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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
26/49

~捜査報告と調査依頼~

「警部、お食事中すみません。」

 東警察署の食堂の中で食後のコーヒーをすすっている赤磐警部の傍に、グレーのスーツ姿の若い刑事が歩み寄って来た。

「いや、ごくろうさん。君も一緒にどうだ? ()(じま)君。」

「ありがとうございます。でももう、移動中にカロリーメイトをいただきましたので、食事は大丈夫です。」

「まあ、昼も動いてくれたんだ。コーヒーぐらいおごるよ。飲みながら報告を聞こうか。」

 警部は食堂のウエイトレスのお姉さんを呼んで、コーヒーを注文した。

「で、君は古物商を当たってくれてたんだったな。どうだった?」

「はい。残念ながら防犯カメラの画像は上書きされていて、連中の来店時の映像は入手出来ませんでした。しかし、それぞれの店主が顔を憶えてくれていました。」

「そうかい。それはありがたいな。」

 運ばれて来たコーヒーを受け取った妹島刑事はコーヒーをちょっとすすって眉間にシワを寄せた。

「あち・・・ん、まずは鴻池駅前の『お宝買取THE PREMIUM』ですが、4月20日の昼前に、赤枝をはじめ、例の四人組が来店したそうです。赤枝が祖父の形見だと言って『ブルーダイヤ』を鑑定依頼したそうです。」

懐からメモ帳を取り出してぱらぱらとめくる。

「ほう、まず本物かガラス玉かを調べたってコトか。」

「はい。店主もあんな大粒のカラーダイヤは初めて見たそうで、かなり印象に残ったと。」

 少し冷めたコーヒーをちょっとすすって、妹島刑事は続けた。

「家族の者と相談してまた来ると言ってその日は帰ったそうですが、翌日にはやって来たそうです。一人で。」

「ふむ。」

 赤磐警部は自分のコーヒーをすすった。

「その時、クリアものとブルーを持ってきたそうです。」

「両方とも本物だな?」

「はい。クリアのダイヤもあんな大粒ですし、ブルーもそれ以上の値打ちモノですから。本社の方に連絡して、買取人を呼んだそうです。」

「大人しく待っていたのか?」

 ぎょろ目の赤磐警部は妹島刑事を見つめた。

「そう聞いています。」

「自分たちで金庫破りとかやっていたのなら、待たされると不安になって逃げようとするものだ。つまり、ヤツにはあの時点では罪悪感を持って無いと言うことになる。」

「ですね。古物商にアタる前に宝石の盗難届の類をチェックしてみましたが、少なくとも国内からの該当品はありませんでした。」

「ふむ。いよいよその出処が気になるところだな。他の3人の足取りは?」

「玄磐市を中心に、沿線にある古物商で換金しています。店舗がカブっていないので、売却先はお互い相談して決めているものと思われます。各店舗と連中の利用一覧は書類にして提出します。」

 妹島刑事は、くいっとコーヒーをあおった。

「ご苦労。こちらも懇意にしている探偵からの情報だが、山崎和眞が自分のカノジョにそのダイヤをプレゼントした事を青山浩平が知っていたそうだ。ヤツがそれを奪い取ろうとカツアゲしてる動画を撮影して送信して来た。」

