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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~『談話室』での検証~



 ゴールデンウイーク明けの明芳学園高校は、交流戦関係の体育部や吹奏楽部以外は結構ダレていた。

 そんな中でも本日の授業は無事に終了して、生徒たちがざわざわする中、斜め後ろの席の香澄が頼光の所へやって来た。

「や、ライコウ。今日は空手部に行くの?」

「もう交流戦が終わったから部活参加は無しだよ。空手は川西の『創心館』で五人部(いとべ)師範にまた指導してもらう。」

「そっか。ライコウ、道場復帰だね。あの仙人みたいな先生、きっと喜ぶよ。」

 香澄は机に手を突いてにっこりと笑った。

「今日は早く帰って祭りの後片付けだ。配線コードを芯材に巻き付けて、ひたすら倉庫に収納するんだ。毎年のことながら、 今からうんざりだよ。」

 頼光は情けない顔をして頭を振った。

「あはは。おつかれさま。バスケ部は交流戦の録画を検証しながら動きのチェックと改良をするんだって。西崎高校の動きとかも参考になるならマネしてみようって。」

 香澄はうきうきと話す。

「そうだ、ライコウ明日、バイトも無いよね。試合前に言ってた『オツカレ会』しない?」

「え?」

 少し驚いた表情に香澄は思わず顎を引いた。

「あ、いや。二人でって言うのが何なら、その、美幸ちゃんとかも呼んで・・・」

「いや、香澄とは良いんだけど。明日は放課後に用事があるんだ。香澄、麗奈さん憶えてる?」

 その名前に香澄の表情が強張(こわば)る。

「う、うん。中学の時、何かとお世話になったから。」

「今、カリフォルニアから帰って来てるんだ。明日の午後4時に鴻池駅の噴水のトコで会おうって。」

 心の中がザラっとした。

「ダメっ! 会っちゃ()だっ!」

 突然の香澄の大きな声に教室が静まり返る。

「か、香澄?」

「ご、ごめん。ちょっと気が動転しちゃった・・・はは。」

 香澄は周りをきょろきょろと目で伺って、力無く笑った。

 少しの静寂の後、教室内はひそひそとささやき声が飛び交う。

「う、うん。久しぶりなんだから、色々と募る話もあるよね。うん・・・あ、そろそろ、私、部活に行くね。」

 そわそわと身じろぎしながら香澄は、頼光の席から離れた。

「うん。おつかれさま。部活がんばって。」

「ありがと。ライコウも、片付けがんばって。じゃ、また。」

 香澄はシュタッと片手を挙げると、いそいそと教室から出て行った。

 そのすぐ後、杉浦(すぎうら)(たけ)(あき)が頼光の傍にやって来た。

 クラスで一番背の高い彼が隣に立つと、一気に視界が暗くなる。

「どうしたんだ? 香澄があんなに取り乱すのは珍しいな? 何があった?」

 高校一年生にして185センチの長身の彼は、少し長めの前髪をピンと弾いて頼光を覗き込んだ。

 ライトブラウンのグラデーションに染めた髪で、校則ぎりぎりの範囲でのオシャレをしている。

「ああ、健明。麗奈さん憶えてるかい?」

「麗奈さん? あの金髪ハーフの美人生徒会副会長さんか? ライコウの元カノの。」

「えっ? 皆本くん、そんなひとと付き合ってたの?」

 健明につられてついて来た、クラスメイトの須藤(すどう)杏子(きょうこ)が間に割って入って来た。

「う、うん。まあ、中二の頃の話だけど。」

 頼光は照れくさそうに髪を掻き上げた。

「どっちから付き合おうって言ったの?」

「どんなひと? 写真とかある?」

「どこに惹かれたの? やっぱりハーフ顔?」

「え? 何、結局オンナは見た目ってコト?」

「! ギャラリーが増えてるっ?」

 クラス女子の囲み取材に頼光は仰け反った。


 

