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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~疑問の検証~


「こ、これは・・・!」

 予想通りの崇弘の反応を確認すると、頼光は対面しているテーブルの天板に両肘を突いて手を組んだ。

「これは何なんです?」

「人間社会に当てはめるなら、『身分証明証』の感覚に近いものだ。」

「議員バッチとか警察手帳みたいなものと考えたら良いんですね?」

 頼光はテーブル上の指輪を手に取って、くるくると弄んだ。

「ああ。しかも彫刻文は『酒呑童子』を意味している。」

「酒呑童子? あの平安末期の?」

「うん、()()大嶽(おおたけ)(まる)阿弖流(あてる)()()()()(おう)と並ぶ、国津神クラスの力を持った鬼族の一人だ。」

「確か伝承では『討たれた』と。」

「だが、配下の鬼族たちは健在だ。当時のように山賊や反体制派を巻き込んで徒党を組む事こそ行ってはいないが、いろいろな所で暗躍していることは確かだ。」

「その一党が頼くんに接触を図って来たか。崇弘どう思う?」

 保昌が崇弘を覗き込む。

「それだけ頼くんの『白鳳』に価値を見出していると言うことだな・・・」

 崇弘は眉間にシワを刻んで腕を組んだ。

「伊勢から父さんが帰ってきたら、伝えるべきでしょうか?」

 頼光は心配そうに崇弘に聞いた。

「ああ。隠しておく理由が無い。心配はされるだろうが、それなりの対策も講じられる。それにこれは、君のお母さんの筋にもそれなりの影響がある。」

「母さんの?・・・つまり天狗族と鬼族は仲が悪いと言うことですか?」

「鎌倉時代あたりまでは、ナワバリ争いみたいなことをしていたそうだ。酒呑童子討伐の源頼光一党に破魔の武具を与えたのも天狗族だと聞く。」

 頼光は小さくため息をついた。

「『禁忌の子』が鬼とつるんでる。と、父さんは陰で言われるんですね・・・」

「頼くん。君は気にしなくて良い。義晃さんと紅葉(くれは)さんが()かれ合った事も、君が生まれた事も、何も悪い事なんて無いんだ。因習に縛られている連中は吠えさせておけば良い。陰で吠えるだけで、どうせ何も出来ない奴らだ。」

 崇弘は声を少し荒げた。

 しばしの沈黙。

 部屋の中の気まずい空気を払うように、保昌が軽くぱんと手を打った。

「よし、では僕の本題に入って良いかい? 赤磐警部直々に、例のハンサム団の撮影現場の特定を依頼されたんだ。捜査一課の調査力をしても特定が出来ない。と、言う事は、そのトンネルの向こう側に幻術がかかっている。と僕は踏んでいるんだが?」

 保昌は努めて明るい感じで、二人を交互に見た。

「うん。悪くない考え方だ。」

「イリュージョニスト程の強力な幻術なら、そんなに長い時間展開できるものじゃない。恐らく、『催眠暗示』的なもの、錯覚や見間違いを起こさせる類のモノだと思うんだ。」

「だが、そんなごく微量の呪力しか使わない術は発見出来ないな。看破するにも『確信』がなければそのまま見落としてしまう。」

「そこでだ。なぜ、術の心得(こころえ)もない一般学生達が、その幻術を破ってその廃屋を発見出来たか?」

 身を乗り出す保昌に崇弘は顎に手を当てて考え込んだ。

「そう言われれば・・・ちょうど術を掛け直していたとか?」

「術者がその場に居たのなら、追い返す別の手段を講じるとは思わないか?」

「うむ、当事者が僕なら、そうするな。では、わざとその廃屋に招き入れた?」

「西洋妖魔や蟲を使ってまで、そこで盗まれたであろう宝石を回収しているんだ。意図した事態では無いと思う。」

「じゃあ、君はどう思うんだ?」

「それが分からないからここに来ているんだ。」

「開き直ったね。」

 崇弘は苦笑いを浮かべて保昌を見た。

「あの、良くは解らないですが、その術を破るアイテムとかはあるんですか?」

 頼光は鬼の指輪をポケットに収めて口を開いた。

「ああ。有るには有るんだが、術の強弱関係なく一斉(いっせい)に吹き飛ばすヤツでね。まあ言うなればダイナマイトで周囲を一掃するようなものだ。物理的な被害は無いんだが、霊道やら封印石やらに多分に影響が出る。」