 赤磐警部はコーヒーを飲み切ってカップをソーサーに置いた。

「結局は逃げられたそうだが、ばっちり顔と声が記録されている。恐喝の容疑でしょっ引けるから、発見次第確保してくれ。他のみんなにも送信しておく。」

「はい。了解です。」


 鴻池市の郊外、港近くの少しレトロ感のある繁華街の一角に白壁の蔵を改装した建物がある。

 その蔵の半分は『蔵CAFE』と掲げられた喫茶店になっていて、店内はウッドを基調にしたやわらかい雰囲気のカフェスペース。

 サイフォンで淹れる自家焙煎コーヒーがウリの小洒落たお店である。

 建物の反対側にある大正レトロ風の大ぶりな扉には『禎茂保昌 探偵事務所』とステンレスプレート製の看板が掲げられている。

 その扉をくぐって廊下の突き当たりの部屋に、広い木調の机に着いて手元の紙とデスクトップパソコンのモニターとをにらめっこしている保昌が居た。

「ふ~む。魂魄分離症患者の発生地域は数か所に集中しているのか。単体の妖が、ただ『食事』をしたのとは規模が違うな・・・」

 ショウケラの集めて来たデータと地図を分析している保昌に、傍らの充電ラックに立ててあるスマートフォンが着信を知らせた。

「・・・と。はい、禎茂です。」

『もしもし、赤磐だ。今良いか?』

「はい、大丈夫ですよ。何の御用でしょう?」

『連中の売却行動が判明した。そちらにFAXするから確認してくれ。そうそう、遅くなったが、青山浩平の動画ありがとう。これで、ヤツを堂々としょっ引ける。』

「いえ。結局は取り逃がして警察の皆さんにお手間取らせることになりました。すみません。あ、売却で気になったんですが、例の石は盗まれていませんか?」

『部下が調べたところ、国内では盗難届の類は該当品が無かったそうだ。』

「いえ、僕が気になったのは、売却後の店舗からの事です。」

『古物商の? さて、聞いていないが。』

「近いうちに起きるかも知れません。その古物商さんには注意喚起してあげてください。」

『うん? まあ、古物商を回らせている部下に伝えておこう。そうそう、連中の動画の撮影場所だが。』

「何か判りましたか?」

『残念ながら。幾つか編集されているし、テロップが邪魔して場所の特定には至っていない。』

「動画では玄磐市の北とか言ってましたが。」

『ああ、「鬼びっくりまんじゅう」の看板を手掛かりに調べてはみたんだが、地元の人は心霊トンネルの事は口にしたがらないみたいなんだ。変なウワサがたったら客足が減るとか、阿呆(あほう)たちが集団でやって来て騒ぐとか言ってな。』

「ああ、後者は充分あり得ますからね。」

『部下たちも日中、あの辺りは探ってみたんだが、脇道と廃トンネルが複数あって、特定できないそうだ。』

「夜中に行ってみて、何か起こったらそこじゃないんですか?」

『あ~。ヤクザとかを相手にするのは慣れている連中なんだが、お化けの類には免疫が無くてな。尻込みしてなかなか行こうとしないんだ。』

「僕から言わせれば、生きている人間のほうがずっと怖いですよ。」

『そこでだ。そういうのに慣れている君が調べを付けてくれないか?』

「僕が? 良いですよ。警部もご一緒しますか?」

『ああ・・・俺は、ちょっと今、本署を離れられなくてな。部下からの情報をまとめたり、科捜研のある中央署と連絡を取ったりだな・・・』

「はい了解です。お忙しいんですね。ではこの件は僕が当たります。成果は追って連絡入れます。」

『すまんね。よろしく頼む。』

 スマートフォンを充電ラックに戻して、保昌は椅子の背もたれに深く体を預けた。

「ふう。警察でも特定できないか。と、いうことはトンネルの向こうの景色に幻術が・・・まてよ。そもそも連中はなんでその廃屋を見つけられたんだ?」

 保昌はいろいろな暗器を仕込んだスマホ・ホルスターを装着して、黒ジャケットを引っ掛けて廊下に出た。

 右手にあるドアをノックして開けると、ノートパソコンの置かれた事務机で書類への書き物をしている女性がこちらを向いた。

 後ろにゆるく三つ編みで束ねた、水色がかった銀髪の髪にちょこんとリボンが結んである。

 窓には厚手のカーテンが掛かり、部屋の中は5月なのにかなりひんやりとしているが、白い半袖ブラウス姿の彼女は快適そうに微笑んでいた。

「ササメ。また、源綴宮へ行ってくる。依頼客や電話があったら対応を頼む。そうそう、赤磐警部からFAXが届くと思う。受け取ったら、僕のデスクの上に置いておいてくれ。」

