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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
33/49

~美幸と頼光~


 五時限目の1組・2組合同の音楽の授業が終わった。

 掃除当番と部活に向かう生徒はわらわらと音楽室を出て行った。

「皆本、結構盛り上がったな。おつかれっ。」

 教壇横で絨毯敷きの床に、あぐらをかいて三味線をバラしている頼光に音楽教諭の(そらし)()レミが声をかける。

 長い髪をお団子に纏めた彼女は、にかっと屈託のない笑顔を向けた。

「レミ先生の授業は面白いですよね。『津軽じょんがら節』の後、みんなのリクエストで『千本桜』へ突入するのもOKだし。」

「うん? ありがと。音楽ってのは、やっぱり楽しくなくちゃね。でもおだてても入部届ぐらいしか出せないよ?」

「空手部顧問みたいな事言わないでください。でも、中学の時に比べて、音楽たのしいっていってるヤツが増えてるのは本当ですよ。」

 頼光は三味線の上棹(かみさお)にくるくると弦を巻きながら傍らのレミを見上げた。

「それは有難いね。それにこのクラスは音楽出来る人材がそろってるし。やってて面白いよ。」

 音楽室の後ろの扉が開いて、軽音部の健明や杏子、祐輔に混じって美幸も掃除道具を持って入って来た。

「レミ先生、掃除機借りて来たから、後ろからかけて行くよ。」

「ああ、ありがと杉浦。それと『千本桜』ピアノ伴奏おつかれさん。おかげで盛り上がったよ。」

「どーいたしまして。」

 健明は笑顔で手をかざして答えると、掃除機のコードを引っ張り出した。

「皆本くん。何か手伝おうか?」

 傍に美幸が来て頼光の手もとを覗き込んだ。

「わざわざ残ってくれたの? ありがと。じゃあ、悪いけどそこにある紺色の三味線収納箱持ってきて、中に入ってる『継手』のカバーを、バラした(さお)にはめ込んでもらえる?」

「うん、分かった。」

 美幸は収納箱を抱えると頼光の隣に正座した。

「この組木みたいなので良いのかな?」

「うん。微妙に広さが違うから、合うのをはめ込んでね。」

 頼光は弦を丸く糸巻き辺りに掛け終わると、美幸の前にそっと置いて三味線の胴皮を布で丁寧に拭き始めた。

 美幸はカバーをはめ込みながら、ちらりと頼光の顔をうかがう。

(真剣な顔・・・)

「うん? どうしたの、美幸ちゃん。」

 視線に気づいた頼光が美幸の方に顔を向けた。

「あ、いや、その・・・皆本くんて、三味線上手いんだね。感心しちゃった。」

「ありがと。この前、お茶した時の約束が果たせて、僕も嬉しいよ。」

 照れて取り繕う美幸に、頼光が笑顔で返す。

「うん。その後、杉浦くんとのセッションも良かったよ。みんなノリノリだったし。」

 美幸は楽しそうに微笑む。

「途中からカラオケ会場みたいになったよね、なんか一体感って感じ。」

 胴皮を拭き終わった頼光は収納箱を開いた。

「じゃ、その糸巻きが付いてる上棹からこの窪みに入れてくれる?」

「はい、ここで良いのね?」

 二人が仲良く三味線パーツを片付けている様子を、レミは今日の授業のレポートをまとめながら生暖かく見つめた。

「はぁ~。青春ね~。」



 鴻池駅のバスステーション8番乗り場に停まったバスから、頼光に続いて美幸が降りて来た。

 数名の男子生徒の嫉妬の目を受けながら、二人は並んで噴水広場までやって来た。

「あ、あのね。電車が来るまでちょっと時間があるんだけど、お、お話しとかして良い? 皆本くんの空手道場までの時間押さないかな?」

 美幸は少しもじもじして頼光を見る。

「えっと。ここからホームへ移動する時間を含めると15分・・・10分ぐらいなんだけど?」

「うん、大丈夫だよ。じゃ、そこ座ってて。飲み物買って来る。」

「あ、気を遣わなくても・・・」

「僕が喉乾いたから。美幸ちゃん、何が良い?」

「え、と。じゃ、ミルクティーで。」

「了解。」

 戻って来た頼光と長ベンチに並んで座る。

(皆本くんちょっと近いんじゃ・・・私は嬉しいけど・・・)