 その時保昌の懐から着信音が聞こえて来た。

「あ、ちょっとゴメン。もしもし、禎茂です。」

『もしもし、八嶋結菜です。探偵さん、今よろしいですか?』

「ああ、どうしたんです?」

『今日、例の石を沢井さんから返却してもらいました。いつお渡ししましょうか?』

「思ったより早かったね。明日のお昼休み、大学の事務局前のロビーに受け取りに行って良いですか?」

『はい。私は構いません。よろしくお願いします。』

「こちらこそありがとう。サンプルがあると、こちらも調べが付きやすいんだ。あ、そうだ。つかぬことを聞くけど、例の撮影場所の手がかりになりそうな事は何か思い出せないかな? どんな些細な雑談でも今は有難いんだ。」

『それなら今日、沢井さんがあの心霊トンネルの場所を知ってるって言ってました。』

「なにっ! それは本当?」

 驚いてマイク部に大きな声で叫んだ。

『う・・・た、探偵さん、声、おっきい・・・』

「あ、すみません。それは確かなんですか?」

『はい。沢井さん、小学生の頃、あの辺りに住んでいたそうで、土地カンがあるみたいです。どうしましょう? 探偵さんの電話に連絡するようにお伝えしましょうか?』

「う~ん。いきなり見ず知らずの人間に電話するのは、営業職じゃないと難しいよ。確か沢井さんは頼くんの友達つながりだから、そのルートでお願いしてみるよ。」

「え? 僕ですか?」

 いきなり名前が出たので頼光は目を丸くした。

 通話を終えて、保昌は頼光に向き直った。

「頼くん。」

「聞こえましたから解ってます。香澄に連絡を取って、沢井さんから例の場所を聞き出してくれって言うんですね。」

「その通り。」

 頼光は二つ折りになっている携帯電話を取り出してカチカチと操作した。

 通話1コールで聞きなれた声が響いた。

『も、もしもし。ライコウ?』

「ああ、すっごい早く出たな。どこかに電話するところだったのか?」

『いや、ちょうどスマホを出していたトコだったから。』

「それじゃ早速なんだけど、沢井さんに連絡取れる?」

『うん? どういうこと?』

「ほら、保昌さんが追っている例の宝石の件。それを持っていた連中が『ハンサム団』って言う投稿動画を『ユ~チューブ』にアップしてたんだ。」

『うん。それさっき・・・いや、あの、こっちの話。あ、そうなんだ。』

 何か慌てる香澄の声の背景に雑踏のような音が聞こえて来た。

「香澄、今、外に居るの?」

『うえ? あ、判った? えと、今、美幸ちゃんと駅に居る。』

「そうなんだ。最近仲が良いよな。で、連中の最後の投稿動画の心霊トンネルの場所、沢井さん知ってるって聞いて。」

『えっ、ライコウ聞こえたの?』

「え? さっき禎茂さんに八嶋さんから電話が掛かって来て、そういう話が出たんだ。それで、香澄から沢井さんに、その場所の詳しい位置を聞いてもらいたいそうなんだ。」

『あ、そうなんだ。分かった、加奈ちゃんに連絡取ってみる。』

「サンキュ、香澄。よろしく頼む。」

『あ、あのさ。ちょっと妙な質問なんだけど・・・良い?』

 ちょっと声の調子が変わったので、頼光は首を傾げた。

「うん? 何?」

『えっと、ライコウって、恋愛対象の守備範囲って・・・広いほう?』

「妙な質問だな。まあ、固執してストーカーする人間じゃないと、自分では思うけど?」

『あ、いやその、対象というか対象層というか・・・』

「うん? 年齢層のこと? え、何? 僕にロリコン疑惑?」

 通話が漏れ聞こえた崇弘と保昌は吹き出した。

『え、いや、そうじゃないんだけどね。あ、その・・・美幸ちゃんが聞きたいって!』

『えっ! わたしっ? え、ちょっと待って香澄ちゃん・・・』

