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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
19/49

~『我ら ハンサム団!』~



 変身戦隊ヒーロー物のような音楽が流れる。

 石切り場のような広場を横一列で走って来る四人の青年たちが映る。

 四人が少しずつずれて並ぶ横顔が映った。

 全員『快傑ゾロ』のような目出し覆面を巻いて、後頭部で結わえた布端が風にひらひら揺れている。

 一人ずつの立ち絵に切り替わる。


 赤いゾロ覆面の青年が片膝を突いて両手を大きく広げる。

「ハンサム・レッド!」


 青いゾロ覆面の青年が半身になって指銃を撃つポーズをする。

「ハンサム・ブルー!」


 黄色いゾロ覆面の青年が両腕を大きく振り回して、歌舞伎の『暫く』のような格好をキメる。

「ハンサム・イエロー!」


 緑のゾロ覆面の青年が腕組をして立ち、前髪をふっと払ってキメ顔を向けた。

「ハンサム・グリーン!」


 全員が集まり、戦隊モノのキメポーズを執る。

『我ら、ハンサム団!』

 シャキーーーーンの効果音が響いた。。



「なんだこりゃ?」

頼光が半ば呆れた口調で呟いた。

「す、すみません・・・一応は()めたんだけど。」

「?」

「ああ、この『ハンサム・イエロー』が八嶋さんのカレだ。」

 不思議そうな顔をする頼光に保昌が答えた。

「あ、こちらこそ、すみません・・・」


 画像は夜の車窓風景に切り替わった。

 画面には「ロケ場所移動中」の白いゴシック体が表示されている。

 山間(やまあい)の県道らしき道を進んで「鬼びっくりまんじゅう」の看板を掲げた道沿いの店舗の横を過ぎ、ゆるいカーブと共に現れた細い脇道に入る。

 舗装道路はすぐに砂利道に変わり、車ががたがたと揺れた。

 周囲が鬱蒼とした林に囲まれ、車はハイビームにライトを切り替えて停車した。

 正面の鬱蒼とした丘は月明かりに照らされて青黒い稜線を夜空に浮かび上がらせている。

 ここで画面が切り替わる。

「ちょり~ス。突撃型ユ~チューバー『ハンサム団』で~す。」

 ゾロのような目だけの覆面をした青年たちは、思いおもいにポーズを執った。

 最初にMCをした赤いゾロ覆面の青年はカメラに近づき、大きく背景に向けて手をかざした。

「はは~い、みなさん。今回もご視聴ありがとうございま~す。ハンサム・レッドで~す。今回は某K市の北、くろ・・・ん~~市のさらに北、今はもうほとんどと言って良いぐらい使われなくなった旧道トンネルに突撃だ~い。」

