の『平行空間』を利用できる。こちらの世界の風景がそのまま投影されている。時間軸にして0.5秒の差しかないから、その気になれば空間を越えての会話も可能だ。それと、頼くん。」

 アリアンナに説明中の崇弘が頼光の方を向く。

「式神には君の生体エネルギーの一部が供給される。いわば『給金』みたいなものだ。これが原因で疲れたなんて言わないように、今以上に体調管理はしっかりしてくれよ。」

「了解です。」

「え? これからずっとこんな感じが・・・きゃっ♪」

 アリアンナは頬に手をやって、にじにじと体としっぽを揺らして喜んでいる。

「わ。わたしっ、天使さまのために一生懸命お仕えしますっ。何なりとお申し付けくださいっ!」

 アリアンナは三つ指を突くように深々と頭を下げて、畳に額と角先を押し当てた。

 香澄は複雑そうな表情を浮かべてその光景を眺めていた。

(あ~。これって、またライバル出現ってヤツなのかなぁ・・・)



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