 すっとんきょうな声が聞こえ、受話器からかしゃかしゃとスマートフォン本体の擦れる音がした。

『あの、もしもし? 有松です。』

「はい、おつかれさまです。美幸ちゃん、香澄と一緒だったんだね。買い物か何か?」

『う、うん。まあそんなとこ。』

「えっと、聞きたいことって?」

『あのね、その、皆本くんて・・・LGBTについてどう思う?』

「え? いきなり社会派な質問だね。まあ、嫌悪感持ってる人もいるみたいだけど、その当人の価値観と言うか、心の形ってことだよね。それはそれでアリじゃないかなと思うんだけど。」

『そ、そうだよね・・・皆本くんも、そんな人達の恋愛模様とか・・・興味ある?』

「え? 同性愛に興味があるかって? 僕がオネェのオミと仲が良いから?」

『え、いやそんなこと思ってるんじゃないのよ。篠崎くんとは小さいときからのお友達って知ってるし。その、ね、一般的な意見がどうなのかなって。』

 落ち着き無く美幸が話す。

「一般的な意見なら『知恵袋』サイトとか利用してみたら広い意見が聞けるんじゃないかな?」

『う、うん、そうだね。はは・・・あのっ。香澄ちゃんに代わりますっ。』 

 再びスマートフォン本体がかちゃかちゃと擦れる音がした。

『も、もしもし?』

「もしもし、香澄? 美幸ちゃんと二人で何やってんの?」

『いや、ね。その・・・美幸ちゃんのクラスの漫研さんがBL本描いてるんだって。ライコウ興味ある? あるなら貰っておこうかな、なんて。』

 何か一生懸命な感じの香澄の声が響いた。

「うん? 特に興味とかは無いけど。え、香澄って腐女子カテゴリーだったの?」

『わ、私じゃないの。あの・・・美幸ちゃんが。』

『ちょっと、変なトコで名前出さないで。誤解されちゃう。』

「あ~。今隣に禎茂さん居るから、なるべくなら早めに沢井さんに連絡取ってもらえると嬉しいんだけど。」

『あ、ゴメン。すぐにやってみる。また連絡するね。』

 慌ただしく通話が切られ、頼光は携帯電話を折りたたんだ。

「何か話が錯綜(さくそう)しましたが、連絡とってくれるそうです。」

「うん。ありがとう。」

 苦笑交じりの顔で保昌は礼を述べた。

 その傍らで、崇弘が何かを思い出したように頼光に視線を向けた。

「幻術と言えば、確か頼くん、デーゲンハルトの幻術が効かなかったって言ってなかったっけ?」

「あ、はい。香澄や露さんにも見せた幻が僕には効かないとヤツは感心していましたが?」

 携帯電話を机に置いて、頼光は崇弘に顔を向けた。

「そうなのかい? ヤツ程の幻術を無効化出来るのなら、こんな据え置き型の仕掛けなんて効かないよな。」

 保昌が嬉しそうに頼光を見つめる。

「え? それって僕に同行しろってコトですか?」

「いや・・・まあ、ひとつの手段として、幻術を弾き返す事が出来る人材を混ぜておくのも有効な対策かなと思ったまでだよ。」

 保昌はバツ悪そうに頭を掻いた。

「まあ、禎茂さんには普段からお世話になっていますし、僕としても例の西洋妖魔は気になりますから同行するのも嫌じゃないです。が、平日の深夜探索は次の日の授業がツラいです。」

「ああ、学生の本分は勉学だからな、それを邪魔するつもりは無いよ。場所が判れば先ずは僕が行ってみる。頼くんに声を掛ける時は、頼くんの都合を最優先するよ。」

 そんな話をしていると、机に置いていた携帯電話からメールの着信音が響いた。

「あ、香澄からメールだ。」

 メールフォルダーを開く。

『加奈ちゃんに連絡は付いたんだけど、又聞きじゃ、お互い上手く説明できないよ。加奈ちゃんの承諾取ったから、加奈ちゃんのTEL番送るから電話してみて。番号は090-82・・・』