 帰宅した頼光はスポーツインナーにカーゴパンツ、安全靴に着替えて、社務所を訪れた。

「あ、博道さん、帰りました。これから照明機材の収納作業に入ります。」

 社務所の中に居た小袖に袴姿の大柄な男性は、頼光を見て軽く手を挙げた。

「よお、お帰り。一瞬どこかの大工さんが来たのかと思ったよ。いつもの『スーパーハウスH3型倉庫』の前に回収した機材を置いてあるから今年も頼むよ。」

「はい。あと、ダンボールが2つ劣化してたので、御守りが入ってたダンボール貰っちゃって良いですか?」

「ああ、良いよ。ちょっと待ってな。」

 博通は奥の方に畳んで積んである真新しいダンボールを手渡した。

 博通の左腕に巻いてある、斑石のブレスレットが陽光を反射して光る。

「倉庫の中のガムテープで組み立ててくれ。」

「はい、ありがとうございます。」

ダンボールを小脇に抱えた頼光に、博通がぽんと手を打って口を開いた。

「おっと、忘れる所だった。今さっき保昌さんが来てな。頼くんが帰宅したら呼んでくれって言ってた。今、談話室に居る。」

「禎茂さんが? 分かりました。」

 頼光はダンボールを社務所の入り口横に立て掛けて入って行った。

「頼光です。さっき帰りました。禎茂さんがお呼びとうかがいました。」

 頼光は談話室の襖越しに声を掛けた。

「ああ、呼び立てて済まない。入ってくれ。」

 室内からの崇弘の声に襖を開ける。

 室内には神職装束の崇弘に対面する格好で、黒づくめの保昌とセミロングでくりくりとした目が印象的な20歳ぐらいの女の子が座っていた。

 女の子はぺこりとお辞儀をした。

「や、昨日に続いてお邪魔してるよ。彼女は八嶋結菜さん。昨日香澄ちゃんから教えてもらった青い石の持ち主だ。頼くんに2~3見てもらいたいものがあるんだ。」

 保昌は近くに来て座るように促し、机の上のノートパソコンを頼光の方へ向けた。

「これは僕のドライブレコーダーの画像なんだが、ここの右側の路地に注目して見てくれ。」

 住宅街の道を進む画像が映し出される。

 表示時刻は15時で日も高い。

 通る人影も車も無く、エンジン音と共に家並みが流れて行く。

 直進の道から右に脇道のあるT字路にさしかかると、その角に黒づくめの人影が映り、小さく女の子の悲鳴が聞こえた。

 保昌は画像を止める。

「ここだ。この人物は、彼女の青いダイヤを狙っている人物だそうだ。」

「え? あれ、ダイヤなんですか?」

 驚いて結菜が保昌の方を見る。

 保昌は軽く頷いて頼光に視線を向けた。

「どうだい、頼くん。君が見た妖はこいつで良いかい?」

「あやかし?」

 結菜が首を傾げる。

「・・・いえ。雰囲気が全然違いますね。別の・・・ストーカーみたいな輩じゃないんですか?」

「で、でも、『石をよこせ』って迫って来るんです。私どうしたら良いか分からなくって。怖くって。」

 涙目になった結菜は顔色を失って小刻みに震えた。

「警察で護衛とかは付けてもらえないんですか?」

 怯える結菜を見て頼光が保昌に視線を投げた。

「タテマエ的には、『どんな些細な事でもご相談ください』なんだが、実際は何か事件に発展しないと警察は動いてくれないよ。もう一度確認なんだが、頼くん、これは例の西洋妖魔じゃないんだね?」

「はい。一度手合わせした輩は憶えてます。この人物は別モノです。」

「よし。その言葉が欲しかった。協力ありがとう。」

 保昌はにっこりと笑って、軽くぱんと手を合わせた。

「ナナツ。」

『おう。』

 部屋の中に野太い声が響いた。

「きゃっ、だ、誰?」

 結菜が怯えてその身を縮こまらせる。

『この娘が怯えるから姿は現さんよ。保昌、例の件のコトか?』

「ああ、首尾はどうだい?」

『ばっちりだ。ノームの手元にちょうど同じ大きさの青いヤツがあってな、快諾してくれたよ。手を広げろ。』

 保昌は右手を広げて、テーブルの上にかざす。

 そこに天井からポトリと青藍色のトリオンカットされた宝石が落ちて来た。

「え? どこから?」

 結菜が上を見てきょろきょろする。

「ほう、素晴らしい。ありがとうナナツ。感謝するよ。」

『ふふふ。我はお主の式神だ。大仰(おおぎょう)な礼などいらんよ。』

「しかしすごいね。これは何の石だい?」

『チタンを含んだ酸化アルミニウムの結晶体だそうだ。画像の通りに削ってくれた。』

「・・・本物のサファイヤだな。」

 保昌が苦笑いして宝石を摘まんで光に掲げた。

「ええ?」

 結菜と頼光が驚嘆の声を上げる。

『連中に言わせれば、そんなモノあちこちに転がっていて珍しくも何ともないそうだ。それより地上に実る穀物や果実の方が、価値があるとさ。』

「とにかく、八嶋さんの件は僕の予想通りであればこれでカタが付く。あと、乗り掛かった舟みたいな感じで申し訳ないんだが、頼くんの目の前で事故を起こした、赤枝純一のグループが投稿していた動画があるんだ。」

 保昌は崇弘に目配せして動画サイトを開いた。

「彼らのハンドルネームは『ハンサム団』。4月19日投稿の、この動画が最後になっている。」

 「PLAY ▷」をクリックして動画をスタートさせた。


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