~加奈~
西崎高校の体育館からは午後5時半を過ぎてもシューズの床を擦る音と、ドリブルの音が響いていた。
バスケ部が使用延長許可をもらって、二人一組でのシュート&リカバリーの練習を『流し』で行っていた。
部員が多いので『流し』の練習では順番待ちが出来てしまう。
加奈と組んでいた部員がバックボードのバウンドに失敗して、ボールが体育館の側壁の扉から裏手へと転がり出た。
リカバリー役の加奈はそれを追って外に出ると、カッターシャツに黒の学生ズボンの一人の男子生徒が、足元に転がって来たバスケットボールをひょいと拾い上げてこちらを向いた。
「やあ、沢井さん、がんばってるね。」
細面の男の子、植松陽翔はにっこりと笑って、固まっている加奈に歩み寄って来た。
左肩に掛けた矢筒からはジェラルミンの矢がカチャカチャとぶつかる音がした。
「あ、植松先輩。すみません、拾ってもらって。」
顔を赤らめた加奈は、陽翔の喉元に視点を合わせた。
「うん? 弓道場辺りにはよく転がって来るからね。気にしない、気にしない。それに、こうして沢井さんにボールを渡すのは3度目だね。」
「あ、重ねがさね・・・すみません。」
185センチの加奈は、10センチぐらいの背の高さを埋めるようにちょっと屈んでボールを受け取る。
おずおずとボールを受け取る際、少し指先が触れた。
(あ、指・・・)
ひんやりとした指先の感触に、再び加奈が固まった。
「交流戦が終わったのに、バスケ部はまだ延長してんの?」
「は、はい。来月は関西大のチームと交流試合があるんです。実質は先輩達のスカウトとか進学の前哨戦みたいな感じで、一年生には出番は無いみたいなんですが。」
「そうか。ウチのメジャースポーツ部はスカウト合戦の対象だからな。沢井さんも来年は引く手あまたってトコだね。」
陽翔は優しく微笑んだ。
ちょっと目が合った加奈は、慌ててボールに視線を戻した。
「そ、そんな。私はまだまだ・・・せ・・・弓道部は試合とかは無いんですか?」
「う~ん。大安寺高校と来月親善試合があるけど、それぐらいかな? まだまだインターハイにも時間はあるし、マイペースにやらせてもらってるよ。」
そこまで話していた時に、男子生徒の後ろから声がした。
「おーい。植松~。そろそろ行くぞー。」
「ああ、英ちゃん。分かった、すぐ行くー。」
大きな声で、自転車に跨った日焼けた角刈りの男の子に向かって陽翔は返事をした。
「あ、すみません。引き止めちゃって。」
「いや。沢井さんは気にしなくて良いよ。僕が話したかったんだし。」
「え?」
「それじゃ、また。練習、がんばってね。」
「は・・・はい。」
にこやかに手を振って、陽翔は自転車の男の子の方に駆けて行った。
ちょっと呆けていた加奈は、ブンブンと頭を振って、体育館へと駆け戻った。
(えへへ。お話ししちゃった。)




