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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~妖魔襲来~


 八畳ほどの広さの部屋の中で二つの黒い人影が睨み合っていた。

 壁際の本棚が叩き潰され、壁には三本の鋭い(えぐ)り傷が走っている。

 サヌカイト製の投擲ナイフを両手指に挟み身構えた保昌がじりじりと間合いを(はか)る中、ボーラーハットに白いペスト・マスクの妖魔が右内腕から飛び出した大きな三本爪の腕を身構えた。

 妖魔の左の小脇に抱えた黒檀のステッキの握り手が金色に輝く。

 保昌が右手のナイフを投げ、3本の石板ナイフは拡散して唸りを上げる。

 妖魔は左へと飛び退き、ナイフは金属的な音と共に壁に突き刺さる。

 逃げた方向に左手のナイフを放つ。

 一度着地した妖魔は軽いステップで天井へと飛び上がり、天井を蹴って右手を振りかざした。

 かわしたはずの石板ナイフが妖魔の下方から襲い掛かり、驚いた妖魔は身を翻してそれを弾く。

 破壊した本棚の上に着地した妖魔は、忌々しそうに舌打ちをして、左肩に刺さったサヌカイト・ナイフを引き抜いた。

「チッ。この国のニンゲンは思ったよりも(つか)うな。」

 ぽいと投げ捨てた石板ナイフが高い音と共に床に転がる。

「何の用事だい? 西洋妖魔さんのご依頼の連絡は無かったがな。」

 保昌はポケットの中から水晶の小片を数個掴み出して掌に載せた。

「・・・盗品を回収しに来た。お前がその内ポケットに持っている事は判っている。大人しく渡してもらおうか。」

 妖魔はゆっくりと瓦礫の上から降りて、保昌の方へとその白いマスクの顔を向けた。

「あれはあんたの物かい? 回収するにしては結構殺したね。」

「この国では確か、金貨を一枚盗んでも首を()ねられると聞いていたが。」

「そりゃあ、150年以上昔の話だ。それより、あの宝石は何なんだ? 確かに珍しいカラーダイヤだが、妖魔がそれに固執するのはあまり合点がいかないな。」

 保昌は掌の水晶片をぱらりと床に()き、ぱんと両手を合わせた。

「何かを仕掛けるつもりだな・・・回収料として盗人の魂を喰らっても良い事になっているのだが、お前は特別にサービスしてやっても良いぞ?」

「そうかい。そういう背景があったのか。転売された流通先でも同じ事をするつもりだな?」

「盗人を処刑して何が悪い? それに私の腹も、くちくなるしな・・・」

 ペスト・マスクの丸いガラスの目がキラリと光り、保昌は咄嗟に横っ飛びにその場を離れた。

 マスクのクチバシの先から薄緑色の液体が吹き出し、来客用の革張りのソファーを濡らす。

 ソファーは薄く湯気を上げ、溶けて崩れた革の部分からクッション材とスプリングが飛び出した。

「・・・サービスしてくれるんじゃなかったのかい?」

「気が変わった。Seelenjuwelシーレンユーヴェルも頂くし、お前の魂も頂く。」

「欲張りだなっ。」

 保昌は両手をパンッと合わせた。

 そこへ妖魔が液体を吹きかける。

 保昌は床を転がりそれをかわした。


「おん せんだら はらばや そわか!」


 月光真言と共に、床に撒いた水晶片が輝き、高い音を響かせた。

 その音は壁に刺さったサヌカイト・ナイフに共鳴して部屋に満ちた。

「グオオオオっ!」

 妖魔が耳を押さえて苦しむ。

 その時、天井付近の空間が歪み、ローションのような粘液に包まれた頼光がペッと吐き出される様に飛び出て来た。

 妖魔を跳ね飛ばして着地した頼光は、顔の粘液をぬぐって見回した。

 頭を振って起き上がった妖魔は頼光に向けて薄緑色の液体を吹き付ける。

 咄嗟に左腕でそれを受け止めた。

「頼くん! それは溶解液だっ!」

 血相を変えて保昌が叫ぶ。

「ええっ!」

 腕を覆っている粘液の上に、薄い緑色の液体が(したた)り、腕にちりちりとした痛みが走り始めた。

 妖魔は壁のサヌカイト・ナイフを破壊して、少しは静かになった部屋の中でゆらりと身構えた。

「今宵は二人分か、喰いきれるかな?」

 妖魔は不敵に呟いた。

「保昌サマっ!」

 バタンッと扉が開いて、水色がかった銀髪の女性が飛び込んで来た。

「ササメっ! 危ない、下がれっ!」

「いっかまっ! なぁなぁしとるがっ、()れっ!」

 妖魔を睨みつけて叫んだササメの周囲の空気がキラキラと輝き始め、部屋の温度がぐんぐんと下がり始めた。

 妖魔の視線が頼光から離れた瞬間、頼光は体の表面をぼうっと白く輝かせた。

 和太鼓を一撃するような振動と共に体を覆っていた粘液が剥がれて飛び散る。

 その音に驚いた妖魔が振り返る。

 視線の先に、額に鋭い一角を持った白い妖が純白の翼を広げて立っていた。

「キサマは・・・」

「久しぶりだな。あの公園での決着を付けるかい?」

 両腕を覆っている鎧籠手から2本の大爪が飛び出し、白い妖は身構えた。

 保昌が新たにサヌカイト・ナイフを身構え、ササメの周囲に無数の氷塊が漂っている様子を見た妖魔は、忌々しそうに舌打ちをするとマントをバサッと被り姿を消した。


「ふう、頼くん、ササメ。助かったよ。ありがとう。」

「保昌サマっ。」

 ササメは涙目で保昌に抱き付いた。

「良かったぁ、ご無事で。」

「サ、ササメ。」

 保昌は軽く肩を抱き、頭を撫でた。

「ササメ。」

「はい、保昌サマ。」

「心配してくれて有難いんだが、ちょっと寒いよ。」

「はい? あ、ニンゲンにはそうなんですね。」

 ちょっと表情を緩ませた彼女は、ひょいと離れて大きく右手を横に振った。

 空気の凍てつきが緩やかになった。

「禎茂さん。ケガとか無いですか?」

 白鳳の姿のまま、頼光が傍に寄る。

「ああ、なんとかね。さっき君がまみれていた粘液からすると、ショウケラの移送だね。」

 保昌の袖をササメがくいくいと引っ張って、顔を見上げた。

「あの~、保昌サマ?」

「ああ、彼は源綴宮の皆本頼光。天狗の血統の人間だ。で、頼くん、こちらが僕の秘書をやってくれているササメだ。」

 頼光は手を差し出した。

「初めまして。皆本頼光です。」

「よろしく、ササメです。」

 握手をした彼女の手は氷のように冷たかった。

「うわ、冷たいっ。ササメさんも陰陽師なんですか?」

「ううん。私、人族じゃないのよ。あなたもそうでしょ? その姿。」

 そう言われて、頼光は表情を曇らせた。

「彼女に悪気は無いんだ。許してくれ頼くん。」

 保昌がぽんと肩に手を置く。

「ええ、解ってますが、正面切って言われると、ちょっとコタえますね・・・」

「?」

 きょとんとして首を傾げる彼女に保昌が寄り添った。

「彼女は雪女。妖族との交流協定の一環としてウチで預かっているんだ。言うなれば、留学生みたいなものだ。」

「そんなコトしてたんですね・・・クシュンッ。」

 頼光はくしゃみを一つして身震いした。

「あら、あなた、羽毛があるのに寒がりさん?」

「いや、鳥じゃないから。」




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