「はい、分かりました保昌サマ。行ってらっしゃいませ。あ、そうだ。新潟から親戚の者がこちらに来ているんですが、夕刻あたりに、ちょっとこちらに寄らせてもらって良いかと連絡がありました。よろしいですか?」

「うん? 何か僕に用事かい?」

「いえ、久しぶりに私の顔が見たいって。」

「そうか。ひょっとしたら今日はここには戻ってこられないかも知れないから、気兼ねなくくつろいで行ってくれって伝えて。」

「はい。ありがとうございます。彼女も喜びます。」

「じゃ、帰る前には施錠を頼むよ。」

「オマカセください。」

 抜けるような白い肌に緑色の瞳をした彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 扉を後にしようとした保昌は、ふと足を止めて振り返った。

「あ、気兼ねなくとは言ったけど、部屋中ツララだらけにするのは勘弁してくれよ。雪女の里とは違うんだから。」

「え、ダメなんですかぁ?」

 ササメはちょっと残念そうに首を傾げた。


 午後六時前、鴻池駅に隣接するホテル「Grand hill」のフロントまで麗奈とシャーロットを見送った頼光は、軽い足取りで源綴宮への道を歩いていた。

 不意に後ろから短くクラクションが鳴り、オレンジ色の軽ハイトワゴン車が横に並んで停まった。

「やあ、頼くん。神社まで乗って行くかい?」

「あ、禎茂さん? どうしたんです、車の趣味が変わりましたね。」

「はは。いつものは修理に出していてね。これは代車なんだ。」

 助手席に乗り込んだ頼光は、保昌の左肩に乗っているヤモリと目が合った。

「あ、ショウケラ。久しぶりだね。」

『やあ、ヨリミツ。ちょっと会わないうちに、また妖力が強くなったな。順調に成長しているみたいで他人事(ひとごと)ながら嬉しく思うぞ。』

「・・・喜んで良いのかな?」

『賛辞は素直に受け取るものだ。ん? 何かお主から別の匂いがするぞ。何か移り香みたいな感じだが?』

「え?」

 頼光は慌てて左の頬に手を当てた。

『いや。ニンゲンの女性の唾液ではない、何か強い妖力の残照のようなものだ。』

「おや、頼くん。女性の唾液が頬に付くようなことをしたのかい? なかなか隅に置けないな。」

 保昌が運転しながらニヤリと意地悪く笑った。

「西洋の挨拶ですよっ。えっと、ショウケラが感じた妖力って言うのはこれかい?」

 頼光はポケットから真鍮色の指輪を取り出した。

『ピィッ!』

 指輪を目にしたショウケラは、奇声を上げて保昌の右肩の影に隠れた。

『お、お主。それをどこで手に入れた?』

「どこでと言われても・・・(もら)い物なんだ。」

「ショウケラがここまで怯えるのは珍しい。誰から貰ったんだい?」

「え~・・・鬼族・・・鴨川童子から。」

「なにっ?!」

「あ、禎茂さん、前っ!」

 危うく追突を免れた保昌は大きく息をついた。

「ふう・・・君にはいろいろ驚かされっぱなしだな。鬼族とも懇意(こんい)なのかい?」

「別に親しい訳じゃないですよ。先日の教会の地下室で、彼と一戦交えたくらいです。」

 頼光は指輪を弄びながら視線を落とした。

「気に入られたみたいだね。()しくは、目を付けられたかな。」

 保昌はひょいと右眉を上げた。

「どっちにしろ、驚異でしかありませんがね。鴨川童子が『これを持っている限り、自分からは攻撃を仕掛けない』と言って手渡してくれました。これは何のマジナイなんですか?」

「・・・大体見当がつくが、詳しい事は崇弘と検証しよう。」

 はっきりと物を言わない様子にただ事では無いことを感じ、頼光はその指輪を握り締めた。



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