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日本ーー
「菜々!今日一緒に帰らない?」
「ごめん。今日は帰る約束してるからまた今度ね?」
「わかったー。もしかして彼氏ですか??」
(礼奈まで言ってきた。もう対応するのがめんどくさいなー。)
「うるさい。なんでもいいでしょ?」
「はいはい」
「ほら、もう授業始まるよ」
「ああ」
五十嵐菜々、高校一年そ生。三ヶ月前に彼氏ができた。最近になって話が回り出したのかさっきのような事が前よりすごく多くなっている。菜々は変に対応してなにか言われるのもめんどくさいので流すようには している。
〜放課後〜
「ごめんね、待った?」
「いや、大丈夫だよ。帰ろうか」
「うん」
そう言って二人は歩き出す。
何も言わずに菜々の彼氏・證律は車道側を歩く。それを見て菜々はまた好きだなあと思う。
「そういえば今日ね、私は外国でモテるって言われたんだ。だからさ、外国でイケメンの彼氏作ってくるー」
「俺のことは捨てんのかよ」
「あはは、捨てちゃうかも」
「まじかよ」
「ふふ」
(もし本当に外国でモテたとしても、新しい彼氏は作らない。だって證律がいるもの。こんなこと絶対言ってあげないけど。)
なんだかんだ話してるうちに家に着いた。
「じゃあね!また明日」
「じゃあな」
そう言って軽く手を振って二人は別れる。證律が見えなくなったところで家に入ろうとした、
「五十嵐菜々さんですか?」
「はい?そうですけど」
そう言って、菜々は声をかけられた方へ振り返り言った。菜々は反射的に応えたが相手の顔を見て、しまったと思う。
(知らない人。誰だろう?すごく身長が高い人な。日本人ぽくない顔立ちだし誰。)
菜々の後ろに立っていたのは片眼鏡をかけた長身で、紫紺の長いマントを羽織った、現代に不似合いな出で立ちの男にだった。
「すみません、どちら様でしょうか?心当たりがないのですが」
「ああ失礼、名乗るのを忘れていましたね。ですが私の名前を明かす必要はございません。なぜなら貴女は今から死ぬのですから」
「え?」
言葉を理解するのに時間はかからなかった。
…………死ぬ………?………なんで?……。
だけど理由を聞こうとした瞬間、男は、どこから出したのか分からない、本の中に出てくるような剣を持って走ってきた。菜々は逃げようとしたが緊張と恐怖でうごけなくなってしまった。
(身体が動かない!!)
そして目の前に振り上げられた剣が迫る。目をつぶった。
キィィーン!
甲高い音がなった。
「あ…れ?」
痛みがない。菜々はなんでだろうと閉じていた目を開けると、そこにはなんと剣を持った礼奈がいた。
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「ルガプト伯爵、なぜ“こちら”にいるのでしょう?それに禁忌の子に手を出そうするなど、斬首刑ではすみませんよ。」
「承知しております。はあーー、貴方が来ることを予想出来なかったことが失敗ですね。」
「私が“こちら”にいることは貴族全員に伝えられているはずですが。」
「知っていますよ。ですがここまで早く来ることが予想できなかったので悔やんでいるのです。」
菜々は目の前の光景に、止まっていた思考が動き出した。けれど、何がどうなっているのか理解ができない。礼奈と『ルガプト伯爵』と呼ばれる男が話しているのを呆然と見ていると、礼奈が振り向き菜々の方に歩いていく。そして菜々に声をかけた。
「菜奈、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫。」
「とりあえず、説明は後でするから菜奈は家に入ってもらってもいいか?あれを帰らせた後で、戻るから。」
そう言って礼奈は、いつのまにか震えていた菜々の手を握った。
「礼奈は、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ。すぐ戻るからまってて」
礼奈は菜々の家のドアを開け、菜々の背中を少し押して家の中に入れた。菜々は目の前の家に入り、振り返る。ドアが閉まり切るまで礼奈を見ていた。
(礼奈はすぐ戻るって言ってたし、きっと大丈夫だよね。大丈夫、だいじょうぶ。)
菜々は玄関で自身の腕を抱きうずくまった。