「沢井さんと、直接話してみてくれって番号が送られて来ました。ちょっとかけてみます。」


 3回ぐらいのコールで通話が繋がった。

『もしもし?』

 凛とした女の子の声が響いた。

「もしもし、さっき香澄から連絡受け取りました。皆本です。沢井さんの携帯でよろしいですか?」

『はい、沢井です。皆本くん、約一時間ぶり。』

「だね。香澄から聞いたと思うんだけど、例の心霊トンネルの場所への道順を教えてくれませんか?」

『ええ、いいですよ。メモとか良いですか?』

 崇弘が地図サイトを開いて、モニターをこちらに向けた。

 保昌と頼光がその前ににじり寄り、通話音声をスピーカーに設定する。

「はい。PCに地図を表示しました。どうぞ。」


 加奈は地図情報を読み上げる頼光に合わせて道順をナビして行き、談話室側の三人は地図を追いながらその道をたどって行く。

結構な県北方面に向かうルートだ。

どんどん周囲から市街地の建物の表示が無くなって行く。

『・・・で、そのゆるい左カーブの山沿いの道を行くと右手にちょっとした商店があります。『鬼びっくりまんじゅう』の大きな看板が目印。そこを過ぎて、右の三本目の脇道を突き当たりまで進んで行けば例のトンネルに行きつくよ。すっごい遠いでしょ?』

 崇弘は早速その地図をプリントアウト処理した。

「丁寧な説明ありがとう。沢井さん、この辺り詳しいの?」

『うん。小学校の頃、この辺りのおばあちゃん家で生活してたから。』

「そうか。結構な自然児してたんだ。運動神経が良いのも頷けるよ。」

『あ、ヒトをターザンみたいに。でも、皆本くんて意外とあっさりしてるのね?』

「え? そう?」

『だって、この話すると、大抵の人が「何か家庭に事情が有ったんだ」って、口ごもるのに。』

「そうなの? 沢井さんの話し方が普通だから、別に嫌な思い出じゃないんだと感じたんだ。間違ってた?」

『ううん。それなりに楽しかったのは事実。ウチ、母子家庭だから子供の頃、預けられてたんだ。』

「そうなんだ。僕は早くに母さん亡くしたから、その気分は何となく解るよ。世間様が憐れむ程、当人たちは重くは考えて無いよね。」

『うん・・・こういう話が出来る人って何か貴重。』

「そうだね。また何かの時はよろしくです。」

『こちらこそ。あ、でも、個人的に仲良くなると、香澄ちゃんや美幸ちゃんに睨まれるね。』

「そうなの?」

『あぁ、何でもない。じゃあさ、何かの時にはLINE入れるね。』

 加奈は機嫌の良い口調で喋る。

「僕はガラケーだからLINEは出来ないよ。香澄からメアド聞いてくれたら良いから。」

『そっか。そう言えば今日、香澄ちゃんが、そんな事言ってたな。』

「え? 今日会ってたの?」

『ああっと。それじゃ、お役に立てて良かったよ。何か有ったらまた連絡して。』

「うん、ホントにありがとう。では、また。」

 通話を終える頼光の傍ら、保昌と崇弘が地図を眺める。

 加奈が伝えてくれた店舗周囲の脇道は林道扱いらしく、脇道の侵入口が記載されているだけで、その先は空白になっている。

「航空写真に切り替えても、樹々の樹冠に覆われてよく判らないな。」

 崇弘がPCを操作しながら呟いた。

「まあ、現地に行ってくるまでの事さ。崇弘、頼くん、協力ありがとう。」

 保昌はぽんと膝を打って立ち上がった。

「これから行くんですか?」

 頼光は保昌を見上げた。

「ああ。事務所の戸締りは秘書の子に頼んである事だし。現場で『人払い』の呪が発動したらその場所の『確信』が持てる。」

 保昌はニヤリと笑うと、片手を挙げて談話室から出て行った。



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