 指し示す方向には鬱蒼とした丘に小ぶりなトンネルが口を開けていた。

「はい、じゃ、ハンサム・ブルーさん。カメラ持って付いて来て。まず、視聴者の皆さんは判らない人が多いと思いますので説明しま~す。」

 カメラ画面が三脚から外される動きでブレて、レッド・イエロー・グリーンのゾロ覆面を巻いた青年たちが歩いて行く姿を映し出した。

「はい、この小さなトンネルですが、出来たのは大正時代と言われています。当時は大型トラックなんて無かった時代。主に馬車や荷車がこの山道を通っていたんですね。」

 カメラがズームでトンネルの入り口を映す。

 赤レンガとモルタルの外装がハイビームに浮かび上がっている。

「当時のトンネル掘削はツルハシとかの手掘り。当然、落盤とかの事故は起きますね。だからこのトンネル入り口には供養塔と六体のお地蔵様が祀られています。」

 カメラは入り口横の小さな石碑を映し出した。

「ただ、戦後になって開発が進むと、このトンネルは使われなくなりました。見ての通り、軽四がすれ違うのもキツイぐらいの大きさですからね。」

 レッドは足を止めてカメラを見つめ、手にしていた懐中電灯を顔の下から照らし上げた。

「供養する人も絶え、いつからかこのトンネルには、浮かばれない掘削作業員の霊が出るとのウワサがまことしやかに流れるように、な~りました~。」

 怖い話風の演出をするレッドの後ろで、グリーンとイエローがウケていた。

「そこでっ、突撃型ユ~チューバー『ハンサム団』。この『呪われたトンネル』を突撃検証しちゃいま~すっ。」

 画面の三人は、ふざけたポーズを執ってトンネルに手をひらひらさせた。


「あ~。こういうの中学の夏休みにやったな~。」

 頼光が画面を覗き込んで呟いた。

「本当にそんな場所だったら、何の備えも無しに行くとエラい目に遭うぞ。」

 崇弘が誰に言うと無く呟く。


 供養塔をなめるように撮影し、真っ暗なトンネルに入る。

 手にした光源がちらちらと、足元や周囲の壁を照らし出す。

 トンネル内部は剥がれ落ちたモルタルの破片が道に散乱していて歩く度に、がりっじゃりっと音を立てる。

 数メートル進んだ所でグリーンの手にしているスマホの青い画面が突然に消えた。

 グリーンがいろいろとタップしてみているが何の反応も無い。

 メンバーの誰もこの時点では気付いていないが、グリーンの脇に白っぽい揺らぎが映っている。

「うほっ! マジぃ?」

 レッドは嬉しそうに声を上げた。

 その時、画面に赤・青・緑の三原色の走行線がばらばらと走り始めた。

「うわっ、何か画面にノイズが走り出したんだけど?」

 カメラを構えていたブルーが情けない声を出した。

「うえ? マジ? ちょっと確認に一旦外へ戻ろう。」

 四人は速足で入り口に戻った。

 そして画面が再びトンネル入り口を映し出した。

 『画像・機材をチェックして再突入。グリーンさん、この時点でかなりビビってます。』の文字がテロップに出る。

 再びトンネルに突入する。

 わくわくしながら進むレッドを先頭に、腰が引けて顔色の悪いグリーン、辺りをきょろきょろ見回すイエローの姿が映し出される。

 トンネルの半ばを過ぎた頃、低い振動音のようなものが聞こえて来た。

 グリーンがかなりキョドってイエローのシャツの裾を掴む。

「え? 何か音しない?」

 カメラのブルーが声を発した時、イエローのすぐ横に天井から剥落して来たモルタルの塊が落ちて、道に砕け散った。

 映像にはイエローの横に青黒い影が揺らめいている。

「うわーっ!」

 突然の事に四人はそのまま駆け出し、トンネルを抜けた。

 カメラもブレブレで映像が乱れる。

「う・・・うわぁ。 これはビビった。」

 地べたに座り込んでイエローが大きく息をついている。

「みんな無事か?」

 レッドが見回す。

「やっぱ、ヤバいって・・・」

 蒼白になったグリーンが両膝を突いてしゃがみ込んだ姿が映る。


 「この時の個人の撮影機材は・・・」のテロップが表示され、写真のスライドの構成になる。

 『ハンサム・レッド』

 トンネル内の内壁、モルタルが剥がれてレンガが顔を表した部分を撮影したものに、オレンジ色のモヤのようなものが数枚に渡って撮影されている。

『ハンサム・グリーン』

 撮影したものほとんどが白い煙のようなものに覆われている写真。「最初に異常が出た影響なのか・・・」のテロップが重なる。

『ハンサム・イエロー』

 ・・・デジカメ自体が壊れて再生不能・・・のテロップ。


 そしてレッドとイエローが二人並んで立っている画像に切り替わった。

 ちょっと離れた所にグリーンがへたりこんで、両膝を抱えている。

 背後には、月明かりに照らされた丘に古びた洋館の屋根付近が、木立ちの間から顔を覗かせていた。

 きれいに月光が輝く中、その洋館を背景にレッドは大きく手を掲げた。

「『呪いのトンネル』を抜けた先に我々が目にした怪しげな洋館。この廃墟に潜むものはなにか~。次回の『突撃! ハンサム団』はこの怪しい廃墟に潜入しまっす。乞うご期待っ! ちゃんちゃん♪」

 「次回配信も 乞うご期待!」のゴシック体が画面中央に踊り、動画は終わった。


「いつもこんな事をしてるんですか?」

 頼光が結菜の方をちらりと見た。

「なんか、ごめんなさい。」

 恥ずかしそうにうつむく結菜の横で、保昌が解説を入れた。

「オカルトものと言うよりはチャレンジもののジャンルだな。他には『ローラースケートを履いて消火器二本を噴射したらどれくらい進めるか』とか『電子レンジで爆発直前の「爆弾タマゴ」を作ってみよう』とか。」

「あああ。ホントに、すみません。」

 結菜は顔を赤くして小さくなった。

「それはそうと。崇弘、頼くん。この動画の事象、どう見る?」

「う~ん。僕はデジタル編集じゃないかと思います。影を刷り込ませるぐらいのコトはそんなに難しくないでしょ?」

 頼光は保昌と崇弘を見た。

「うん。頼くんの考え方も一理ある。だが、このメンバーが、特にこのグリーンのビビり方が真に迫っている。演技でこれだけ出来るなら大したものだ。それに・・・」

 崇弘はちょっと結菜の方を見た。

「八嶋さんの常識の範囲からは外れるんだが、神職をやっていると本物の心霊事象に遭遇する事も少なくないんだよ。この揺らぎの出方、見覚えがあるんだ。」

「え? じゃ、これ、ホンモノ?」

 結菜はくりくりした目をさらに見開いた。

「ああ。だが、『霊』というより『術』に近い感じがする。『人払いの術』で、近づいてきた人に恐怖体験をさせて寄り付かなくさせるヤツだ。日本昔話にもあるだろ? 丘を越えたら大入道が居たり、山姥(やまんば)に追いかけられたりする話。」

「そういう話、全部がそれなら、昔話の味気も何もありませんね。」

 頼光が、肩をそびやかす。

「つまり、これが教本通りの『人払いの術』なら、このトンネルの先に行かせたく無い輩が居ることになる。そしてそのトンネルを抜けると・・・」

「雪国だった?」

「ここで茶化さないでくれ頼くん。そこに映っている洋館がキーポイントだ。八嶋さん。ここの場所は判りますか?」

 崇弘が真剣な顔を向けた。

「すみません。和眞くんたちが4人で決めて動くので、詳しい話は良く知らないんです。ここも、玄磐市から北に向かった所としか聞いてないんです。」

「そこは、このメンバーのハンサム・ブルーこと青山浩平に聞いてみようと思っている。」

 保昌はちょっと得意げに笑みを浮かべた。

「だが、保昌。君は警察じゃないだろ? 不法侵入や窃盗が発覚しそうな事案に素直に答えてくれるのか?」

 崇弘が怪訝そうに保昌を見る。

「大丈夫だ。僕の予想通りにコトが運べば、今日明日中に情報を掴んで来るよ。」



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