 二人はそれぞれミルクティーの缶を開けて口にする。

 初夏にしては日差しが強いが、噴水を吹き抜けて行く風が涼しく心地よい。

「なんか、もう夏な感じよね。あっちの空に入道雲っぽいのが立ってるし。」

「そうだね。あ、夏と言えば、美幸ちゃんは海派? 山派?」

「う~ん、特にそんなにアウトドア派じゃないからこだわりは無いの。みんなが居て、それで楽しかったらどっちでも。皆本くんは?」

「僕は海かな。ウチの神社の林をいつも見てるから、山は特別感が湧かなくって。」

 頼光は苦笑して缶紅茶をすすった。

「あはは、そうなんだ。・・・ちなみに今年は誰と海に行く予定なのかな?」

 美幸は上目遣いで頼光を探る。

「特に予定は立てて無いな・・・イベント担当の健明次第ってところかな? それより来月末の文化祭の事考えなくちゃ。」

 頼光は肩をすくめた。

「ああ、そうだ。ウチも意見がまとまって無いんだ。喫茶店出そうかとか、劇をしようか映画を撮ろうとか、いろいろ。」

「劇なら早めに決めておかないと、セリフとか衣装とか大変じゃない?」

「そうなのよ。」

 美幸は大きく頷いて紅茶に口を付ける。

「美幸ちゃんは何がやりたいの?」

「う~ん。情けない話だけど、こう、ピンとくるものが無いの。皆本くんの2組はどうなの?」

「ウチは1組とは逆で、みんな士気が低いんだ。部活がらみで文化祭当日はクラスの方に参加できないって輩が多くて。委員長もいいかげん(さじ)投げて月曜日までに一人一案以上考えて来るようにってさ。」

 頼光はわしわしと頭を掻いた。

「それも大変ね。ウチは帰宅部と体育部が多いから人員的には問題ないのよ。いっそ合同で出来たら良いのにね。」

 美幸はにっこりと微笑んだ。

「それだっ!」

「きゃっ? び、びっくりした。」

「そうか、少人数で出来る何かを考えるんじゃなくて、チームを組むのもアリだよな。その案、先生にも相談してみる。ありがと。美幸ちゃん。」

 頼光はがっしりと美幸の手を包み込んで満面の笑みを浮かべた。

「え、あの・・・ど、どういたし、まして・・・」

(うわ、皆本くん、手・・・)

 赤くなった美幸は、目をしぱしぱさせて斜め下に視線を泳がせた。

「美幸ちゃんが僕の隣に居てくれて良かった。」

「ほぇっ?」

 さらに赤くなる美幸を尻目に、頼光は満足そうに紅茶をすする。

(ク、クラスのこと、よね?) 

「あ、そうだ・・・あのね。皆本くんに聞きたいことがあったんだ。」

「ん? なに?」

「あ、あの、紗彩ちゃんと一緒に雪月花で話してて、中途半端に話が終わってたんだけど・・・」

 ちょっと言いにくそうに美幸はもごもごと口を動かす。

「ん? ああ、ひょっとして香澄も聞きたがってた件?」

「え? 知ってるの? 香澄ちゃんのこと。」

「知ってるも何も、香澄から連絡行かなかったの? 『美幸ちゃんにも教えてあげなきゃ』とか言ってたから、てっきり話が行ってるものだと。」

「ううん。昨日は珍しく、香澄ちゃんからLINE入って来なかったの。」


 きょとんとした顔で頼光を見る美幸に、頼光はBL疑惑の(くだり)のやりとりを掻い摘んで話した。

「・・・と、言う話し。」

「ああ、そうなんだ。はぁ・・・良かったぁ。」

 しみじみと美幸は安堵の息を漏らした。

「香澄もだけど、美幸ちゃんもひどいなぁ。そりゃ、何度も女の子に間違われてナンパされたことはあるけど。」

「いや、その。私たちの聞き間違いだから。それにね、その・・・麗奈さんの後に皆本くんの女の子のウワサが無いから、もしかして・・・ってコト言ってたコも居たし。」

「風評被害も(はなは)だしいな。」

 顔をしかめた頼光は紅茶缶をあおった。

「でも、これですっきりした?」

「うん。もしそうなら、入り込む余地なんて無いって思っちゃってたから・・・あ。」

 思わず口から出た言葉に慌てた美幸は、紅茶缶をぐいっとあおる。

「うん?」

「ぷはっ。ごっごちそうさまっ。ごめんね、おごってもらっちゃって、はは。」

 赤くなった顔を照れ笑いでごまかそうとした。

「いや、これくらいは。あ、そろそろ電車、大丈夫?」

 美幸は小さなピンク色の腕時計をチラリと見た。

「ホントだ。そろそろ行くね。それじゃ、また明日。」

「うん、また明日。帰り道、気を付けて。」

 二人は手を振り合って噴水広場を後にした。



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