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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~質問と答え~


入浴を済ませてさっぱりとした頼光が部屋に戻ると、携帯にメール着信を知らせるライトの点滅が灯っている。

「ようやく香澄、お題が決まったな。」

 メールボックスを開けると、そこには『禎茂保昌』の名前が表示されていた。

「禎茂さん? 何だろ?」

本文を開いてみる。

『頼くん、土曜日、時間は取れますか? 連絡ください。』

「ああ・・・これは予想通りの展開になってきたな・・・」

 頼光はちょっと眉をしかめて返信メールを入れた。

『午後4時から空手道場に行きますので、昼過ぎぐらいまでなら大丈夫だと思います。』

 頼光は窓際の机に着いて明日の授業の数学の教科書を引っ張り出した。

「え~と。『図形と組み合わせ』だったな。香澄がよく聞いて来るから説明できるように勉強しておかないとな。」

 教科書に真鍮の文鎮を置いて固定した頼光はノートを準備した。

「え~と。『正八角形について、頂点を結んで出来る三角形の個数と、頂点を結んで出来る対角線の本数を求めよ。』か・・・正n角形の頂点を結んで出来る三角形の個数は『三角形の頂点になる3つをn個の頂点から選ぶ』んだから・・・『nCk=n(n-1)(n-2)…(n-k+1)/k! 』の公式で ₈C₃=8×7×6 / 3×2×1=56 で、56通り。出来る三角形は 56個。」

 カリカリとノートに書きこんで行く。

「対角線の本数は、2つの頂点を選ぶと線が引けるから、さっきの考え方で ₈C₂=8×7 / 2×1=28 で、ここで隣り合う頂点の間の線は『辺』だからダブってるので、これは八角形なので辺が8本。28-8=20 答えは20本・・・と。」

 回答をノートに書きつけている時に携帯から着信音が鳴った。

「やあ、香澄。三十分ぶり。」

『うん、ライコウ今大丈夫?』

 いつもの明るい声に心が和む。

「明日の数学の予習やってた。香澄は?」

『あ、そうか。明日数学かぁ。何やるんだっけ?』

「図形と組み合わせ。正何角形の中に三角形がいくつ取れるかとか、物を取り出して並べるのは何通りできるかとか言うのを、数式でやるヤツ。」

『あ~、何か呪文みたいな数式使うヤツだね。まいったなぁ。』

 電話当初の勢いが無くなって、声の調子が下がって来た。

「困る前に予習しときなよ。理屈が解ったら、そんなに難しいコト言ってないぞ。」

『そんなコト言われても、この時間からそんなの見てたら眠くなっちゃうよ。』

「今押さえとかないと中間テストで赤、付いちまうぞ。じゃあ、授業始まる前の休み時間にプチ勉強会な。香澄の席の所に行くから。」

『え、来てくれるの?』

「ああ。だから香澄の解らないトコ、ピックアップしといて。僕も解らなかったらそこ、授業で聞いてみるから。」

『うん。』

 元気になった香澄が明るく答えた。

『でさ。あの話。』

「どの話?」

『ライコウが何でも答えるってヤツ。まさか忘れたなんて言わせないよっ。』

 香澄がちょっとすごんで見せた。

「熟考してた時点で、何か怖いんだけど。」

『へへ~ん。じゃあ、いくよ。』

「おう。」

『ライコウが今、気になっているひと。ただし、麗奈さんとかシャーロットさんとか亡くなったお母さんはNGワード。』

「うわ、そう来たかい。」

『さあ、どうよ?』

「パス無し?」

『もちろん。』

「う~ん。なんか恥ずかしいな。」

 頼光はしきりに鼻先を擦った。

『私だって、あんな事大真面目に聞くの恥ずかしかったんだから。』

「う・・・ん。じゃあ、聞いてもバカにしないって約束してくれるかい?」

 ちょっと弱々しい声調子で頼光が話す。

『別にバカにすることじゃないでしょ? ライコウの思ってることなんだから。』

「う・・・ん、そう言ってもらえるなら。」

『では、はりきってどうぞ。』

 少しふざけた口調で香澄が振る。

「えっと。今僕が気になってるひとは。」

『うん。』

「今、電話で話ししてるひと。」

『・・・・ふぉぁっ?!』

 どこかから空気が漏れるような声を出して、香澄は固まった。

「・・・答えたよ。これで良い?」

『・・・』

「香澄?」

『・・・』

「お~い。かすみちゃん?」

 ごくっと生唾を飲み込む音がして、上ずった香澄の声が流れ込んで来た。

『あ・・・はは、や、やだな~もう。いいいいきなりなんてことをのたまわるのかにゃ・・・え、いや、その、あわ、わたし? え、その・・・なんで?』

「それは2つ目の質問として却下します。」

『うわっ、振り逃げだ。』

「とにかく答えたからな。相手の顔が見えないのも結構恥ずかしいんだぞ。」

 こっちは顔見られなくて正解だよっ!と心で叫びながら、耳から首まで真っ赤になった自分の顔をぱたぱたと(あお)いだ。

『どどどどどういうふうにきになってるのかだけでもおおおおしえてっ。』

「香澄、めっちゃ動揺してるじゃん。悪い意味で言ってる訳じゃないからな。気分は害さないでくれよ。」

『が、害するも何も、その、えと、ぇえ?』

 ちょうど良いタイミングで頼光にキャッチ・ホンを知らせる音が鳴り出した。

「あ、悪い、香澄。今キャッチが入った。一度切るね。用があったらまた連絡して。」

『う、うん。わかった。そ、それじゃ。また。』

「うん、またね。・・・・・・もしもし?」

 通話が切り替わった。

『もしもしっ、頼くん? 崇弘です。』

 少し落ち着きの無い様子で崇弘の声が聞こえた。

「どうしたんです? 崇弘さんがそんなに慌てるなんて珍しいですね。」

『保昌が襲われた。例の西洋妖魔だ。今、ショウケラがここに飛んできた。』

「禎茂さんがっ?」

『保昌の事務所に襲来したそうだ。狭い室内ではナナツは身動きが取れない。虫の良いお願いだが、君の「天狗」の力を貸してくれ。』

「でも、翼を使っても彦崎港辺りまで行くのに10分はかかります。間に合わないかも。」

『ショウケラが「移送」をかける。頼む。』

「分かりました。」

 頼光は着ていた部屋着を脱ぎ捨てた。

 頼光のベッドにポトリと軽いものが落ちる音がした。

『済まんが、頼むぞヨリミツ。』

 ベッドの上からヤモリがこちらを見つめる。

「ああ。一気にやってくれ。」

 全裸の頼光はベッドのショウケラの方に向き直ると、膝を抱えてうずくまった。

 ちょろりと頼光の傍に走り寄ると、ショウケラは頼光を見上げた。

 部屋いっぱいにショウケラの頭部が巨大化し、そのままぱくりと頼光を飲み込んだ。



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