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出会い


 意識を取り戻してから私は、ズキズキと痛む身体を引き摺ってある場所へと向かっていました。


 王都の外れにある小高い丘。そこが私の子供の頃からの一番のお気に入りの場所。夕焼けが王都の建物を照らし、まるで一つの風景画のような美しさを持っていました。


 「うっ……ぐすっ、うぅ……あぁあぁぁ」


 自然と涙が零れ落ち、頬を濡らしました。


 「なんで?私何も悪いことしてないよ?それなのに……それなのにぃ……あぁあぁぁ…」


 誰に届くというわけでも無い言葉を紡ぐ。そうする事でしか心を保てないのだと声を押し殺すように、嘆きの言葉が自然と口から発せられました。


 「うぅ……誰か……助けてよぉ……」


 拭っても拭っても、袖が黒く濡れ染まっても涙が止まる事はありませんでした。


 「もうやだ……死にたいよ……」

 

 ぽつりと呟いたその一言は一陣の風によりかき消されました。その時─────


 「何めそめそしてんのよ?」


 「え……だ、誰?……」


 キョロキョロと辺りを見回しても誰も視界には入ってはきませんが、確かに何かがいる気配はあります。


 「上よ!上!こっち見なさい!」


 「ふぇ……」


 頭上を見上げると、いました。緑の髪、透き通った羽、人の手のひらサイズの身長。


 とても珍しい妖精型の精霊がいたのです。


 「あたしの名前はシルフィード。風の精霊、シルフィードよ。で?あんたは?」


 え?ええ?…と


 「え…えっと……その……」


 「あんたの名前よ!名前!」


 な、名前?あ!自己紹介か!


 「ま、マリアでふ!」


 ひ、¦ひたひ……


 「……ぷっ!あはははは!な、何噛んでるのよ!」


 自己紹介を笑われたのが癪に障って、ついつい言い返してしまう。


 「ひ、ひどいです!そんなに笑わなくたっていいじゃないですか!」


 「ごめんごめん。でも元気そうな声出せるじゃない。なんであんなにめそめそしてたのよ?あたしに喋ってみなさいよ」


 私を気遣ってか、心を解きほぐすように春の朗らかな風のような笑顔を向けてきました。

 

 「実は……」


 私は今までの事を語り出しました。亡き母に憧れて学園に入学した事、精霊との契約に失敗した事、それが原因でイジメを受けている事、そして死にたくなっていた事を。


 途中で泣きそうになって話が止まる事もありましたが、彼女は根気強く話を聞いてくれていました。


 話終えた私に発した一言は衝撃的でした。


 「馬鹿じゃないのあんた?」


 「え……」


 「精霊との契約に失敗した?じゃあ何回も挑戦したらいいじゃない。十回でも百回でも。あんた何回契約に挑戦したのよ?」


 「に、入学の時の一回だけ……です」


 「イジメには抵抗したの?我慢してるだけじゃなかった?そんなんじゃ、こいつは何でも我慢する奴だって思われてつけあがるだけよ?」


 「我慢してれば…飽きて止めてくれるかなって……」


 「誰かに相談した事は?」


 「それは……心配かけちゃうし……」


 「あんたねぇ……イジメられてる方が心配に決まってるでしょうが!」


 「そうなの…かな…?」


 「そうよ!それに一番馬鹿なのはそんな奴らに屈して死のうとしてる事!死ぬ勇気があるなら何だって出来るわよ!」


 「精霊がいない?なら、そいつ等より強い精霊と契約して見返せ!イジメられてる?なら、そいつ等の顔面に拳をぶち込め!死ぬ勇気があるならその勇気を、別のものに向かわせなさい!」


 「でも…でもぉ……私…怖い……」


 今までの事を思い出すと身体が震える。手が悴んで体温は下がり、上手く頭が回らなくなる。目尻には自然と涙が溢れ、零れ落ちそうになる。


 私は植え付けられてしまったのだと思う、恐怖という種を。


 「……はぁ、いいわ。あたしが契約して何とかしてあげる。あんた、一人だと何も出来なさそうだし」


 震えて俯いていると彼女はそう声を掛けてきました。衝撃過ぎる言葉はなかなか頭の中に入っては来ませんでした。


 「え……いいんですか……?」


 「いいわよ、別に。あたし今一人だし、一人ぼっちとイジメられっ子で、丁度いいんじゃない?」


 「うぅ…あ、ありがとう…ございます……」


 「ほら!めそめそすんな!契約するから、手出しなさい」


 「はいぃ……」


 右手を差し出すと私の手に小さな手が重ねられ、淡い光が灯りました。涙で覆われた視界でも認識出来る暖かな光。


 「はい、契約完了。これからあんたとあたしは相棒パートナーよ。よろしくね、マリア」


 「よろしくお願いします……シ、シルフィ?」


 「何で疑問系なのよ。怒るわよ?」


 「なんて呼んだらいいか分からなくて……」


 「シルフィでいいわ。取り敢えず帰るわよ。案内しなさい、マリア」


 「帰るってどこに?」


 「あんたの家に決まってるでしょうが!このアホ!」


 「痛い痛い!ほっぺた引っ張らないでよシルフィ……」


 薄暗くなった帰り道はいつもより楽しい時間になりました。

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